専門家「残土を排出する業者にも責任を」 静岡県内の『不適切盛り土』は163ヵ所 【静岡・熱海土石流災害2年】

 ことし4月、静岡県は不適切な盛土の公表に踏み切りました。公表された盛土は163ヵ所。県内28の市や町に、不適切な盛り土が存在していることが明らかになりました。

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専門家「残土を排出する業者にも責任を」 静岡県内の『不適切盛り土』は163ヵ所 【静岡・熱海土石流災害2年】

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 その一つ、島田市の福用に造成された盛り土です。去年秋の台風15号では、大井川鉄道の線路まで被害に及び、現場にかかわる区間ではおよそ3カ月間、運休が続きました。

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 一方、静岡市葵区の山間部。杉尾地区、そして日向地区です。2つのエリアには合わせておよそ42.6万立法メートルの土が不法に積まれています。この県内最大級の違法盛り土の存在も含まれています。

静岡県担当者「ここはですね、農地法がかかっているとことなんですけど、昨年無届けで盛り土がされてしまったところで」

「盛土監視機動班」を新たに設置

 こうした危険な盛り土に対する監視体制を強化するため、県は去年4月、「盛土監視機動班」を新たに設置しました。この日は県西部のある自治体から情報が寄せられた5カ所の現場を訪れ、新たに土砂が盛られていないか、崩れている場所がないか、ドローンを使って上からも監視していました。

画像: 「盛土監視機動班」を新たに設置

静岡県監視機動班 中村直樹副班長:「これ北側かな。あちらが南側の盛り土というようにしているんですけど、間に民家があるので迷惑な盛り土になっていますけど、一回行政指導したときは、それに従うということを言ってくれたので、2~3週間様子を見ずにいたが、その間にどんどん入れてしまって土がこんな状況になってしまった」

 去年7月の盛土条例施行よりも後に作られた「条例違反」の盛り土です。業者は現在、改善計画書を作成中だといいます。

県監視機動班 中村直樹副班長:「違法な盛り土は、造成が始まると短期間で大きな盛り土になってしまうことがある」

県監視機動班 中村直樹副班長:不審な業者が盛り土行為をしている場面を見つけたら、『盛り土110番』に躊躇することなく通報していただき、そこに対応して私たちが盛り土の現場を確認していくという、県民全体が盛り土行為を監視するような体制ができてくればいいなと思っている」

国も法改正し規制を強化

 熱海土石流災害を受け、国は法律の改正へと動きました。ことし5月に施行された、通称「盛土規制法」です。

 危険な盛り土を全国一律の基準で包括的に規制するもので、都道府県の知事などが人的被害の出るおそれがある区域を規制区域として指定します。その区域内への盛り土の造成を許可制にすることや、定期的な安全確認などが求められることになります。

画像: 国も法改正し規制を強化

 厳罰化も進みました。個人に対しては、最大3年以下の懲役または1000万円以下の罰金、法人には、最大で3億円以下の罰金が科せられることになりました。条例による罰則の上限(懲役2年以下、罰金100万円以下)より高い水準まで強化されたのです。

盛土等防災対策検討会 二木幹夫・委員長:「これは始まりだと思っています」

 そして、この盛土規制法のガイドラインには大きなポイントがあります。それは違反者に対して自治体が躊躇することなく行政処分を実行できるよう手続きの簡素化が盛り込まれたことです。

 県や熱海市は、土石流災害が起こる10年以上も前に災害を引き起こした熱海市伊豆山地区のずさんな盛り土の施工状況を確認していました。

 2011年には、県の条例に基づいて土地所有者に対する措置命令を検討しながらも、最終的には発出を見送っていたのです。

 こうしたことを防ぐために、自治体の運用を推進しようという狙いがあります。

盛土規制法の整備に関わった専門家は

京都大学 釜井俊孝名誉教授:「2年経っても、なかなか当時の生々しさが残っていて強烈な印象を持ちます」

画像: 盛土規制法の整備に関わった専門家は

 熱海の被災地を6月訪れたのは、京都大学の釜井俊孝名誉教授です。釜井名誉教授は盛土規制法の整備に有識者として関わってきました。

京都大学 釜井俊孝名誉教授:「前は谷の中にも土砂があったんだけどそれが無くなっていますね。そういう意味では不法残土が処分されて原因が徐々に減っていると」

 施行された盛土規制法は、事業者の違法行為の抜け道を大幅に少なくすることができる一方、自治体の判断に委ねられる部分が大きいと話します。

京都大学 釜井俊孝名誉教授:「国の委員会としては、(自治体には)できるだけ幅広くやっていただくという議論がされた。どこを(規制区域に)指定するかということも行政の判断だが、逆に言うとどこを外すかもそう。その辺は行政が、地元の自治体がしっかりと入って判断することだと思う」

残土を排出する業者にも責任を

 釜井名誉教授は、盛り土を造成する個人や事業者への法整備だけでなく、土そのものを排出する業者が、その土がどこへ運ばれ、どのように処理されるのか最後まで責任をもって管理する制度も必要だと考えています。残土を排出する業者は盛土規制法の対象外です。

画像1: 残土を排出する業者にも責任を

京都大学 釜井俊孝名誉教授:「発注者は自分のところで出た土がどこに行くのかということを監視していただくと、最終的に自分の土がどこにいったかというのを書類でもって受け取るという、そういったものを今後整備していく必要がある」

 環境政策に詳しい桜美林大学の藤倉まなみ教授も、残土を排出する業者への罰則の必要性を訴えます。

画像2: 残土を排出する業者にも責任を

桜美林大学 藤倉まなみ教授:「問題なのは、今その排出者が安い業者を選ぶことに対して何も罰がないというか、良い業者を選ばなければいけないと思うインセンティブがない。だから残土を排出する人は残土を捨てるのはタダじゃない、安くもないということをまずははっきりさせて、その工事現場からちゃんと出さなくても済むような例えば設計とか、工事の仕方まで考えてほしいんですね」

 静岡市葵区の杉尾地区と日向地区。無許可で盛り土をしたとされる残土処分会社の親子が逮捕・起訴されていて、現在裁判が進められています。

 この現場は川勝知事も視察して、現状復帰を求める「措置命令」を今年4月(時期)に出しましたが、業者側は応じておらず、復旧工事は行われていません。

 県は「行政代執行」に向けた準備を進めているとしていますが…。

静岡県河川砂防管理課 鍋田航平課長:「行政代執行で何をやるかというのは工事であって、工事を進めるためには工事の部分の県の手続きが必要で、工事に必要な期間は、ある程度の期間は必要になっている」

 今後の台風などによる影響が心配されるため、現在は土のうや堰堤を設置する応急的な工事にとどまっています。工事着手はまだ数カ月先の見込み。行政代執行を実施するまでには、事業計画や事業者の選定に時間がかかるとしています。