首位陥落の静岡県の茶産業 農家の抱える課題とは 新たな取り組みを始めた若手農家も

茶の産出額が鹿児島県に抜かれ、守り続けてきた首位を奪われた静岡県。茶の栽培に見切りをつけて別の作物の栽培を始めた農家を取材すると、県内の茶産業が抱える課題が見えてきました。

ショックの中の新茶祈願祭

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首位陥落の静岡県の茶産業 農家の抱える課題とは 新たな取り組みを始めた若手農家も

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 3月、牧之原市で開かれた恒例の新茶祈願祭。ただ今年は関係者にショックが広がる中での神事となりました。

牧之原市茶業振興協議会会長
杉本基久雄市長:「非常に残念ですし、由々しき事態である。これを現実として受け止めなければならないと思います」

鹿児島県との違い…首位陥落の背景

2019年の静岡県内の茶の産出額は251億円と前の年に比べ2割減少。統計が残る1970年以降、初めて鹿児島県に抜かれ首位から陥落しました。
 鹿児島県では平らで広大な茶畑で、機械を用いた大規模生産をしています。一方、県内では勾配がある山で小規模に栽培する茶農家が多く、生産体制に大きな差があります。
 首位陥落の背景には茶の生産量が減少したことや需要が落ち込み単価が下がったことが指摘されています。

茶農家からの転身

原川朋華記者・「8年前まで茶畑だったシキミ畑には、このようにお茶の木がところどころに残っている」

 「シキミ」は仏壇や墓に供えられる植物で、温暖な山地などで栽培されます。
 静岡市の農家、清水稔さんは2世代にわたり50年以上茶を栽培し、茶工場も経営していましたが3年前に完全に撤退。代わりにシキミの栽培を始めました。

清水さん:「前は高級茶として山のお茶で作業が大変でも単価が良くて収入的には見合っていたが、それが単価が下落でかなり痛手を打って。一番の理由は収入。シキミの場合は年間需要で毎月出荷していけば毎月収入が入るが、お茶の場合は(年に)1回2回収入がボンと入ってもあとは収入で作業しなければならない」

撤退の要因は収入以外にも

茶の栽培では、一番茶が出回る5月後半の収入が年間のほとんどを占めます。一方、シキミはお彼岸やお盆、正月など需要が高まる期間が年に5回あり、安定して出荷できれば毎月収入を得られるといいます。
 現在は、もともと茶畑だった合わせて1ヘクタールにシキミなどを植え、関東や関西の市場に1束200円から400円ほどで出荷しています。

清水稔さん:「維持していくには、お茶以外の作物もやってお茶以外の収入を得ていく、そういうこともかなり考えて」

 収入面以外にも、茶農家特有の家族経営や重労働も撤退した要因だと話します。

清水さん:「お茶は家族、とくに奥さん・相方がいないとできない作業が多いもんですから。早めに年を取っちゃわないうちに切り替えたほうがいいじゃないかっていうふうに考えました」

茶に希望を見いだす若手農家も

一方で、茶の生産に新たな希望を見出す若手農家もいます。
茶の栽培をやめた清水さんの工場を引き継いだのが、片平さんら3人です。

片平次郎さん(37):「清水さんたちが辞めるっていう話でこれはいかんなと。こんな立派な工場が更地になってしまうというのは。話をしたらお前だったらいいよって言ってくれたので」

 片平さんたちは、これまでそれぞれが家族だけで茶の栽培を
営んできましたが、新たに3人で会社を運営し共同で工場を利用し始めました。家族経営にはないメリットが生まれたといいます。

新会社で共同運営

杉山忠士さん(20):「みんなで共有しながら機械とか、畑もみんなのところに手伝いに行ったり、自分のところに来てもらったり自分が行ったりっていうやりくりで、すごくうまく回っていて労働的にはすごく楽になった」

片平さん:「静岡が鹿児島がとかじゃなくて、もっと日本茶っていうもので戦っていくというか世界に広めていくものだと思っているから」

 これまで築き上げてきた静岡茶のブランドをどのように守っていくのか。茶業界の模索が続いています。