袴田事件の「今」 再審を求め続ける姉・ひで子さんと弁護団 東京高裁の判断は3月か
「死刑囚」のまま48年ぶりに釈放
吸い込まれるように自動販売機に近づき、何度も栄養ドリンクを買ったり、それを数分、じっと見つめたり…。
長い監禁生活と死刑と隣り合わせの恐怖から、幻覚や妄想の症状が出ています。
1966年、旧清水市でみそ会社の専務一家4人が殺害されました。
警察はみそ会社で働いていた袴田さんを逮捕。
袴田さんは裁判で無罪を主張しましたが、1980年に死刑が確定しました。
その後、再審=裁判のやり直しを求め続け、2014年、静岡地裁は再審開始を認めます。
裁判所は「これ以上、拘置を続けることは、耐え難いほど正義に反する」と指摘。
袴田さんはこのとき、「死刑囚」のまま48年ぶりに釈放されたのです。
地裁の決定は、2018年に東京高裁に取り消されましたが、その2年後最高裁が審理の差し戻しを命じました。
現在は、東京高裁で再審を開くかどうか争われています。
袴田巌さんとひで子さん
釈放からおよそ9年。
袴田さんは、姉のひで子さんと浜松市で生活しています。
袴田さんは6人きょうだいの末っ子。
ひで子さんは3歳年上で、一番年の近いきょうだいです。
ひで子さん:
「はい。これ着て」(帽子かぶる)
ひで子さん:
「はい、いってらっしゃい」(車へ)
支援者の車で外出するのが最近の日課です。
この日来たのは、遠州灘に面した「道の駅 潮見坂」。
クリームパンをほおばり、あたたかいお茶でいっぷく…。
みそ漬け実験と三者協議
事件をめぐって、弁護側は、証拠の1つ、袴田さんが犯行時に着ていたとされる「5点の衣類」は捏造されたものだと訴えています。
「犯行着衣とされる『5点の衣類』」
弁護側が着目しているのが、衣類に付いた「血液の色」です。
事件の1年2カ月後に工場のみそタンクから見つかった5点の衣類。
当時の鑑定書や調書には、付着していた血液について「赤」だったと記されています。
しかし、弁護側は、繰り返し行った実験結果から、血液がみそに長い間漬かっていると「黒っぽくなる」と主張しています。
一方、検察側も今回、血液を付けた布を1年2カ月間みそに漬ける実験を行いました。
検察側は「長期間みそに漬けられた血痕に赤みが残る可能性を十分に示すことができた」と主張。
袴田さんを再び収監することを求めています。
西澤美和子弁護士(11月2日):
「弁護団としては、一見して赤みが感じられないという程度に色調に変化をしているというふうに考えている」
去年12月、弁護側と検察側がそれぞれ、最終意見書を提出し、東京高裁での審理が終了しました。
西嶋勝彦弁護団長(12月5日):
「開始決定になるだろうと思う。それ以外に考えられない」
東京高裁は3月末までに再審を始めるかどうか判断することにしています。
1月25日の袴田さんとひで子さん
1月25日ー。
記者:
「きょう寒いですね」
袴田巌さん:
「うん」
記者:
「寒いですけどこれからお出かけ行かれますか?」
袴田巌さん:
「出かけなあしょうがない」
大寒波に見舞われても、袴田さんはいつも通り外出の準備を進めます。
袴田巌さん:
「東京へいかなあしょうがない」
記者:
「東京?」
袴田巌さん:
「東京、狭山事件の問題で」
1963年、埼玉県狭山市で女子高生が誘拐され殺害された、いわゆる「狭山事件」。
無期懲役刑が確定し、えん罪を訴えている石川一雄さんは、袴田さんにとって東京拘置所で一緒だった仲間です。
ひで子さん:
「2、3日前から石川一雄さんのどうのこうのって言っている。続くのよこれがね。熱海でも東京でも行くって言うと1週間か10日くらい続くの」
袴田さんの全てを受け入れるひで子さん。
ひで子さん:
「今のところ何とも言えないけど、56年闘ってきたから、ここらへんで一区切りつけてほしいと思う。再審開始を願っているけど、まあ決定が出てみないとわからない」
記者:
「巌さんも3月に出ることはわかっているんですか?」
ひで子さん:
「それははっきりはね。うすうすは報道やらで分かっていると思うけど、改めては話はしていない。裁判のことは。事件のことは一切話はしないのよ」
東京に行くと言っていた袴田さん。
結局、支援者の車で浜松市内のショッピングセンターや公園を訪れました。
東京高裁の判断が出る可能性が高い3月、袴田さんは87歳になります。