ごみを「肥料」に…溶融スラグ全国初の肥料登録 地面の埋め戻しに利用も工事が減り活用法を模索 静岡市/浜松市

 壊れた傘に、炊飯器。携帯や電気製品のコード類まで…。私たちが生活する上でどうしても出てしまう、ごみや不用品。何の変哲もないこれらのごみが、実は今、新たな『資源』として注目されています。

画像1: ごみを「肥料」に…溶融スラグ全国初の肥料登録 地面の埋め戻しに利用も工事が減り活用法を模索 静岡市/浜松市

 静岡市葵区にある、西ケ谷清掃工場。家庭から出る可燃ごみを中心に、年間11万トンを焼却処分しています。ここでごみを焼却する過程で出てしまう廃棄物が6月、全国で初めて農林水産省に農業用肥料として認定されました。

画像2: ごみを「肥料」に…溶融スラグ全国初の肥料登録 地面の埋め戻しに利用も工事が減り活用法を模索 静岡市/浜松市

燃え切らない「燃え殻」を溶かし…

松田和佳アナウンサー:「こちらが農林水産省に肥料として認定された溶融スラグです」

 ごみを焼却すると、完全には燃え切らない燃え殻が出ます。その燃え殻を溶かし、冷却することで出来上がる「溶融スラグ」。原料はごみだけ。それが農作物を育てる肥料として生まれ変わっているのです。

 気になる製造工程は…。

松田アナ:本当にまぶしいぐらいに燃えているんですね。

静岡市西ケ谷清掃工場 久保田良一主査:「すごいですよね、溶けていますからね。あれが元はごみなので」

 勢いよく炎が立ちのぼる、ガス化溶融炉。およそ1700℃の超高温で、一般の焼却炉では燃え残ってしまうごみも熱分解できます。

静岡市西ケ谷清掃工場 久保田良一主査:「この下に見えないが、大きな水槽があって、そこで冷やされて溶けたものが水で急速に冷やされてスラグになる。高温で溶けているので、ごみの悪いもの(有害物)とかは全てガス化して気化する」

 高温で溶かす過程で有害成分が取り除かれるため、高品質で安全なのも特徴です。

画像1: 燃え切らない「燃え殻」を溶かし…

静岡市西ケ谷清掃工場 久保田良一主査:「こちらが先ほど見たごみから出てきたスラグを貯めるスラグの山。ご覧ください。もうこれ砂ですよね」

松田アナ:本当に触り心地も砂ですね、完全に。

久保田さん:「砂ですよね。これが元はごみなんです」

松田アナ:さっき溶け出したものの最終形態?

久保田さん:「これが最終形態になります」

画像2: 燃え切らない「燃え殻」を溶かし…

 こちらの施設で生成される溶融スラグは、年間およそ1万5000トン。一粒あたりの大きさは、ほぼ均一です。その特性から、工事で掘った地面を埋め戻す建設材料としても活用されています。こちらで作られた溶融スラグは静岡市の上下水道の工事などで使われているそうです。

 そして、今後期待されているのが農業用の肥料としての普及です。

静岡市西ケ谷清掃工場 久保田良一主査:「最近だと上下水道局や国の工事も少なくなる一方なので、このスラグの行き先というか、新しい使い道・活用方法として肥料化の話が出てきた形。清掃工場は、世間ではあまり喜ばれる施設ではないが、こうしたところで肥料とかに活用出来たり、環境に寄与しているとか、そういったことがPRできることがうれしい」

画像3: 燃え切らない「燃え殻」を溶かし…

溶融スラグの肥料を使う農家は

 県内にはすでに溶融スラグの肥料を使って育てられた作物が―

画像1: 溶融スラグの肥料を使う農家は

 浜松市浜北区で、主に酒米を生産している農家の野末典秀さん。その酒米は浜松市の酒蔵「花の舞酒造」でも、日本酒づくりに使われています。

ノズエファーム 野末典秀さん:「こちらが溶融スラグを使った田んぼです。まだ6月4日に植えたばかりで苗が小さいですが、今後の成長を楽しみにしている」

 野末さんは1年前から溶融スラグの肥料を使い始めたそうですが、稲の育ちに変化を感じているといいます。

画像2: 溶融スラグの肥料を使う農家は

ノズエファーム 野末典秀さん:「幹が丈夫になったなと感じる。結局、米って頭が重いと倒れやすくなる。だけど幹が強くなることで頭を今よりも重くできる。粒をたくさん作るのではなくて、一粒ずつを大きくする。今までとは違う作り方に挑戦できるかなと」

 溶融スラグの肥料には、ケイ素や酸素などの化合物である「ケイ酸」が含まれていて、これによって稲の葉や茎が丈夫になり、病気や害虫への抵抗力が高まるとされています。

 静岡大学の研究では、肥料を使わない場合に比べて2割ほど収穫が増えたといい、別の肥料から切り替えた野末さんも、以前より収穫が増えたと話します。

価格が安いメリットも

 さらに、こんなメリットも―

ノズエファーム 野末典秀さん:「価格が安い。通常(田んぼ)8000平方メートルで4万円ぐらいの土壌改良剤(肥料)を投入していたが、この溶融スラグを使うことで1万6000円ぐらいに抑えられている。肥料関係は価格が高騰しているので、その辺でも大変メリット」

 ごみが原料となっている溶融スラグ。県内でつくられた肥料を地産地消しているため運搬コストも抑えることができ、同様の肥料の2割ほど安く買うことができます。

ノズエファーム 野末典秀さん:「この溶融スラグは成分的にケイ酸とカルシウムなので、田んぼとかのケイ酸が必要な農作物にも使えるし、カルシウムは野菜にも必要となってくるので、米だけでなく野菜とかも含めてメリットがあると思う」

 (6月9日放送)