法廷に響く遺族の泣き声…静岡県三島市の「死亡事故」裁判で猶予判決

藤井章人記者:
「主文が読み上げられると、裁判に出席した遺族は落胆した表情を見せました。その後、法廷内には遺族の泣き声が響いていました」

画像: 法廷に響く遺族の泣き声…静岡県三島市の「死亡事故」裁判で猶予判決

3月15日、静岡地裁沼津支部で判決を迎えた注目の裁判。被告の48歳の女に禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決が言い渡されました。しかし、結果は遺族が望んでいた実刑判決ではありませんでした。

遺族:「本当に残念としか言いようがない。本当に悔しくて、納得いかない。私たちが声をあげなければ、父が加害者として扱われたままだった。ようやくここまでこれたのに、執行猶予付き判決で終わってしまうのであれば、今後、こういった事故で大事な方を亡くされた遺族や被害者の力に、全くならないと思う」

警察は「お父さんが、無理に右折して衝突した」

この日を迎えるまで、真実を追い求めた遺族の2年以上におよぶ長く苦しい日々がありました。

 子ども4人と妻を残し、交通事故で亡くなった50歳の男性。おととし1月22日、原付スクーターで帰宅していた男性は、静岡県三島市の交差点で、乗用車にはねられました。

 遺族に対して警察は「大通りをスクーターで直進していたお父さんが、無理に右折して衝突したのは間違いない」と説明しました。

男性の長女(28):「その場にいた家族はみんな『えっ?』て、それは絶対におかしいと思って」

 事故当初、警察は大通りを走行する乗用車の対向車線からやってきた男性が、交差点で無理な右折をしたため事故が起きたと説明しました。

遺族が目撃証言を集め…

 ただ、遺族はこの説明に納得がいかずビラ配り、ポスティングなどを行い、自力で集めた目撃証言や防犯カメラ映像を警察に提出しました。

男性の長女(28):「『警察だって根拠があって判断したんだから覆らない』とたくさん言われてきて、心が折れそうなことは何回もあって。もっと慎重に捜査して、報道発表してもらいたかったと思います」

そして、事故から9日後。警察は、沼津市の当時会社員の女を逮捕しました。

初公判 被告「青信号を確認した」と無罪主張 ところが…

ただ、去年5月28日の初公判では…。

被告:「青信号を確認して、交差点に進入した」

 被告は、交差点の信号は青だったと訴え、無罪を主張。争点は、当時の交差点の信号の色に絞られました。しかし、去年10月に行われた第2回公判で、事態は急変。

被告 第2回公判:「青信号というのは、私の思い違いです」

 これまで一貫して「青信号」を主張してきた被告が、自らの信号無視を認めたのです。

「真摯に反省しているとは言えない」が「2度と運転しないと誓っている」

そして、15日の判決公判。静岡地裁沼津支部の菱田泰信裁判長は、被告側の信号機が「赤色」だったことを認定。基本的な注意義務を怠った被告の刑事責任は重いとしました。また、カーナビの記録から「赤信号」が確認されてからも、被告は「あくまで青色だと見間違えた」と客観的事実に反する供述をするなど、真摯な反省がされているとは到底言えないとも指摘しました。一方で、2度と運転しないことを誓っていることや単純過失の交通死亡事故の判例などから、実刑が相当とまでとは言えないとして、禁錮3年、執行猶予5年の判決を言い渡したのです。

遺族「こんなにも交通事故の罪は軽いのでしょうか」

判決後、取材に応えた男性の遺族は…。

Q.判決が出て、執行猶予のところで悔し涙を流したと思うが、あのときどういう気持ち?

男性の長女(28):「正直、きょうの判決は実刑になると期待していた。なので執行猶予が読み上げられた時には、何も私たちの気持ちは酌んでもらえなかったんだな、残念な気持ちになった」

男性の次女(25):「私たちの家族は、もう父に会うことが出来ません。こんなにも交通事故の罪は軽いのでしょうか」

男性の長男(26):「私たちは、悲しむ暇もなく、この2年間を必死に必死にやってきたが、このような判例主義に逸脱することの出来ない裁判であれば、本当に意味がないと思う」

 遺族側は、検察に控訴するようを求めるということです。

男性の長女(28)
「やっぱり今まで声をあげられなかった被害者遺族の方、泣き寝入りを強いられた方が、たくさんいると思う。これからもそういう方が大勢いると思う。今回の判決は本当に残念だが、私たちのような思いをする人が増えないようにできることをしていきたい」