死者行方不明者28人の大惨事は「人災」か 災害の責任は誰にあるのか? 問い続ける遺族・弁護士の戦い 静岡・熱海市の土石流災害から1年

 静岡県熱海市の土石流災害は人災か。遺族らの疑問が晴れないまま、間もなく1年を迎えようとしています。遺族と彼らをサポートする弁護士の思いとは。

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死者行方不明者28人の大惨事は「人災」か 災害の責任は誰にあるのか? 問い続ける遺族・弁護士の戦い 静岡・熱海市の土石流災害から1年

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原告代理人 加藤博太郎弁護士:「これだけの方が亡くなって、これだけの甚大な被害が生じたにも関わらず、誰も責任を取ろうとしない。盛り土を行った方々あるいは長期間にわたって危険な盛り土を放置してきた方々の責任というのは、逃れることはできないと思っている」

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娘を亡くした 小磯洋子さん:「娘もいまだに自分がなんで死んだのか、わかっていないと思う。私たちの裁判が突破口になって今後の道筋を決めていくしかない」

長雨による「天災」でなく、違法盛り土による「人災」か

 去年7月3日、熱海市伊豆山地区を襲った土石流。これまでに関連死1人を含む住民27人が犠牲になり、1人が行方不明となっています。

 当初は長雨による「天災」と思われていましたが、その後、違法に造成された「盛り土」が被害を大きくさせた「人災」の可能性が出てきました。

 なぜ家族が死ななければならなかったのか? 災害の責任は誰にあるのか?

 真相を究明するため去年8月、母を亡くした瀬下雄史さん(54)が会長となり、「被害者の会」が設立されました。

被害者の会 瀬下会長:「私だけではない。被害者全員に共通することは、怒りが原動力になっている」

 被害者の会は盛り土の土地の前と現在の所有者を殺人容疑などで刑事告訴。民事上でも土地所有者らの責任を問うため、集団訴訟を起こしました。

弁護士「都職員として応援に入った岩手県陸前高田市の光景と重なった」

 弁護団長として、被害者の会をサポートしているのが、これまで数多くの集団訴訟を手がけた、東京都在住の加藤博太郎弁護士(36)です。

加藤弁護士:「熱海の駅前は賑やかな街並みを取り戻していて、何もなかったような日々が過ごせていて、ちょっと山に入ると、街が消滅している。あんな景色は見たことがない。本当に戦争の後なんじゃないかと思うくらい何もかもがないんですよね。あれは実際に見た人じゃないとわからない衝撃だと思います。本当に強い衝撃を受けました」

画像: 岩手県陸前高田市

岩手県陸前高田市

 去年8月、発災後初めて直接目の当たりにした伊豆山。都の職員だった2011年、応援で入った東日本大震災の被災地・岩手県陸前高田市の光景と重なりました。

加藤弁護士:「今回の熱海の被災地の様子を見たときに、陸前高田市の災害の様子。津波で全てが流されてしまった後の災害の様子というものと、すごくかぶったというのを感じました」

 家族や自宅を失い平穏な暮らしが一変した人々。陸前高田市で多くの被災者と向き合ったことが弁護士を目指すきっかけでした。困っている人に寄り添いたい。弁護士を目指した当初からの信念で弁護団長を引き受けました。

加藤弁護士:「多くの方々が立ち上がる気力もいろんな気力を失っている中で、多くの被災者にとって勇気づけて、一丸となって戦っていくことが必要だと思いました。まず何よりもスピード重視。こういった事件が風化してしまう前に、早くこの事件をしっかりとした事件化しないといけない。ちゃんと埋もれてしまう前にですね、戦っていかなければならない」

弁護士「誰も責任を取ろうとしない」

 今年5月、現在と前の土地所有者らに対して58億円余りの損害賠償を求めた民事訴訟の第1回口頭弁論が、静岡地裁沼津支部で行われました。

現在の土地所有者代理人 河合弘之弁護士:「買う時もあそこに盛り土があることを知らなかった。その盛り土が危険だということも知らなかった。その後も盛り土が危険だから何か安全工事をしなければいけないという認識もなかった」

 全面的に争う姿勢を示した被告側に原告団は。

加藤弁護士:「これだけの方が亡くなって、これだけの甚大な被害が生じたにも関わらず、誰も責任を取ろうとしない。盛り土を行った方々あるいは長期間にわたって危険な盛り土を放置してきた方々の責任というのは逃れることはできないと思っている」

娘を亡くした 小磯洋子さん:「娘もいまだに自分がなんで死んだのか、わかっていないと思う。私たちの裁判が突破口になって今後の道筋を決めていくしかない」

母親を亡くした 瀬下会長:「(母の)遺影に話しかける回数も1日に何回もあるし、思い出すたびに悔しいし、かわいそうだったと本当に変わらず思っている。この裁判を通じて原因と真相の究明、それから責任の追及、これをしっかりやっていきたい」

 発災から間もなく1年。設立当初、10人ほどだった被害者の会は今では100人近くにまで増えました。土地所有者らを相手取った裁判も、熱海市が原告側として補助参加することが決まりました。

 街も復興に向かって進んでいます。しかし、変わらない思い。消えない疑問。なぜ家族が死ななければならなかったのか? 災害の責任は誰にあるのか?

 この問いの答えを求める戦いは続きます。

瀬下会長:「引き続きしっかりと戦っていきたい原因究明ですね、それから責任追及をしっかりやっていく。やっぱりこういう悲劇を二度と起こしてはいけないんだという使命感がやっぱりありますから。そこが自分の原動力になっていると思います」

加藤弁護士:「多くの方々が、もう過去の事件と考えるかもしれませんけども、本当にあっという間の1年だったと、がむしゃらに遺族・被災者の方のために何ができるかということを考えて走り回った1年だったと思っています。今回の裁判で、真相が明らかになることを、とても強く期待しております」