「料理人」「経営者」さらに…4足のわらじで 老舗旅館を切り盛りする3代目 静岡・伊豆の国市

 静岡県伊豆の国市で創業65年を迎えた、老舗旅館「富嶽はなぶさ」。富士山を望む客室からの絶景と、地元・伊豆の食材を使った料理が自慢の宿です。

東京で5年間料理の修業

 旅館の3代目・花房光宏さん(36)。リニューアルオープンした2年前から、34歳の若さで、先代である父親から経営を任されるように。

画像: 東京で5年間料理の修業

花房さん:「ずっと料理をやってきたので、料理以外の経営のことは本当に素人なので、不安な部分はあった。いまはすごく前向きに楽しんで経営のことも勉強できている」

 料理人として、24歳から東京で5年間修業を積んだ花房さん。今は専務として経営の中心を担っています。「経営者」であり、「料理人」。ただ、肩書きに捉われずに仕事をすることが若き3代目の流儀です。

第3の顔は広報マン 動画の撮影も…

須藤誠人アナウンサー:「先ほどまでの白衣の格好から変わって大きな荷物を持って客室の方へ向かっていきます。これから何が始まるんでしょうか」

須藤アナ:「今これは何を始めるんですか?」
花房さん「今から動画の撮影を始めます」
須藤アナ:「動画の撮影ですか?」
花房さん「はい。お客さんが一番気になっているのは料理もそうだが、お部屋が一番気になっている。一番過ごす時間が長いので。来る前にこんな部屋なんだって予約してもらいたいなと思って」

画像: 第3の顔は広報マン 動画の撮影も…

 撮影した動画は自ら編集し、ホームページに掲載。「経営者」「料理人」に次ぐ、第3の顔。それが旅館の情報発信を担う「広報」としての仕事です。花房さんがPRに特に力を入れ始めたのは去年の春すぎのこと。3代目として歩み始め、手ごたえを感じていましたが…

 花房さんに突如、逆風が。コロナ禍で客足は激減。1カ月の売り上げが例年の1割以下になったこともあったそうです。

花房さん:「去年の4月、5月は見たこともない数字になった。なんとかしなきゃという気持ちと、なんとかなるのかという不安といろいろあった。(感染拡大前の)多いときは、1日の宿泊が50人とか60人ぐらい。以前は多くのお客さんでにぎわっていました。本当に一番良くなってきたところでコロナが始まったかなと」

Twitterやブログで情報発信を強化 多い日は1日10回も

 発信力がなければ、お客に来てもらえない。客足が遠のいたことで、そのことを強く意識するようになりました。花房さんはTwitterやブログでの情報発信を強化。頻度は多い日で1日10回ほど。長文の投稿も珍しくありません。

画像: Twitterやブログで情報発信を強化 多い日は1日10回も

 苦境で始めた取り組みは、少しずつ実を結び始めています。

県外(神奈川)からの宿泊客:「こちらのInstagramをフォローして、ずっと拝見していた。いつか泊まりたいと思っていた。それで今回予約を取らせてもらった」

料理のサブスクも… 「おいしかったから旅館に行ってみたい」という客も

 花房さんのアクションはそれだけではありません。「料理人」としても、旅館らしからぬサービスを始めていました。

花房さん:「定期便を始めて、あまり深く考えずにサブスク便っていう風に作っちゃったんですけど」

画像: 料理のサブスクも… 「おいしかったから旅館に行ってみたい」という客も

 去年6月に、花房さんが始めたのが「料理のサブスク」。サブスク=サブスクリプションとは、音楽の配信などでなじみが深い、定額制のサービスのこと。花房さんは5000円から1万円まで3段階で料金を設定し、毎月一度、自ら手掛けた料理や食材を配送しています。現在の会員はおよそ20人。反響の大きさに驚いているといいます。

花房さん:「(料理が)おいしかったから旅館に行ってみたいというお客さんがたくさんいますので、こういう風になるとは思っていなかったのでやってみてびっくりしました」

4つ目の顔は「ソムリエ」

 午後3時をすぎると、続々と宿泊客がチェックインを始める時間帯に。宿泊客に宿での楽しみを聞くと…。

富士市からの宿泊客:「天気いいですから外に出て腹を空かせて、夜おいしいものを食べると、それが楽しみですね」

夕食時、食事処の一角で、花房さんが手にしていたのは…。

須藤アナ:「花房さん今、口に含んでいましたけど、もしかして…」
花房さん:「はい、テイスティングをしていました。ソムリエの資格を持っています」

画像1: 4つ目の顔は「ソムリエ」

 こだわりの料理には、それにぴったりのお酒を。「ソムリエ」としての仕事が花房さんの4つ目の顔です。旅館で充実した時間を過ごしてほしい。花房さんのおもてなしの心は、お客にも伝わっているようです。

須藤アナ:「それはなんですか?」
花房さん:「これはお客様からのお手紙ですね。本当に行ってとてもよかったと、感激しました。すごく思い出に残ったのでまた行きたいですという温かい言葉がたくさん並んでいます。素敵ですよね、本当に素敵だなと思います」

「経営者」「料理人」「広報」「ソムリエ」という4足のわらじを履いて奮闘する花房さん。その姿に、父であり、社長の孝光さんは…。

画像2: 4つ目の顔は「ソムリエ」

社長:「(コロナ禍で旅館も)新しい時代になったということをアピールしないといけないし、発信の仕方は全然変わってしまったので、そういう意味ではものすごく助かってますね。実際には色んな部分でまだまだな部分もあるけれど。今は本当に戦力になっていると思いますよ」

花房さん:「いろいろと旅館の在り方が変わってきていると思いますし、次の時代に合わせて、自分なりにお客様とお客様がつながって富嶽はなぶさが待ち合わせ場所になったらいいなという風な思いがあって、そういう宿にしていきたいとずっと思っています」