コロナ禍で命を救え 静岡県内初の民間病院の「救急車」に密着…取材中に出動要請が 静岡・焼津市
従来から、高齢化に伴って年々増加傾向にあった救急車の要請。そこに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスです。病院でのクラスター発生を警戒し、発熱や肺炎などの症状がある患者の受け入れを拒否する病院も多く、都内ではたらい回しにされるケースが出ています。
2台の「病院救急車」を導入
そうした中、焼津市の民間病院「甲賀病院」では、去年5月に県内で初めて、2台の「病院救急車」を導入しました。
須藤アナ:こちらが救急車ということですけど、よく見たらしっかりとサイレンが付いていますね。
甲賀病院 伊藤康太郎救急救命士:「緊急自動車として登録していますので、サイレンと赤色灯は必須になっています」
須藤アナ:サイレンがあるということは、赤信号もわたって行ける?
甲賀病院 伊藤康太郎救急救命士:「そうですね」
須藤アナ:そこは他の救急車とは大差ない
甲賀病院 伊藤康太郎救急救命士:「まったく変わらないですね」
車内には様々な器具が
車内には、脈拍や血圧やといったバイタルサインの計測機器や、骨折や止血が必要な患者のための包帯やガーゼ類、呼吸困難時の酸素ボンベなど医療用具一式を搭載。移動中の応急処置も可能です。それらに加えて、コロナ禍で欠かせないのが感染対策です。
甲賀病院 伊藤康太郎救急救命士:「ビニールがありますけれども、感染対策用のビニールで、感染が疑われる方の時は(ビニール)を下ろして、患者さんを隔離させることが出来るビニールシートになっております」
新型コロナ感染が疑われる発熱や咳などの症状がある患者も多く、救急救命士は、自らを守りながら、命を守る最前線に立ち続けています。
通常、救急車を呼ぶときは119番ですが、甲賀病院の救急車を呼ぶ場合は直通の専用番号を利用。主に軽症者の搬送を担い、消防の負担軽減の役割も担います。出動エリアは病院周辺の5つの市や町で、24時間誰でも利用可能。消防の依頼を受けて、代わりに出動することもあります。
取材中、出動要請が
取材をしていると、病院に連絡が-。
須藤アナ:「午前11時30分です。搬送の依頼の連絡が入りました。これから甲賀病院の救急車が出動します。しっかりと感染症防止対策を行った上で現場まで、同乗させていただきます」
●移動中の車内で
須藤アナ:これから向かう現場ってどちらですか?
甲賀病院 杉崎徹救急救命士:「吉田町にある当院の関連施設(介護老人保健施設)になります。本日の午前3時に施設内で転倒されて、頭とかの心配はなさそうなんですが、左肩が腫れてきているということで、当院の方に要請が入りました」
救急車が向かっているのは吉田町にある介護施設。看護師が常駐していて、患者の症状については聞き取りを済ませています。
●移動中の車内で
須藤アナ:コロナ対策はどういったことを行っているんですか?
甲賀病院 杉崎徹救急救命士:「関連の施設であればPCR検査を行って(陰性が確認されて)から出動しています。それ以外の一般家庭の場合は、完全防護をした上で出動、病院に到着した後、院内に入る前にコロナウイルスの抗原検査を当院の救急車内で実施して、陰性を確認してから病院内に入るという形をとっております」
須藤アナ:もし、そこで陽性が出てしまった場合はどうなるんですか?
甲賀病院 杉崎徹救急救命士:「患者さんを救急車から出さずに、基本的には保健所の指示があるまで、救急車内で待機します。ただ、少なくとも、その間確実に救命救急士がご本人と一緒にいますので、そういった意味で患者さんの不安を少しでもとることが出来ればと思っております」
コロナ禍で不可欠な防護服
コロナ禍の救急救命士にとって、防護服は不可欠な装備です。
須藤アナ:神経をすり減らしての仕事になりますよね
甲賀病院 杉崎徹救急救命士:「もちろん、怖いものは怖いんですけど、(新型コロナが)何もわからなかった頃に比べると、少しずつウイルスの詳細が分かってきて、今ワクチンの話も出ていますから、怖さは変わらないですけど、得体のしれないものと戦っているという感じはなくなりましたね」
出動から30分、要請があった介護老人保健施設に到着しました。
須藤アナ:こちらの施設に入ってから5分ほど経って、救急救命士、そして患者の方が出てきました。これから救急車の中へと運んでいきます。
甲賀病院 杉崎徹救急救命士:「気持ち悪い感じはない? めまいとかもない?」
出発前に、救命救急士が症状を確認します。
須藤アナ:こちらの施設に到着してから10分も経たない内に、患者さんを救急車の中へと運び、熱、血圧を測って、これから甲賀病院へと出発します。
甲賀病院の「病院救急車」は現在、1カ月に70回ほど出動。運用開始当初は月17回しかなく、出動要請は増加しているといいます。
甲賀病院 杉崎徹救急救命士:「病院着きましたよ。着いた」
通常、消防で働く救急救命士は、患者を病院へ運ぶまでが主な仕事。しかし、病院救急車に乗る救命士は医師や看護師とともにその後の処置も一緒に行います。そうすることで、より連携のとれた医療処置が可能になるといいます。
実は救急車の運用はすべて甲賀病院の持ち出し。にもかかわらず、なぜ民間で救急車を持つことにしたのでしょうか。
甲賀病院 甲賀美智子理事長:「1人で暮らしをしておられる患者さんが多いことと、だんだん高齢になられて、自分1人でタクシーを呼んだり、救急車を呼んだりするのが困難であったり、消防救急車の場合ですと、誰か近親者が乗っていないといけないんですね。誰も暮らしていない場合は、わざわざ「遠くに住んでいる姪を呼んで乗ってもらった」とかそういうことがあるので、一人暮らしの方でも簡単に来られるように出来たらいいなと思って救急車の導入を考えました」
地域医療の視点からも、病院救急車が果たす役割は大きいといいます。
甲賀病院 甲賀啓介院長:「普段から問題になっていたのは、非常に気軽に救急車を使い過ぎて、三次救急を担う先生であるとか、その病院のスタッフが疲弊してしまうという背景があったんですね。本当の超重症でないようなところを、うちが担うことで、本当の重症の患者さんに三次救急の先生たちが集中できる事は医療の効率性の点からは非常にいいと思います」