どうなるリニア(前) 南アルプス「環境保全」議論始まる 注目の「田代ダム」案も川勝知事とJR社長は「すれ違い」 静岡
大井川の恵みで…
川勝知事を訪れたのは、藤枝市の酒蔵「初亀醸造」と焼津市の「磯自慢酒造」の社長。今年ロンドンで開催されたワインの品評会でのトロフィー獲得を知事に報告しました。
静岡県 川勝平太知事(8日):「これは厳正な審査を受けたワインのコンクールでの、堂々たるトロフィーですから、静岡県の誇りということです」
世界で評価された静岡の酒。いずれも「大井川の水」が欠かせません。すると自然と話は『あの話題』に。
初亀醸造 橋本謹嗣社長(8日):「静岡は酒処・吟醸処という形で世界にPRできたら本当にうれしいなと思いますよね」
静岡県 川勝平太知事(8日):「本当にうれしいですよ。しかもこれ…、なんていう川の恵みでしたっけ?(笑)。大井川ですよ。地下水ですよ。これが水質がいいということで、中流側の岡部ですよね、そして下流の焼津とそれぞれ腕によりをかけてつくられた芸術品ですよね。今すごい、いじめられているでしょ、(南アルプス)トンネルの件で。もうちょっと工夫すればというとこで。6月6日付、斉藤鉄夫国交大臣閣下に川勝から手紙を書きました」
「南アルプスルート決定は不透明」と主張
6日に川勝知事が国交大臣に出した「手紙」。その中にはこの様に記されています。
(抜粋:国交大臣に宛てた手紙)
『南アルプスについては巨摩山地北中部が回避された理由よりも、はるかに厳しい回避するべき条件が指摘されています。にもかかわらず、なぜ回避されなかったのか。明確にして公表する様に、JR東海に厳しくご指導をお願い申し上げます』
遡ること4月。静岡県の専門部会でJR東海は「地質がぜい弱」とされ回避することになった山梨県の巨摩山地を通るルートを、南アルプスルートと比較した資料を提示。
ただ、静岡県は、南アルプスルートのほうが大量の湧水など『より厳しい』条件だとして、南アルプスルート決定に至った経緯の不透明さを主張しています。
静岡県 川勝平太知事(8日):「ひょっとすると、これは大事になって、とんでもない形でルートが決まったと」
磯自慢酒造・寺岡洋司社長(8日):「素人考えで、わざわざアルプスのほうへ曲がっているんですよね、下へ。逆に上(山梨側)へ持っていっちゃえばね」
静岡県 川勝平太知事(8日):「上に持って行く時にね、その上にあるのが土質が悪い、土被りが多い、突発湧水が出るということで南に持って行くと言ったわけです。ところが南については「大丈夫だ」と書いてあるだけだった。ところがその後、しかるべき調査がなされると、突発湧水は出るわ、北を避けた理由よりももっと厳しい条件があるんですよ。本来なら避けないといけない。下に持ってくるどころか、元々のルートの所に持って行くのが筋です」
磯自慢酒造・寺岡洋司社長(8日):「環境は取り戻すことができませんのでね、自然界ですから」
静岡県 川勝平太知事(8日):「まぁ…、ちょっと話があまりこうやって…、お酒はいいから(笑)」
南アルプス「環境保全」がテーマの国の有識者会議
川勝知事が県庁で懇談をしていたのと同じ頃、都内では…
国土交通省 上原淳鉄道局長(8日):「JR東海の様々な説明に対して、静岡県をはじめとする関係者の納得が得られない状況が続いたことから、今回この有識者会議におきましては、新たな委員構成のもとで、リニア中央新幹線静岡工区における生態系等の環境保全に関する議論を行い、これを踏まえて引き続きJR東海に対して指導・助言を行なってまいりたいと考えております」
8日、南アルプスの「環境保全」がテーマとして始まった国の有識者会議。委員を務めるのは河川や環境などの専門家8人で、そのうち3人は県の専門部会の委員です。
岸田文雄総理(5月28日):「静岡県からの要請を受けて、環境保全に関する国の有識者会議、これを速やかに設置したいと思います。水資源対策と合わせて、課題解決に向けた取り組みを進め、環境整備に努めていきたいと思っています。リニアの取り組みを政府としても、しっかりと支援していきたい。このように思っています」
静岡県 川勝平太知事(1日):「本当に良かったと思う。その中で国交省が全然やってくれないということで、岸田総理がああいう発言をして頂いて、まさに打てば響くような形で返ってきたので、南アルプスの生態系にどのような影響、悪影響が及ぶのかという事を、しっかりと議論していただきたいと思っていて、大変ありがたく思っています」
岸田総理の明言から1週間余りで開催に至った有識者会議。秋ごろまでに関係者へのヒアリングや現地視察を行う案が示されました。
静岡県 難波喬司理事(8日):「座長から非常に丁寧に進めていくような方向性が示されましたので、しっかりとした検討や議論がされるのではないかと期待しております。その一方でこの問題は2017年に環境影響評価が行われて、国土交通大臣意見、環境大臣意見が出ております。その後、JR東海から十分な環境影響評価、追加的な調査が行われていないことが、問題の根本にありますので、しっかりとそこを議論していただくとか、ご指導いただくのが大事じゃないかと思っております」
南アルプスでの工事で懸念される様々な影響。その中の1つ、「水問題」で注目が集まっているのが「田代ダム案」です。
静岡県 川勝平太知事(5月25日):「これはトンネル工事とは別です。これはJR東海さんの力による地域貢献の1つということで、これが本当に戻ってくるなら、これはもう本当にありがたく感謝したいと思います」
JR東海 金子慎社長(5月27日):「提案の目的は地域の皆さんの水利用に対する懸念の解消であります。そういう目的に立ち戻って理解をしていただきたいと思います。私のほうから『地域貢献のため』というふうなことを申し上げたことはありません」
「地域貢献」という言葉をめぐり攻防が繰り広げられているこの「田代ダム案」。大井川上流に位置する田代ダムでは、大井川の水を取水して山梨県早川町に水を送り、水力発電をしています。
実はこの案の提案者は山梨県の早川町長だといいます。
山梨県早川町 辻一幸町長:「発電所で電気を起こしている部分だが、それを(静岡工区の工事で)減る分だけ返すことができないかと、1年以上前から工事の地元として提案してきた。水の問題もよく分かりますので、思い切って訴えたわけです。JR東海はそれに対して、東京電力との交渉の中で静岡県へ提案したというのが、きょうの時点だろうと思っています。
静岡朝日テレビの単独取材にこう答えた早川町長。ところが川勝知事は以前…。
静岡県 川勝平太知事(5月25日):「早川町の町長、東京電力の方々、一滴の水も譲らないと言われました」
(6月11日放送)