【袴田事件】逮捕から57年…30歳の袴田さんは87歳に 再審開始の可否決定は13日…争点は5点の衣類の「色」 /今週の静岡
袴田巌さん:「年のことはよくわからん」
姉・ひで子さん:「健康に気を付けて長生きをさせたいと思う。せめて100歳ぐらいまでは生きてもらいたい」
1日平均12時間の取り調べ
1966年、旧清水市のみそ会社の専務一家4人が殺害された事件で、死刑判決を受けた袴田さん。当初、警察の取り調べに対し、明確に犯行を否認していました。
警察官:「生い立ち、素行、経歴、女関係、男関係、友人とかな、全てを調べ尽くして、お前さんに本日ここに来てもらったんだから」
袴田巌さん:「事件について俺、悩むことは何もない。なぜ俺がやらなきゃいけない。それを言ってごらん。なぜ殺さなきゃなんないんだよ」
取り調べは、夏の暑い部屋で、連日、1日平均12時間にも及びました。逮捕から20日。犯行を自供。しかし、裁判では一貫して無実を訴えてきました。
1審の裁判官が「無罪の心証」を告白
検察が、犯行着衣としているのが、裁判中に見つかった5点の衣類です。ところが…。
袴田さんの意見書
「ズボンは、私にまったくはくことのできないものである」
袴田さんがはくには小さすぎるサイズでした。そして、死刑確定から27年後。
熊本典道元裁判官:「僕の心の中では無罪と、無罪で間違っていないと思うけどね」
1審の静岡地裁で死刑の判決文を書いた裁判官が、無罪だと感じていたことを告白しました。
静岡地裁が再審決定「耐えがたいほど正義に反する」
2014年、静岡地裁が一度は再審=裁判のやり直しを認めます。さらに、村山浩昭裁判長は「これ以上拘置を続けることは、耐えがたいほど正義に反する」と述べ、袴田さんを、死刑囚のまま48年ぶりに釈放します。
その後、東京高裁はその再審開始の決定を取り消します。しかし、2020年、最高裁は高裁に審理を差し戻しました。
その“理由”が…
「5点の衣類について審理が尽くされていない」
5点の衣類は、犯行時に袴田さんが着ていたとされる血まみれの半袖シャツやズボンなど。最も重要な証拠です。事件から1年2カ月後に現場近くの工場のみそタンクから麻袋に入った状態で見つかりました。当時の捜査資料に記載された血の色は「濃い赤色」。この血の色について東京高裁がどう判断するかが再審可否の決め手となります。
弁護側鑑定人「赤みが残ることはない」
旭川医科大学の奥田勝博助教。弁護側の鑑定人として、1年以上みそに漬かった血液は「赤みが残ることはない」と主張。再審開始を訴える際に求められる、新しい証拠を示しました。
簡易実験:奥田勝博助教
「こちらのチューブには薄い塩酸を入れます。そうすると今赤いのがだんだん黒っぽく変わっていく」
「(中性の生理食塩水と)比べるとこういう感じで、黒っぽく変わっているという感じ」
奥田助教によりますと、血液を赤く見せるヘモグロビンというたんぱく質は、酸が加わると壊れ、黒っぽくなる性質があります。通常のみその環境は、弱酸性で塩分濃度が10%程度。血液をこの条件にさらすと、時間が経つにつれて赤みを失っていくと言います。
奥田勝博助教:「数日で赤みがないっていうのが、この実験からもわかるかと思う。10日も経つと真っ黒という状況になっている」
検察側「赤みが残る可能性がある」
一方、検察側は奥田助教らの鑑定に対し、みそタンクには酸素がほとんどないなどと指摘。長期間みそに漬けても赤みが残る可能性があると反論しました。
奥田勝博助教:「確かに酸素濃度が低いほど反応は遅くなるとは思うが、決して無酸素ではない」
奥田助教は、麻袋や衣類の隙間にも化学反応を起こすのに十分な酸素があったと主張します。
検察側も、おととし9月、血のついた布をみそに漬ける実験を開始。1年2カ月後に取り出した結果、「血痕には赤みが残る可能性がある」と反論しました。そして、奥田助教らの鑑定は、新証拠としての明白性が認められるものではないと主張。再審請求の棄却と、袴田さんを再び収監することを求めています。
袴田事件弁護団事務局長 小川秀世弁護士:「間違いなく再審開始は出していただけるだろうというふうに思っています。ただ袴田さん高齢ですし、これ以上長引かせることは絶対避けてもらいたい」
逮捕から57年。30歳だった袴田さんは今、87歳に。13日、高裁の判断が出されます。
(3月11日放送)