”厄介者”の麦芽粕が「紙」に…? 静岡・沼津市のクラフトビール会社の取り組みとは 商品化の立役者は富士市の製紙工場

持続可能でより良い世界を目指すSDGs。静岡県沼津市のクラフトビール会社などは、廃棄する麦芽を使って“あるもの”を作りました。その取り組みを取材しました。

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”厄介者”の麦芽粕が「紙」に…? 静岡・沼津市のクラフトビール会社の取り組みとは 商品化の立役者は富士市の製紙工場

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頭を悩ます麦芽の粕

桜井健至記者:「沼津市にあるクラフトビールの醸造所に来ています。ビール作りには欠かせない麦芽。なんとこの麦芽から…『紙』が作られます」

 ビールの色がほんのり残る紙。麦芽から作られていますが肌触りはなめらか。これまでに名刺や箱、コースターなどが、この紙から作られました。この麦芽から紙を作る取り組みに参加しているのは、沼津市のクラフトビール会社「柿田川ブリューイング」です。
 2016年に設立され、独自ブランドの「沼津クラフト」を生産しています。麦芽を煮沸させた後ろ過して麦汁を抽出する工程で排出されるのが、モルト粕(麦芽粕)です。ビール600リットルをつくるのにおよそ180キロのモルト粕が排出されますが、使い道がほとんどなく多くはそのまま廃棄されていました。

画像: 頭を悩ます麦芽の粕

柿田川ブリューイング
片岡哲也 社長:「こちらがビールの麦芽(モルト)粕になります。一部はたい肥として再利用されるんですけど、ほとんどが産業廃棄物とか使い物にならないことが多い。どこのブルワリーもすごく悩ませていますね」

紙を作る計画

そんなときに進められていたのが、環境に優しい新しい素材の紙をつくる計画でした。これまでに廃棄する米や野菜を使い紙の製造をしてきた奈良県の会社「ペーパル」と、環境活動に取り組む神奈川県の「kitafuku(キタフク)」。

kitafuku
松坂匠記 社長:「クラフトビール業界の課題になっているのがモルト粕の廃棄だったので、これどうにかできないかなと課題解決に向けて動き出したのがきっかけです」

 モルト粕を分けてもらえる醸造所を探す中、注目したのがクラフトビールづくりが盛んな県東部。こうして柿田川ブリューイングと県外の2つの会社がタッグを組むことになりました。

kitafuku
松坂匠記 社長:「静岡のほうでも今クラフトビールの街にしようという街づくりが盛んになっていまして、あっちこっちでモルト粕の廃棄どうにかできないかなという活動をされていると耳にしました」

画像: 紙を作る計画

 しかし、モルト粕からの紙づくり…いざ開発を始めてみると一筋縄ではいきませんでした。モルト粕を多く入れすぎると箱にしたときに強度が足りず簡単に壊れる…。麦芽の色味や質感を残しつつ製品としても使えるような丈夫で滑らかな紙にできるかが課題でした。

富士市の製紙工場が協力

それでも商品化できた背景には、紙の街・富士市の製紙工場の力がありました。

ペーパル
矢田和也 取締役:「箱に加工するとか印刷がのるようにするのがかなり難しかった。富士市は製紙業が盛んですし、今回の開発にあたって工場の方がかなり難しい課題に対して一緒に考えてくださった」

 紙の原料となるパルプにモルト粕を均質に混ぜ合わせ、薄く伸ばした後に乾燥させると…。箱としても使える十分な強度と滑らかな肌ざわりを持った紙が完成しました

画像: 富士市の製紙工場が協力

矢田取締役:「出てきてちゃんとした表面も滑らかで、きれいな色の紙ができてきたのでほっとしました」

 7月中旬、完成した製品が柿田川ブリューイングに届けられました。

kitafuku
松坂匠記 社長:「こちらがいただいたモルト粕でつくった紙になります」

柿田川ブリューイング
片岡哲也 社長岡社長:「しっかりした厚みでモルトの色も出ていて、いいですね。麦芽のにおいはしないんですね。SDGsを大事にしていまして、そういう自分たちがやっていることで新しい商品が生まれ、作り手の思いがリンクしてきているのがすごくうれしい」

 ビールの配送に使われたり…飲食店やビアガーデンでコースターとして使われたり…。新しい紙は活躍の場を広げています。