去年7月に発生した静岡県熱海市の土石流災害では、関連死も含めて27人が犠牲になりました。人災とも言われるこの災害の原因究明は、依然として進んでいません。遺族らは民事・刑事両面で責任を追及しています。
画像: 【土石流1年】娘を亡くした母「一番したいのは親子喧嘩」 犠牲者27人…被害大きくした「違法盛り土」責任の所在は 静岡・熱海市 (完全版) youtu.be

【土石流1年】娘を亡くした母「一番したいのは親子喧嘩」 犠牲者27人…被害大きくした「違法盛り土」責任の所在は 静岡・熱海市 (完全版)

youtu.be

娘が犠牲になった小磯洋子さん「今一番したいのは、親子喧嘩」

小磯洋子さん(72)。現在は地元伊豆山を離れ、隣町の神奈川・湯河原町で家族3人、生活しています。

画像: 娘が犠牲になった小磯洋子さん「今一番したいのは、親子喧嘩」

小磯さん(写真を見ながら):「これは、もうだいぶ前ですが、私たちと一緒に東北の方をまわったときの」

 去年7月3日・土石流で長女の友紀さんを亡くしました。当時44歳でした。友紀さんは、2年前「母親の近くで暮らしたい」と伊豆山に引越してきていました。

小磯さん:「今一番したいのは、親子喧嘩ですね。次の日には、けろっと2人ともしてるんですけども、よくお互い言いたいこと言って喧嘩をしてました。また、喧嘩がしたいですね。会って話したい。触りたい、抱きしめたい。喧嘩がしたい。そういう本当の日常生活の普通のことがしたい」

母親を亡くした瀬下雄史さん「すべて泥に流された」

アルバムめくり…
瀬下雄史さん:「娘が小さい時そっくりだよね。アルバムの存在忘れてたよ。すっかり」

 瀬下雄史さん(54)。土石流で母親の陽子さん(当時77歳)を亡くしました。

瀬下雄史さん(陽子さんの写真を見せながら):「明るい人だったんですよね。本当によくしてくらたなって。思います。本当に感謝しかないっていうところですよね」

 瀬下さんの両親は20年前、熱海の海や山の景色に惚れ込み、横浜市から移り住みました。

瀬下雄史さん:「いや、もうすごいショックでしたよね。そのなんて言うんですかね。すべて泥に流されてしまっているわけですからね」

 陽子さんが見つかったのは、発災の22日後でした。

瀬下雄史さん(陽子さんの写真を見せながら):「本当にね、『痛かったね。辛かったね。苦しかったね』って。でも、『本当よく帰ってきてくれた』っていうことで、本当にそういう声をかけましたけどね」

 伊豆山の人々の暮らしを5万5000立方メートルの土砂が押し流しました。その土石流の起点にあったのは、人工的に埋め立てられた盛り土でした。

被害を甚大化したのは「盛り土」

画像: 被害を甚大化したのは「盛り土」

静岡県 難波喬司副知事(当時):「この盛り土の工法が適切だったのかというと、副知事としてではなく、技術者の見解としてこの工法は不適切だったと思います。盛り土が甚大化させたのは、ほぼ間違いない」

 当時の難波副知事は、会見で盛り土が被害を甚大化させたと断言しました。

瀬下雄史さん:「絶対に、これはうやむやにしてはいけないという思いでしたよね。やっぱり人災だっていうことは、わかったから、当然。人災の原因を作り上げた人たちがいるわけですから、これ、絶対許しちゃいかんと。当初怒りしかなかった」

盛り土の経緯

 2006年9月、神奈川県小田原市の不動産管理会社のA氏が熱海市伊豆山・逢初川の上流部。35万坪に渡る土地を購入しました。

前土地所有者
「別荘地を計画しようと言うことで購入しました。ロケーション。それと、もう一つは温泉。それと一番重要だったのは、世界の熱海ってことですよ」

 2007年3月、A氏(前土地所有者)は静岡県の土採取条例に基づき、この土地に盛り土を行う届け出を熱海市に提出しました。この届け出では、2007年4月から2008年4月までの間に高さ15メートル、およそ3万6000立方メートルの土を盛る計画が記載されていました。

 しかし、計画は変更が繰り返され、最終的に高さ50メートル、およそ7万4000立方メートルの盛り土が造成されました。

 また、この盛り土については排水などの防災対策が行われていなかったため、熱海市は、対策をとるようA氏に行政指導を行いました。

 しかし、A氏は十分な防災対策工事が行われることなく、2011年2月、この土地を元建設会社のB氏に売却しました。

河合弘之弁護士(現所有者B氏の代理人)
「B氏は、広い土地をいっぱい持ってる人なんですよね。特に目的を定めて買うってことはあんまり、無いんですよね」

 2011年6月。熱海市はA氏に盛り土の防災対策工事を行わせる措置命令を発出しようとします。

 これを受けA氏は、ようやく工事に取り掛かります。しかし、金銭トラブルが原因で工事は3ヵ月で終了。その後、10年以上にわたり、土地は放置されました。

2021年7月3日 土石流発生

画像1: 2021年7月3日 土石流発生

 そして、去年7月3日。

片山真人アナウンサー
「熱海市の伊豆山上空です。いま映し出されているのが、起点となった伊豆山第一配水池です。大きな陥没が見受けられます。山肌があらわになっています」

 盛り土の7割にあたる5万5000立方メートルの土砂が崩落。伊豆山の街に流れ込みました。

河合弘之弁護士(現所有者B氏の代理人)
「それが盛り土だったこと、しかもそれが、まして、違法な盛り土だったっていうようなことは全然こっちが知らなかったというのは事実だと思います。買った翌年の10月だったと思いますが、現地で市役所の職員と県の職員と警察とがこちらの従業員も含めて、立ち会った時に、崩落した土地のことについて、この土地は安定しているから触らないでくださいって言われた」

前土地所有者(取材に)
「私は引き渡して10年間安定しているわけです。安定していることがすべてを証明するんです。危険とか認識が全くないです。もちろんそれがないから、行政も許可をしたわけですから」

 熱海市は、盛り土の防災対策工事に関し、一度は措置命令を準備しておきながら、最終的には見送っていました。

画像2: 2021年7月3日 土石流発生

静岡・熱海市 斉藤栄市長(参考人招致後):「2011年6月の決済の時点では違法な状況だということは認識をしておりました。その後、11月の時点で、そういう状況の中であっても、安定性が確保されたと認識をしております」

 違法な状態であったことを認めたものの、A氏により、防災対策工事が一旦着手されたことなどから「安定性」が保たれたというのが熱海市の主張です。

小磯洋子さん:「(市は)こんなすごいことになるとは思わなかったとかでは済まされないんですよね。もうそれは、凄い憤りはあります。やっぱり、盛り土の事を知らないから、住民も住民運動を起こせなかったんですよね。もし知ってていれば、私は起こしました」

被害者の会設立 民事・刑事両面で責任追及

 発災から1ヵ月半の去年8月。遺族や被災者らが「被害者の会」を設立。違法な盛り土が造成された経緯や土石流の原因追及のために動きだしました。

画像1: 被害者の会設立 民事・刑事両面で責任追及

瀬下雄史さん(会見):「きょう、ここにお集まりいただいている皆さん、やはり問題解決に前向きでしっかりやっていこうと、取り組んでいこうと意識をもった方がほとんどだと思っています。僭越ながら、会長ということで任命頂きましたけど、冒頭、申し上げた通りですね、やはり数の力が1番重要だと思ういます」

画像2: 被害者の会設立 民事・刑事両面で責任追及

被害者の会 加藤博太郎弁護士:「被害者の会として、責任がそれに対して刑事事件としてしっかりと刑事告訴をしていく。そして被害者の会がまとまって集団訴訟を起こしていくというところが、きょう総会として決まりました」

 被害者の会は、起点となった盛り土が被害を甚大化させたとして、A氏とB氏を業務上過失致死容疑などで刑事告訴。殺人容疑でも捜査されることになりました

娘を亡くした小磯洋子さん:「事件から5カ月経つが、悲しみや苦しみはまったくあの日と変わっていません。娘の未来50年を返してほしい。孫が母親といられた50年も返してほしい」

 そして、民事でもA氏とB氏らを相手取り、総額58億円あまりの損害賠償を求めました。

 これに対し、被告となるA氏とB氏は、いずれも全面的に争う姿勢です。

画像3: 被害者の会設立 民事・刑事両面で責任追及

河合弘之弁護士(現所有者B氏の代理人)
「基本的に言うとあの崩落開始地に工事をしたことはありません。一番、行政上、手続き上問題なのは熱海市だと思います」

前土地所有者(取材に):「盛り土は自分ではなく、別の業者が行い、危険性の認識はなかった。司法の判断を受けとめたい」

被害者の会 加藤博太郎弁護士:「(被告側が)いろいろと主張されてますけれども、彼らの過失が全くなかったと。過失がなかったという主張は通らない、じゃないかなと思っております」

市議会は百条委員会を設置して調査 

 去年11月、熱海市議会では強い調査権限を持つ百条委員会を設置。

 3月には、参考人として当時、盛り土の手続きを担当していた静岡県や熱海市の担当者が呼ばれました。

県の担当者:「土地を改変する工事の面積が1haを超えていれば、県として対応したが、超えていなかったので熱海市が対応すると思っていた」

市の担当者:「1haを超えていると県に何度も主張したが、取り合ってもらえなかった。県はそもそも熱海市の案件だという姿勢で、私たちは市だけで対応することに不安があった」

 土地の開発行為の面積が1ヘクタールを超えている場合は森林法が適用され、都道府県が対応。1ヘクタール以下の場合は、土採取条例により市町村が対応することになっています。

 今回は、もともと9446平方メートルで申請が出されていましたが、熱海市の調査では、1.2ヘクタールの開発行為と認識。静岡県による対応を求めていました。

静岡・熱海市 斉藤栄市長(参考人招致後):「特に土採取でなく、森林法で行った方が強い規制をかけられると。そういった働きかけを行ったにもかかわらず、面積についても1.2ヘクタールあったことを示したにも関わらず、いや、もうこれは、1ha以下、土採取条例ということを相手にされなかったということは、私は大変残念だと思っています」

静岡県 難波喬司理事(当時副知事):「県がそこで1ヘクタールの判断を避けたというふうに、私は思っていません。通常の対応をしたんだろうと思います。踏み込む努力はするべきだった。したがって踏み込んでいないところは、問題だと認識しています」

第三者委員会 青島伸雄委員長:「適切な対応がとられていたならば、被害の発生防止や軽減が可能であったのではないか。本件における行政対応は失敗であった」

 今年5月。盛り土の行政手続きを検証する第三者委員会は、静岡県と熱海市の「行政対応」を失敗だったと結論づけました。

静岡県 難波喬司理事:「(最終報告を)しっかり受け止めて、今回の様な災害が二度と起こらないように行政対応の改善を行っていきたい」「被災者の方々、亡くなった方、被害を受けた方に対しては大変申し訳ないと思っている」

静岡・熱海市 斉藤栄市長:「ご指摘いただいた市として反省すべき点、この点は真摯に受け止めなければならないと思っております。そして、一方、この報告書の全体の構成を見ると、納得しかねる物と言わざるをえないと思っています。私は理由のひとつとして、記述の根拠となる証拠や資料に偏りがあるのではないかとこのような感じを持っております」

Q.文書の受理が不適切だが反省しないか?

A.「その点は真摯に反省しなくてはならない」

Q.被災者の方に謝意はないか?

A.「被災者の皆様には本当に申し訳なく思っています。

 「危険の認識はなかった」と主張する前の土地所有者A氏。「盛り土があったことは知らなかった」と主張する現在の土地所有者B氏。

 盛り土の行政対応をめぐり、それぞれの見解を主張しあう静岡県と熱海市。

 27人が犠牲となり、いまだ1人が行方不明の熱海土石流災害。人災とされる盛り土の責任の所在のありかは…。

画像1: 市議会は百条委員会を設置して調査

小磯洋子さん:「本当に、盛り土があったなんて言うのは、本当に青天の霹靂で、今回この事件があってから知ったことで、やっぱりそれを知らせなかったっていうのは、もうすごい大罪だと思います。知ってて知らせなかったということですから。死んだ人が自分が何で死んだか、多分みんなわかってないと思うんですよね」

画像2: 市議会は百条委員会を設置して調査

瀬下雄史さん:「原因究明、責任追及、そしてまあ再発防止。あのここだけをしっかりもうなんていうんですかね。もう趣旨としながらですね。本当にぶれないっていうところでやっていきたいなというふうに思っています」

This article is a sponsored article by
''.