なり手がいない… 報酬ゼロで「無茶ブリ」も 民生委員がピンチ 静岡・西伊豆町

静岡県西伊豆町安良里(あらり)。

画像: なり手がいない… 報酬ゼロで「無茶ブリ」も 民生委員がピンチ 静岡・西伊豆町

西伊豆町 民生委員
西宮恂夫(よしお)さん:「おはようございます。ちょっと天気がいいので、どうかなと思って。この頃、体はどう?」

竹内さん:「体の方は悪いね。転んだばかり」

西宮さん:「どうしても足腰が弱くなるとねぇ」

民生委員の西宮さん

西宮恂夫さん、77歳。14年前から、西伊豆町の民生委員を務めています。この日訪ねたのは、家の近くに住む竹内さん82歳。15年ほど前に妻を亡くし、今は孫と1匹の猫と暮らしています。

Q:西宮さんが来てくれるのは?

竹内さん:「とてもありがたい」 

 西宮さんは、家の近くに住む高齢者や障がい者など、10世帯ほどを担当しています。年前から、竹内さんの見守りも続けています。この日は、一人暮らしをしている別の高齢者も訪問しました。

西宮恂夫さん:「長島さん、おはようございます。西宮です、どうも」

 変わりがないかを確認すると話は世間話に…。

西宮さん:「この間、水が漏れて業者はすぐ来てくれましたか?」

長島さん:「西宮さんに相談したら地元の業者を教えてくれて直った」

西宮さん:「良かったです。なかなか水道屋も少なくなってね」

 コロナ禍の今、訪問は回数を減らし短時間で終えるようにしています。その中で異変を見落とさないようにしなければなりません。

西伊豆町 民生委員 
西宮恂夫さん:「本当は対面が一番いいのでしょうね。顔色見たり、目の動きを見ればまた違った感情が生まれると思う。対面が本当にいいことだと思うけど、今のコロナ禍の状況では自粛せざるを得ない」

民生委員は「非常勤の地方公務員」

民生委員は、非常勤の地方公務員。その歴史は古く大正初期から100年以上続く制度です。任期は1期3年。その間、地域の高齢者や障がい者、母子世帯などを訪問して見守ったり、相談にのったりします。いわば住民と行政や専門機関とをつなぐパイプ役です。

静岡県立大学短期大学部 社会福祉学科 
江原勝幸准教授:「助けてと自分で言える人、助けてと言って支援に結び付く人はそれなりの支援が受けられるが、なかなか抱え込んでしまって言い出せない人、地域にはそういった問題を潜在的に抱えているけど表面化しない方々が多いので、そういった人たちに対して地域の身近な民生委員が見守ったり支えたりする、寄り添ったりする、そういった役割がとても大きい」

 最近では、高齢者の詐欺被害防止の取り組みや、災害時の要援護者マップづくりを担うなど、その活動は多岐にわたっています。

さらに・・・

児童委員も兼務

午前7時、バス停にやってきたのは、小学3年生と4年生の姉妹。毎日お母さんに車で送ってきてもらい、バスで小学校に通っています。バスが来るまでの間、西宮さんが見守ります。

画像: 児童委員も兼務

西伊豆町 民生委員 
西宮恂夫さん:「(バスに乗った児童を見送る)いってらっしゃい」

       「子どもを大切にしたいなということで見守りが重要だなと思って始めている」

 実は、民生委員は児童福祉法が定める「児童委員」も兼ねていて、子育ての支援なども担っているのです。

バス通学の児童の母親:「(子どもが少なく)うちの世帯しかいないけど、見送っていただいてとてもありがたい」 

 見送った後は、1時間ほど散歩をするのが西宮さんの日課です。

 西宮さんの民生委員としての活動は、月に15日ほど。交通費などの活動費として月におよそ5000円支給されますが、報酬はありません。

西宮恂夫さん:「(社会的に)弱い人から相談を受けてそれを成し遂げるところがやりがいかな…」

浮き彫りにされた問題点とは…

画像1: 浮き彫りにされた問題点とは…

今月、西伊豆町内の民生委員が一同に集まる定例会が開かれました。各地区の現状報告や支援の方法などを話し合う会議です。

西伊豆町民生委員(77歳):「コロナ禍で皆さんが私もそうだが、地域の見守りをする中で皆さんがどれだけ苦労しているのかなと思う。あまり訪問は避けて接触しないように活動しましょうとはお願いされているが、障害者や高齢者の方たちは待ってくれませんよね」

 こちらの委員は、活動中ちょっと困った相談をされたようです。

西伊豆町 民生委員
高橋久美子 副会長:「私の担当のところで、ちょっと勘違いしているなということを求められた。ひとつは病院に行くのに三島に行くので、それを連れて行ってくれないか、民生委員だからということで。民生委員としてはおばさん悪いけどできないよ。親族や周りの人に聞いてみてと言って。それでも納得できない場合には、相談するのは事務局の方に相談してねということで」

 この他にもアパートの持ち主から家賃を滞納している人をどうにかしてほしいなど、本来民生委員の活動とは異なる相談をもちかけられることも少なくないといいます。

 他にも大きな問題が。

西伊豆町民生委員(77歳):「新しい民生委員を探してくださいとお願いしたけど、なり手がない、やり手がない、こういう現状。やはり地域の高齢者・障害者が困っているを見ると、やり手がなければ、健康状態を考えながら、じゃあやってみましょうかということで4期目。ちょっともう私が民生委員にかかりそうな年齢なんです」

 民生委員のなり手不足が、全国的に大きな課題となっているのです。西伊豆町の定員は39人ですが、現在36人と3人不足。欠員分は、近くの地区の委員が負担しあっているのが現状です。

画像2: 浮き彫りにされた問題点とは…

 なり手不足は西伊豆町だけではありません。番組が調べたところ、県内35の自治体のうち、委員の定員を満たしているのは牧之原市や菊川市、小山町など8つの市町のみ。ほとんどの自治体が定員を割っています。

 日中の活動が多いことから、仕事をリタイヤした世代が主な担い手となっている民生委員。専門家は、現在の体制の限界を指摘しています。

静岡県立大学短期大学部 社会福祉学科 
江原勝幸准教授:「働く世代が関われるような活動の分散ではないが、何でも民生委員に地域の課題があれば民生委員にという動きだと、とても若い人が活動に携われることはないので、連携というか若い世代の方と高齢の時間のある方が対応するような連携する仕組みが必要ではないかと思う」

西伊豆町 民生委員 
西宮恂夫さん:「西伊豆町は特に高齢化率が高い。若い人たちが働きながら民生委員をできる体制を考えなきゃいけないかな」

 100年以上、日本の地域の見守り役を担ってきた「民生委員」。時代とともに、役割は広がっています。そのバトンをつなでいくことができるのか…今、広く問われています。