林輝彦アナウンサー:「牧之原市の広い範囲に甚大な被害をもたらした突風。あれから1カ月がたちました。こちらにはしょうゆ作りには欠かせない、築150年の蔵があったんですが、1カ月たった現在も、ご覧のようにガレキの山です。そして今も、復旧のめどはたっていないといいます」

竜巻か…突風で市内で家屋125棟が損壊

画像1: 竜巻か…突風で市内で家屋125棟が損壊

 5月1日、牧之原市に大きな被害をもたらした竜巻とみられる突風。須々木地区にある老舗しょうゆ店「ハチマル」の蔵が倒壊したほか、布引原地区などでも家屋の屋根がはがれたり、車両が横転したりするなど被害が相次ぎました。市内で損壊した家屋は125棟に上っています。

画像2: 竜巻か…突風で市内で家屋125棟が損壊

 これは突風が起きた翌朝、老舗しょうゆ店「ハチマル」の社長・鈴木義丸さんが自ら撮影した映像です。

鈴木さんの撮った動画
「何もない。(ため息)。嘘だろ…」

しょうゆ蔵ががれきの山に

 ハチマルは1828年創業。この場所には、先祖が代々受け継いできた3棟のしょうゆ蔵がありましたが。その遺産は一晩にして、がれきの山となってしまいました。

ハチマル 鈴木義丸社長
「150年ほど前の建物で、しょうゆにとっては建物についている菌がしょうゆの味を作るものですから、やっぱりこの建物っていうのは財産というか、私ども一番大切なものだった」

 ハチマルは40年前、効率化などを理由に、桶で仕込む昔ながらのしょうゆ作りを断念。工場で機械を使っての生産に切り替えました。

ハチマル 鈴木義丸社長
「原点に立ち返ってもう一度、桶から仕込んでみたいと」

 3年前、社長に就任した鈴木さん。今年3月には、また昔ながらの方法でしょうゆを作るため、大豆などが原料のもろみを仕込み始めました。

 蔵はそのもろみを発酵・熟成させる大切な場所でした。

画像: 奇跡的に被害を免れた「もろみ」

奇跡的に被害を免れた「もろみ」

ハチマル 鈴木義丸社長
「雨水が入ることで塩分濃度が下がることを一番心配してたんですけど、幸運にも大丈夫で。生き残っててよかった…」

 「使い物にならなくなった」と覚悟したもろみですが、奇跡的に崩れた蔵から、雨水が入ることなく見つかりました。今は屋根のある工場で育てています。

ハチマル 鈴木義丸社長
「今この状況だと一日一日そんなに大きく変わるわけじゃないんだけど、やっぱ気になって、のぞいて。」

 もろみが無事だった一方、蔵で保管していたボトル入りのしょうゆなどは、ほとんどが廃棄に。商品だけで、500万円以上の損害が出てしまいました。

  

被害から1カ月 解体・再建のめど立たず

 被害から1カ月、蔵があった場所を案内してもらうと、そこには、当時とほとんど変わらない光景が広がっていました。

画像: 被害から1カ月 解体・再建のめど立たず

ハチマル 鈴木義丸社長:「なかなか入れないでしょ」

林アナ:「ちょっと、そうですね。そこの下にも「つゆ」って書いてある段ボールとか…」

鈴木社長:「ペットボトルもね、製品も割れちゃってると思うんですけど。全部そのまんま」

林アナ:「この状態は変わらない?」

鈴木社長:「そうですね。ボランティアも来ていただいて、分別をある程度してもらって、ある程度大事なもの出してもらって、本当に助かりました。今は本当に危険なところしか残ってなくて、ボランティアからも『手伝いに行きたい』と言っていただいたけど、ちょっと危険なところがあるので、ということで中止してもらっている。本当に何かやらないと思って、何回もここにフラッと来るんですけど、これはね、できないですね」

 ここからは、重機が入らないと、作業が進められない状況です。解体や再建のめどは、ついていませんが、ゆっくりと一歩ずつ、復旧を進めたいと話します。

奇跡 パイプに詰まっていた「宝」

ハチマル 鈴木義丸社長
「再建するには、やっぱり何世代かかけていく形になる。僕はまずは仕込んだ桶をおしょうゆにできるように、何とか作って、そこの蔵に菌を住まわせて、次の世代に渡していく、ことを目標にしていきたい」

 このような状況でも、前を向き続ける鈴木社長。その思いが報われたのか、信じられない出来事が起こりました。

画像: パイプの中には「44年前のもろみ」

パイプの中には「44年前のもろみ」

ハチマル 鈴木義丸社長
「この中、ちょっと歩いて何か大事なものあるかなぁ、と探してたんですけど、そこに塩ビのパイプがありますでしょ。天井に配管として通ってて、もろみを桶からしぼる所まで送り込むパイプなんですよ。『まさかな!』と思って見たら中に、それこそ44年前のもろみが入ってて」

林アナ:「44年前のもろみですか?」

鈴木社長:「ちょうど最後の仕込みをしたのが昭和50年、で恐らくそれを搾ったのが(昭和)52年」

 出てきたのは、なんと鈴木社長が生まれた年に出来た、もろみ。40年前にしょうゆの生産を工場に移したことで、使われなくなったパイプの中に、思いがけない宝が詰まっていたのです。

ハチマル 鈴木義丸社長
「最後なんで、たぶんきれいに清掃せずにそのまま放置したんでしょう。それが、配管の中に残って。缶詰みたいにみっちり入ってたんです。なので酸化もしてなくて、雑菌も繁殖してなくて、臭いも腐敗臭してないんです。僕と親父、最初に舐めましたけど、赤みそでした」

林アナ:「赤みそ!?」

鈴木社長:「赤みそでした、美味しかったです。ここに残りがちょっとある。これはもう放置してしばらく経ってるから、古くてカビ生えちゃってますけど、こういう状態で入ってた」

林アナ:「ちょっと嗅いでみてもいいですか?」

鈴木社長:「これもう酸化しちゃってるから、ちょっと臭いが違うと思う」

林アナ:「あ、醤油の香りします。奈良漬けに近いにおいというか」

鈴木社長:「アルコールどうしても高いもんで。だから逆にいうとアルコールがあるから腐敗できない」

林アナ:「なるほど。白いご飯に合いそうな感じですね。いいにおい。」

鈴木社長:「キュウリに付けるとおいしい」(笑)

 蔵が崩れたことに加え、ガレキの片づけが進まないことで、見つかった奇跡のもろみ。腐敗していないものは、半壊した倉庫の冷蔵庫で大事に保管されています。

ハチマル 鈴木義丸社長
「被災して蔵を失うことになったときに、菌をこのまま失ってしまうんじゃないか、すごい心配だった。その中でこの44年前のもろみ、間違いなくここにいる菌はおしょうゆを作ってるうちの菌なんですよね。これが見つかるってことは、言葉にできないくらいです、なんて説明したらいいんだろうか。代々伝わってるDNAがこうやって目の前にある。それを醸造に使うことができる可能性が出てきたっていうことは言葉にならないですね」

 現在、このもろみの一部は、被災した直後に蔵から運び出したもろみと混ぜ合わせ、発酵・熟成を重ねています。

 発見当時は44年の時が経ち、菌が死滅している可能性も危惧していましたが、その心配も無いということです。

ハチマル 鈴木義丸社長
「いやー、うれしかった。最初ブクブク湧いてきたとき、(菌が)死なないで生き残ってくれて、よく目覚めてくれたなと思ってね。」

画像: 奇跡 パイプに詰まっていた「宝」

 このもろみから本当にしょうゆが作れるのか。こちらは商品用ではありませんが、完成は来年を見込んでいます。

 蔵から見つかった2つのもろみは、しょうゆ作りの原点に立ち返るハチマルにとって、大きな一歩になりそうです。 

ハチマル 鈴木義丸社長
「神様がプレゼントをくれたみたいな感じで、本当にワクワクをどんどん大きくしてくれてる。落ち込んでもこれが片付くわけでもないし、何か変わるってわけでもないから、前を向いてできることを1つずつやっていきたいと思うし、それしか僕にできることはないと思うので、楽しみながらというかワクワクしながら、ちゃんと進めていきたい」

(6月1日放送)

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