「自分を女の子と思ったことはない」…戸籍上は「女性」のカップルに密着 浜松市のパートナーシップ宣誓制度第1号
良子さん:いいよ
げんさん:じゃあ俺、注いじゃうね
良子さん:酒飲みだなあ
国井良子さんと鈴木げんさん。2人の戸籍は女性です。今年4月1日、浜松市が県内で初めて「パートナーシップ宣誓制度」を制定し、この2人はパートナーとして宣誓された第1号のカップルです
「生まれたとき体の性別が女性だったので、戸籍は女性」
げんさん:「生まれた時の体の性別が女の子だったので、戸籍は女性ですけど、自分のことを男性だと認識しているので、社会生活を男性として送っています」
お二人のなれそめを聞いてみました。
げんさん:俺が一目ぼれして、勝手に好きになって、ぐいぐい
良子さん:恥ずかしい
人生のパートナーと公認 病院では親族と同様に
同性が好きな人や自分の性に違和感を覚える人たちのことを「セクシュアルマイノリティ」といいます。
パートナーシップ宣誓制度とは、げんさんと良子さんのような同性カップルや事実婚のカップルを、人生のパートナーであると公認するものです。結婚をしたカップルと違い、戸籍上は他人のまま。ですが、この制度を利用することで、病院では親族と同様にみなされることや周りからの理解を得られるなどのメリットもあります。
浜松市民は
60代男性:「同性婚っていうのはあんまりね。我々の世代じゃ考えられない」
30代女性:「これからたくさん、そういう(セクシュアルマイノリティの)方が出てくると思うので問題ない」
さまざまな意見がある中、制定から半年が経ち、浜松市内でパートナーと公認されたカップルは22組に。「パートナーシップ宣誓制度」を利用するとは、どういうことなのか。2人の暮らしを見つめました。
ホルモン治療で一般的男性と同じ状態に近づける
浜松市中区にある聖隷浜松病院。げんさんはここでホルモン治療をしています。
医師:体調はどうですかね
げんさん:大丈夫です。変わりないです
げんさんは男性の体を保つために3週間に1回、男性ホルモンを体に入れる治療をしています。担当医とホルモンの量を決め、定期的に男性ホルモンを注射します。どのような治療なのでしょうか
医師:男性として、男性ホルモンが足らない。
ホルモン注射は保険適用外で、1回におよそ2500円の負担がかかります。
「生まれてから一度も自分を女の子だと思ったことがない」
げんさんは、浜松市天竜区の春野町で暮らしています。仕事は竹カバン職人。げんさん自ら竹を切って作るカバンは、何年も予約待ちをしないと手に入らない人気のカバンです。
自ら負担をしてでも治療を続けることには理由があります。それは幼い頃から思ってきたことでした。
げんさん:生まれてから一度も自分のことを女の子だと思ったことがない
男性らしい体になるため、5年前に胸を切除する手術をしました
げんさん:きょうのおかず買った?
良子さん:買った。サラダ買った。
げんさん:ワインは?
げんさん:ワイン買った。ビールがさあ、冷えてないかも。
良子さん:じゃあ、お酒買っていかないといけないかも
げんさん:買ったほうがいいよ
2人は仕事の関係で別々に暮らし、週に一度、げんさんの家で過ごしています。一番近くのスーパーから片道2時間ほどかかるので、計画的に食料品を購入します
パートナーシップ宣誓制度を利用したいま、日常の中で変化したものがあるといいます
げんさん:僕は単純にうれしかったです
良子さん:妻です、夫ですって言うようにはなったかな
2人の周り人や雰囲気はどうでしょうか
良子さん:母がすごく変わりました。それまでは私たちの関係を、母の周りの人に説明できなくて、そこに突っ込まれたくないという雰囲気が母にはあったんですけど…。
げんさん:認めてはくれていたんですけど。上手に説明する言葉がなかなか。ちょっと、大変だよねはじめはね。
良子さん:良く知らないってこともあると思うんですけど、病気だよねってある人から言われた時にも、それは病気じゃないって、かなり強い口調で反論したと母から聞いて、味方が増えてきた、もう当事者じゃないかなと。当事者性が周りに伝わって、広がっていると感じます
静岡県のガイドライン作成のアドバイスも
げんさんは、県職員の会議に参加しました。県の職員が「性の多様性」を理解し、セクシュアルマイノリティに対して、どう行動していくか、ガイドラインの作成をするため、アドバイザーとして参加です。これを見ればどの職員も適切な対応ができるよう、構成や内容を精査していきます
げんさん:「同性愛者に対して、同性のパートナーに対して何らかの配慮。なぜ県の職員として、なぜ静岡県として、それをしなければならないのかという根拠がないですよね。その根拠をここではっきりさせる。(ガイドラインの中に)ダブルマイノリティのことが入っていないかもね。例えば障害を持っている子どもたちの中に当然LGBTの子どもたちもいる」
「パートナーシップ宣誓制度」を利用して認識した生きやすさは、他の誰かのために、もっと生きやすい社会をつくる糧として、鈴木さんはこれから活動していきます