「災害の危険」か「恩恵」か…浜岡原発運転停止から10年 「原発の街」静岡・御前崎市の市民の複雑な思い

 静岡県御前崎市の中部電力浜岡原子力発電所が運転を停止して、14日でちょうど10年です。かつて「原発の街」といわれた御前崎市は、どのように変わったのか。浜岡原発のこれまでとこれからを考えます。

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「災害の危険」か「恩恵」か…浜岡原発運転停止から10年 「原発の街」静岡・御前崎市の市民の複雑な思い

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地元の民宿兼飲食店は コロナ禍の打撃を救ってくれたのは原発

 原発の恩恵。この街で店を構える人には切っても切れないものでした。

昼ごはんや おばんざい店主 清水千尋さん:「小さいころから、それ(原発)を見てきているので、本当にありがたいなと思いながら生活していた部分はあります」

 店主の清水千尋さんは御前崎市で生まれ育ちました。祖母の代から50年ほど続く民宿を継ぎ、4年前にランチの営業もスタート。店は原発から数キロの場所にあり、中部電力やその協力会社の職員が多く訪れるといいます。

清水さん:「お仕事で来る方がほとんどですけど、今は鉄塔を塗ったりするお仕事の現場の方が多いです」

 民宿は建物の老朽化などを理由に、現在は古くから付き合いのある業者だけに提供しています。思い出されるのは幼少期の活気に満ちた御前崎市です。

清水さん:「(作業員に)ほとんど毎日のように遊んでもらったりとか、ご飯も一緒に食べていたし、もう生活を共にしていましたね。いろんな地方から北は北海道から南は沖縄の方もいるし、いろんなところの方言も飛び交っていて、楽しく小さいころからやっていた」

 ランチは去年から新型コロナの感染拡大で打撃を受けました。窮地を救ってくれたのも、やはり原発でした。

清水さん:「中電さんもそうですし、会社でも個人でも頼んでいただくこともありますし、本当にありがたいと思っています。原発っていうのが、どういうものなのか、小さいころから勉強しているし、わかってはいるんですよね、危ないって。原発があって、生活して商売もしてこれたと思うので…御前崎市にあってくれて助かっている部分はたくさんあると思うので、そこは何とも言えない」

中部電力職員
「地元のお店はよく使う。いろんなものが食べれてみんな楽しみにしています」

運転停止のきっかけは福島第一原発の事故

運転停止のきっかけは2011年の福島第一原発の事故でした。

菅直人総理(当時):「国民の皆様に重要なお知らせがあります。浜岡原子力発電所のすべての原子炉の運転停止を中部電力に対して要請をしました」

 南海トラフ地震の危険があるとして、浜岡原発は全国で唯一、政府から停止要請を受けました。「停止前」を知る市民は、原発の必要性を感じる一方で事故の記憶も鮮明に残っています。

市民は…

御前崎市民60代:「原発があるときは活発化していたが、今はさびれて。さみしい感じがする」
Q. 原発再稼働については?
A.「ちょっと怖いから止まっている方がいい」

御前崎市民60代:「動いても動かなくても危ないには変わりないんですけど、だったら動いている方が、そういう人の循環というか、そういう生活している人のことを考えると、動いてる方がいいのではないかと思います」

御前崎市民60代:「最初は(交付金など)資金の関係でお金がたんと入っていたけど、公共施設を建てたけど、今現在になるとその負担が赤字赤字、御前崎の市政で支払うにはかなり厳しい状況下だと思う」

静岡朝日テレビが各自治体に行ったアンケートでは再稼働賛成はゼロ

 事故を教訓に中部電力は津波対策工事を進め、現在は3号機と4号機の再稼働を目指しています。3号機は6年前、4号機は7年前に適合性審査を申請し、原子力規制委員会で議論が続いています。再稼働については、審査の後に必要とされる地元の同意も大きなハードルとなっています。

 静岡朝日テレビが各自治体に行ったアンケートでは、再稼働への賛成はゼロ。川勝知事も中部電力の津波対策を評価していますが、再稼働については「動かしようがない」と慎重な姿勢は変わっていません。

静岡県 川勝平太知事:「稼働すると燃料も入れなくてはいけない、燃料を取り出してまた新しい燃料を入れなくてはいけないが、使用済み核燃料を入れる容量があと少し1000体くらいしかありません。ですから現時点で稼働できる状態ではない」

「災害の危険」か「恩恵」か。功罪、どちらも感じている地元住民は、複雑な思いで10年間を過ごしました。

記者解説

石田アナ:ここからは取材した斉藤記者です。浜岡原発の周辺は経済的な恩恵も大きかったんですね

斉藤記者:御前崎市の人口はおよそ3万1000人。浜岡原発で働く人は市外に住む人も含めて3000人いて、経済的な恩恵は大きいです。運転停止前は、原発の定期点検が13カ月に1回あり、そこで県外から職人が訪れ、市民が話す「経済が潤った」時代が作られました。ただ、運転停止後も廃炉措置や津波安全対策工事があり、人は来ていたので、そこまで浜岡原発で働く人が大きく減ったわけではないんです。財政悪化は御前崎市が原発の交付金で建設してきた公共施設の管理費の影響もあると指摘されています。

石田:気になるのが再稼働ですが、原子力規制委員会ではどんなことが議論されているのか?

斉藤:原子力規制員会は12日の会見で、審査の長期化の理由を「津波想定を厳しくしなければいけない浜岡特有の問題」と話しています。原子力規制員会は7年間議論を重ねていますが、想定される津波の高さが確定していないんです。一方で中部電力は独自の試算で津波の想定を出すので、防波壁の評価、つまり施設の評価に移ってほしいと要望していますが、規制委員会のルールでは地震、津波の想定が確定できていないので、先に進めない状況です。

石田:10年たっても、再稼働については大きなハードルがありますね。

斉藤:具体的に再稼働へのプロセスは審査の合格の次に地元の同意があります。
浜岡原発は10年間で防波壁の設立や非常用電源を津波の影響を受けない高台に移動するなど、福島の事故後4000億円かけて工事を進めてきました。ただ川勝知事や周辺自治体は慎重な姿勢は10年間変わっていません。中部電力は今後もさらに地元の理解を得ることが求められますが、10年間が経過しても県内における原発への考え方は慎重論が強いです。