店内はバリアフリー、介護食でフルコースを…原点は介護現場で見た「苦い記憶」 浜松市

 浜松市のレストラン「食楽工房」。フレンチをベースとした洋食を地元の食材にこだわって提供するお店です。

画像1: 店内はバリアフリー、介護食でフルコースを…原点は介護現場で見た「苦い記憶」 浜松市

 オーナーシェフの古橋義徳さん。目指しているのは誰でも楽しく料理を味わえる店です。

Q.このレストランはどういう特徴がある?

「食楽工房」オーナーシェフ 古橋義徳さん(69):「駐車場からテーブル席・カウンター席まで段差なくいくことができます」

須藤誠人アナウンサー:「お店の中に入っても、スムーズに何の問題もなくテーブル席に着きましたね」

画像2: 店内はバリアフリー、介護食でフルコースを…原点は介護現場で見た「苦い記憶」 浜松市

 店内は車椅子でも利用できる、バリアフリーデザイン。

介護食のフルコース

 『誰でも楽しく』の思いは、もちろん料理にも。古橋さんが力を入れているのが、かんだり飲み込んだりする力が低下した人でも楽しめる、介護食のフルコースです。

画像: 介護食のフルコース

須藤アナ:「まずこちらが魚の料理がメインとなるフルコースです。フレンチだけあって豪華な盛り付けですね…。そして、こちらが、嚥下食のフルコースとなります。通常のものと同じように、メイン、前菜、そしてデザートまでそろっています。何よりも彩りが華やかで見た目からも料理が楽しめます」

画像: 須藤誠人アナ

須藤誠人アナ

 
 
 介護食は通常のコース料理を一つ一つミキサーにかけて、ムース状に固めて作ります。こだわりは色だけでなく形にも。付け合わせのニンジンも型を使って整えています。

須藤アナ:「嚥下食のムニエル。見た目からはちょっと考えられないですね。おいしい、ムニエルの少し焼いた香ばしさもほんのり香ってきます、さらに飲み込みやすいです」

味のポイントはミキサー前のひと工夫

 この味を出すポイントは、料理をミキサーにかける前のひと工夫にありました。

「食楽工房」オーナーシェフ 古橋義徳さん(69):「肉も魚もフライパンでソテーして、気持ち、きつね色、若干強めに焼いて香りづけでワインで臭みを飛ばして、それをミキサーにかけます」

 ミキサーを担当するのは、古橋さんの妻、たず子さん。ここにも風味を引き立たせるひと手間が。

「食楽工房」マネジャー 古橋たず子さん(68):「例えばヒレとか鶏のささみとか脂っけがないので、私としてはもう少し滑らかさが欲しいなと思うと、生クリームを入れたり工夫をしている。おいしく食べてもらうにはやっぱり味見して自分がおいしいなと感じるようになるまで味を整えるようにしている」

 古橋さん夫婦のこだわりの介護食を求めて、店に足繁く通う人たちも。羽倉さん親子もそのうちの一組です。

羽倉八重子さん(88):「きょうは楽しみにして来た。私は歯が悪いので こういう柔らかい物しか食べられません。ここではそれを作ってくれるので、それでこちらに。外食するならこちらに来ます」

羽倉多恵子さん(60):「カレンダーにも書いてね、あと何日あと何日って。肉にしても野菜にしても魚にしても一緒のものが食べられておいいしねって共感できるのが、違うものでなく同じものを食べるのがうれしいなって思います」

店を訪れる客は、市内だけにとどまらず…

県外から来た障害者の母親:「きょうは県外から来ました。食というのは命にも関わってくることで、すごく気をつけてくださって、手をかけてくださっているので、安心して食べられるというのがある」

介護食のフルコースを生んだ「介護の現場」

 『誰でも楽しく』をかなえる、介護食のフルコース。 その誕生の背景には、古橋さんが介護の現場で見た苦い記憶がありました。

「食楽工房」オーナーシェフ 古橋義徳さん(69):「みそ汁とごはんとおかずがいっぺんにミキサーにかけたり、どうしても黒いものが入っているとまっ黒くなるんです、料理が。『これは料理じゃない』と思った」

 20代のころ、障害者施設を定期的に訪れて料理を振る舞い、その後、料理長を務めた宿泊施設でも介護食がどうあるべきか、向き合ってきた古橋さん。そして、12年前に開いたのが「食楽工房」です。

「食楽工房」オーナーシェフ 古橋義徳さん(69):「もし自分でできるなら、みそ汁はみそ汁、ごはんはごはん、おかずはおかずで3種類に分けて提供したいという思いがありました。確かに手間と時間はかかるが、それだけの見返りは体で感じます。お金も大事だが、本当の笑顔で返してくれるので、『やっていてよかったなあ』と思う」

教室開いて介護食を普及

 「自分の店以外でも、おいしい介護食を食べられるようにしていきたい」。そんな思いで古橋さんが引き受けたのが、おいしい介護食の作り方を教える介護食教室です。

 平日、午後7時からの教室には、介護の現場で働く人や家族の介護が必要になった人など13人が集まりました。

画像: 教室開いて介護食を普及

介護食教室に参加した50代女性:「ケアマネージャーという仕事をしていて、介護食というと見た目があまりおいしそうではないものが多いが、利用者にお伝えできることがあれば、参考にできればと思って参加した」

介護食教室に参加した60代男性:「おふくろが年明けにくも膜下出血で倒れて…。今は病院にいるが、どういう介護になるかわからないが、勉強しておこうかと」

 この日、古橋さんが教えるのは、店で提供しているタマネギのムースです。

参加者「クニャクニャっとしたら…」
古橋さん「ええ、そうですね」

最後は参加者たちが完成品を試食、そのお味は…。

介護食教室に参加した60代男性:「タマネギの風味もあって、なめらかで介護食としてはものすごくいいと思う。(母に食べてもらったら)これは喜びますよ」

「食楽工房」オーナーシェフ 古橋義徳さん(69):「各地域地域でやっていただける方がいれば、レシピなどを提供したいと思う。人生が終わるまで、食事は一番大事な作業で喜びだと思う。それを、できるだけ多くの方に味わっていただきたい。まだ、始まったばかりです。これからも自分の分かっていることは全部教えていきたいと思う」