土石流の悲劇…死者・行方不明28人 被災地にオープンしたカフェに込められた思い 静岡・熱海市
熱海市伊豆山にオープンした小さなカフェ。名前は「あいぞめ珈琲店」。国道135号にかかる逢初橋のすぐ近く。カウンター席からは相模湾の絶景を見ることができます。
中野裕基さん「観光の方もそうですし、地域の方もそうですし、そこには年齢とか性別とか関係なく、いろんな方が交われる場所になればなって」
店長の中野裕基(なかの・ゆうき)さん。目指しているのは、誰もが気軽に立ち寄れる場所。コーヒーにもこだわりがつまっています。
コーヒーは、苦味の強い上級者向けから甘味のある飲みやすいものまで産地別に3種類の中から選べるようにしました。
さらに昔の喫茶店をイメージしたという厚切りのフレンチトーストも楽しめます。ほどよい甘さで、コーヒーとの相性も抜群です。
地元の客「おいしいですね。久しぶりに食べたから、フレンチト-ストは。昔はよく食べたけどね」
地元の客「おいしかったです。なかなかこだわりの珈琲店もあんまりないし。地元の人が気軽に行ける店って(伊豆山には)少ないから、ちょっと寄れるところがあるのはうれしい」
中野さんが伊豆山でカフェを開いた理由。それは…。
去年7月3日。伊豆山地区を襲った土石流。災害関連死を含む27人が亡くなり、1人の行方が分かっていません。熱海市によると102世帯、193人がふるさとを離れ、いまも避難生活を送っています。
発災直後から、取り残された住民に支援物資を届ける活動をしていた中野さん。その後、ボランティア活動を行っていた仲間と被災者を支援する団体「テンカラセン」を立ち上げました。
中野さん「災害が起きてそもそも近所の方との関係性がなくなっちゃったりとか、気軽に挨拶してた関係性が物理的にも出来なくなっちゃったっていうのがあるので」
活動の中で聞いたのは、話を聞いてほしいという住民たちの声でした。
中野さん「人と話す場所っていうのは必要だなと。この街で災害が起きて物理的にできない。なおさら必要じゃないかなと」
こうしてスタートしたのが、伊豆山に「コミュティカフェ」をつくるプロジェクト。
クラウドファンディングで資金を募り、民間団体の支援を受けながら、構想から半年かけて準備をしてきました。
大事にしたいのは…
11日。オープンを4日後に控えて行われたお披露目会。
近所の人たちや応援してくれていた仲間が続々と駆け付けました。
中野さん「忙しい方が楽しいですよね。人がいっぱいいるとなんかいいですよね」
人と人が交わる場所へ。中野さん自身もお客さんとのコミュニケーションを大切にしています。
中野さん「どう?お口にあった?」
地元の客「お主やるね!」
地元の客「いいですよ、これ!」
中野さん「コーヒー冷めちゃうって」
地元の客「すみません!いただきます。」
中野さん「やっぱり距離感とかそういうのは大事かなと思うので。別にコーヒーとか飲まなくても、何かちょっと話すだけでもいいかなと思うので。そこはちょっと大事にしたいポイントですね。」
被災者「話するだけでも落ち着く。そういう場所ができてありがたい」
岡本さん「(伊豆山が)にぎやかになるのはうれしいですよ。人が歩いてくださるっていうのがね」
こう話すのは岡本尚子(おかもと・ひさこ)さん。大量の土砂が流れ込み、経営するクリーニング店は被災。撤去作業に追われ、4カ月経って営業を再開できました。
岡本さん「そういう日常が戻ってきたいま、みんなで頑張ったよねって話ができるだけで、気持ちが落ち着く。そういう場所を提供してくれるってことは、すごくうれしいっていうか、ホッとする部分がありますね」
発災から9カ月。ようやく復興に向けた小さなカタチができました。
中野さん「これからスタートできる場所がやっとできたなっていう。場所を作って終わりじゃないので、やっぱりここに来る人がどうやったら来やすくなるとか、継続してここにこういう場所があるっていうのに意味があるかなと思うので。」
伊豆山に誕生したコミュニティカフェ。人と人が出逢い、つながる場所になるよう願いを込めて-。「あいぞめ珈琲店」の挑戦は続きます。
(4月16日放送)