30年ぶりの新入社員は19歳 平均年齢60歳の名物・潮かつおづくりの老舗に若い力 静岡・西伊豆町

 人口およそ7500人。駿河湾に接する町、静岡県西伊豆町。

画像1: 30年ぶりの新入社員は19歳 平均年齢60歳の名物・潮かつおづくりの老舗に若い力 静岡・西伊豆町

 人口およそ7500人。駿河湾に接する町、静岡県西伊豆町。

画像2: 30年ぶりの新入社員は19歳 平均年齢60歳の名物・潮かつおづくりの老舗に若い力 静岡・西伊豆町

 この町には、全国で唯一生産を続けている保存食があります。潮かつおです。一説には1300年以上も前から作り始めたと言われる潮かつおは、正月魚(しょうがつよ)と呼ばれる新年の縁起物で、 今が生産の最盛期です。

平均年齢は約60歳

画像: 平均年齢は約60歳

 明治時代から潮かつおを作り続けているカネサ鰹節商店。従業員は10人で平均年齢は約60歳。 高齢化という問題に直面しているカネサ鰹節商店ですが、今年、若い力が加わりました。

新入社員は、30年ぶり

カネサ鰹節商店四代目の芹沢里喜夫さん(82)が、その若い力を紹介してくれました。

「圭君。新しい人。19歳」

 なんと! 30年ぶりの新入社員です。彼はなぜ、潮かつお作りの道を選んだのか?

 潮かつおが作られている田子地区。かつてこの地区は、カツオの一大漁港として栄え、全盛期には50船以上のカツオ船が漁港に並びました。この地で潮かつおを作るカネサ鰹節商店の五代目、芹沢安久さん(52)です。

カネサ鰹節商店五代目 芹沢 安久さん:「もうすぐ創業140周年。西伊豆の田子地区で昔から鰹節と潮かつおを作っています」

東京からもお客さんが… 「一切れでビール2杯は飲める」

画像: 東京からもお客さんが… 「一切れでビール2杯は飲める」

 田子ぶしとも呼ばれるカネサの鰹節は、明治時代から変わらない製法で半年ほどかけて作られ、全国ブランドとして人気。    
 では、今が生産の最盛期だという潮かつおは…

カネサ鰹節商店五代目 芹沢安久さん:「潮かつおを干している。500匹弱。正月に飾る1匹物は11月から作って年末まで」

 潮かつおは、カツオの内臓を抜いて塩漬けにした保存食。 食べ方はそのまま食べたり、ダシに使ったり、調味料として使ったりと様々です。

 田子では、潮かつおを正月魚(しょうがつよ)と呼び、正月に潮かつおを飾って、その後、食べるという文化が今も残っています。

 そのため、今の時期は正月用として1匹物の潮かつおを生産しています。 1匹物は今の時期しか買えませんが、切り身など、お手頃な価格で買える潮かつおは1年を通して販売。

 取材中にも、県外から買いに来くる客が…

東京からの客:「潮かつおを網で少し炙る。一切れでビールを確実に2杯飲める」

潮かつおを使った町おこしの料理は…

画像: 潮かつおを使った町おこしの料理は…

 さらに、町内の様々な飲食店で食べられる料理が、町おこしの一品にもなっている「潮かつおうどん」。塩っけがある潮かつおですが、うどんに入れることで旨味が広がります。こちらの店ではご飯が付いていて、相性は抜群。

 かつては全国の漁村で作られていた潮かつお。しかし、保存食の需要が減ったり、減塩ブームなどで食生活が変化したりと、その数は減少。現在は、潮かつおを飾る文化が残る田子だけが潮かつおの生産を続けています。そんな状況の中で、カネサに新たな仲間が…
 
カネサ鰹節商店五代目 芹沢 安久さん:「若い方が働いています。今年高校を卒業して、今年入社した白川君。西伊豆町出身。白川圭19歳。うちも何十年ぶりの(新入社員)、次に若いのは僕。僕は52歳」

 実におよそ30年ぶりの新入社員です。白川さんを歓迎するのは、この方も…最年長の82歳で今も現役。四代目の芹沢里喜夫さんです。

カネサ鰹節商店四代目 芹沢里喜夫さん:「まじめで一生懸命やってくれます。ありがたい。なかなか 若い人が入らないです」

カネサ鰹節商店 白川 圭さん(19):「四代目について、この年になってもびんびんに働いている。いろいろと教わることも多い。すごいと思います」

圭君が潮かつお作りの道を選んだワケは

画像: 圭君が潮かつお作りの道を選んだワケは

 入社して7カ月が経つ圭君。潮かつお作りにどう関わっているのでしょうか? 圭君の仕事ぶりを取材しました。 カネサ鰹節商店五代目 芹沢安久さん:「きょうの仕事は? 潮かつおの半身を作る」

 乾燥し終えた潮かつおの半身。このかつおを切って、販売する重さに調整します。商品になる前の最後の大事な作業。この作業を圭君も担当。魚の目利きと共に、新人が最初に覚える仕事。

カネサ鰹節商店 白川圭さん:「1回1回測らないといけない。1匹1匹重さが違う」

 さらに、かつおの身が固いため、切るのが大変。五代目は、サクッと簡単に切っていますが、圭君は…。なかなか、スムーズに切れません。

 五代目は圭君が切った切り口にダメ出し。

カネサ鰹節商店五代目 芹沢安久さん:「ちょっとだけ斜めになっている。極端に斜めにしなければいい。斜めだと(身が)反り返る」

 斜めになり過ぎた潮かつおは切り身などで販売しますが、五代目から合格をもらえた潮かつおは、商品として実際に売られています。

 同級生が西伊豆を出て進学や就職をする中、圭くんはなぜ潮かつお作りの道を選んだのか?

Q.他の就職先は考えていた?
カネサ鰹節商店 白川圭さん(19):「地元が好き。地元に残ることは決めていました。(高校の時に)バイトでここに雇ってもらっていて、『働かないか?』と声を掛けてくれました。ここに決めました。(地元が)大好き。海が好き。家族がみんなこっちにいるので」

 西伊豆で生まれ、西伊豆で育ち、大好きなこの西伊豆で働きたかったという圭君。
  
 圭君がカネサ鰹節商店を知ったのは小学生の時。学校の社会科見学で、工場を訪れました。伝統を守り抜いている人たちの姿が印象的だったと言います。「自分も、伝統を守る一員になりたい」と、圭君は入社を決めました。

 頑張る圭くんに従業員は…。

従業員:「圭君を育てる。守りながら育てる」

カネサ鰹節商店五代目 芹沢 安久さん:「昔からある仕事を学びながら、楽しみながら『自分がやっていきたい』という仕事になればいい」

 30年ぶりの新入社員、圭君。潮かつおの文化に新たな1ページが加わりました。

カネサ鰹節商店 白川圭さん(19):「従業員の方も一生懸命に教えてくれます。それに応えられるように、『一人前になったね』とか言ってもらえるぐらい頑張りたいです」