バスは朝2本昼1本…「車がないとねぇ」 減り続ける運転免許の自主返納…中山間地の高齢ドライバーの本音は 静岡市

 今、社会問題となっている「高齢ドライバーによる交通事故」。免許返納という手段もありますが、こんな声も…。
牧田実さん (81):「こんな奥の方なんですよ。だから車がないとどこにも行けなくなる」
Q.バスはこの辺ある?
重美さん:「ありますよ、1日何本か。朝2本くらい。お昼に1本、数えるほどしかないね」
 車社会の静岡県。中山間地では車が必要不可欠な実態が。高齢ドライバーの本音を取材しました。

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相次ぐ高齢ドライバーの事故

 15日、大分県別府市で起きた交通事故。突然右から現れた赤い軽乗用車が歩道に突っ込み、木に激突して停止しました。

目撃者:「びっくりしました。後方からブーンとアクセルをふかした音がして、アクセルとブレーキを踏み間違えた感じで、カーブを曲がれずに突っ込んでいった」

 撮影者によると、運転していたのは高齢の女性で、ケガはなかったとみられるということです。高齢ドライバーの操作ミスによる事故は、全国で相次いで起きています。

画像: 静岡市の事故現場

静岡市の事故現場

 2月11日、北九州市では、住宅街で暴走を繰り返す事故が発生。運転手の70代の男は、「パニックになり運転操作を誤った」と供述していると言います。また、今月10日には静岡市の山間部でトラックがガードレールを突き破って転落。70代の運転手が死亡する事故も発生しています。

免許返納率は全国的に減少傾向

画像: 免許返納率は全国的に減少傾向

 警察庁が公表しているデータによると、75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故の推移は、2018年がピークで、そこから一度減少傾向にありました。ところが、おととしと去年は再び増加傾向となっています。高齢者の交通事故防止対策の一環として掲げられているのが、運転免許の自主返納。ただ、そこにはまだ課題も残されています。

スルガ自動車学校 山口祥博指導員:「今の自分の記憶力や判断力、状態を理解してもらって、今後の運転に役立ててもらえればいいんじゃないかと」

 静岡市清水区の自動車学校で行われていたのは、75歳以上の高齢ドライバーたちが、運転免許更新のために受ける高齢者講習です。実はいま、高齢者の免許返納率は全国的に減少傾向となっています。

75歳「車なしでは…」 77歳「通勤の時間が増えてしまう」

 警察庁のデータによると、2019年には全国で60万件以上あった自主返納が、おととしは55万件、去年はおよそ51万件と、ここ数年右肩下がりで減少が続いていて、県内でも4年前は2万件を超えていましたが、去年は1万6000件ほどにまで減っています。背景の1つとして挙げられるのは、返納による日常生活への懸念。警察庁が高齢者からとったアンケートによると、返納しない理由の1位が「車がないと生活が不便なこと」となっていて、車がないと買い物などに支障をきたすと考えている人が多いのが現状です。実際に講習に来た人たちも…。

画像: 75歳「車なしでは…」 77歳「通勤の時間が増えてしまう」

今年75歳の講習者
Q.日頃、車は運転する?
A.毎日のように運転している。とても車なしではいれない。まだちょっと孫を送り迎えするので、なるべく、これ ( 講習 ) をやってとりたいと思っている。
Q.車がないと困る?
A.不便ですね。

今年77歳の講習者
「車がないと困る。通勤の時間が増えてしまう、自分で運転しないと。バス停までは結構歩かないといけないし、乗り継いでいかないと行けない。直では行かないから。また(免許を)もらえれば欲しい。どうしても免許証はないと困るから」

 ただ、講習のなかで受ける実車教習ではこんな場面も…。
指導員)よく見ないと、車来てたじゃない。
講習者)ごめんなさい…。
指導員)事故になっちゃいそうだね。
指導員)一時停止はなんのために止まるんだろう?
講習者)こういうの(左右確認)だね。こういうのがなかったね。
指導員)止まるだけじゃなくて、止まってよく見ないと。さっきは事故にならなくてよかったけど、気をつけてくださいね。

自動車学校長「生活の足として欠かせない方々もいる」

 県警によると、県内には75歳以上のドライバーが去年12月末時点で24万8000人いるといいます。一方で自動車学校の三浦校長は、免許返納について、したくてもできない実情を抱えた方も多いと話します。

スルガ自動車学校 三浦富士夫校長:「やはり山間部の方々、あるいは病院に通われる方、さらにはスーパーに買い物に行かれる方など、やはり生活の足としてそれ (車) が欠かせない方々もいる。当校においては、このような生活の一部としての免許更新をやっていただくために、専属の高齢者講習担当指導員が行なって、安全で安心して車を運転できるように また事故を起こさないように、そのような指導をしている」

80代夫婦「一番困るのは医者」

 この日、高齢者講習を受けた牧田さん夫妻もそのなかの2人です。

牧田重美さん(81):「2人とも80を過ぎてるので、それを子どもが心配している。なので、運転するには、(家族で決めた)条件がある。夜は運転しないとか。2人が住むのは静岡市の山間部・庵原地区。

 車がなければ日常の買い物もままなりません。この日は講習帰りに、いきつけだという鮮魚店へと立ち寄りました。

画像: 行きつけの鮮魚店も車で20~30分かかる

行きつけの鮮魚店も車で20~30分かかる

牧田重美さん (81)
Q.この店は家から車で来ると何分くらい?
A.20~30分かな。
Q.免許返納するとここに来るのも大変?
A.大変です。(住んでる) 山が違うしね。一番困るのはやはり医者。村医者でそれこそ10分~20分走れば医者に着く(近さ) が、やはり(困るのは) 医者。

 2人にとって、車は生命線でもあります。

牧田実さん (81):「こんな奥の方なんですよ。だから車がないとどこにも行けなくなる」
Q.バスはこの辺ある?
重美さん:「ありますよ、1日何本か。朝2本くらい。お昼に1本、数えるほどしかないね」

 これまでは無事故で運転を続けてきたそうですが、今後の運転については…。

牧田重美さん:「体力と能力と頭の力と、どういう風に動くかというのも自分にも未知数のことなので、運転を長くしたいというのは状況も変わってくると思う。気をつけて一年でも長く、無理なく、無理は効かないということをよく言い聞かせて、長くなりたいという希望はある」

牧田実さん:「やはり余裕を持って運転しないと、とんでもない事故を起こす可能性もあるので、よほど慎重にしていかないとまずいなと思っている。あと3~4年と区切ることはできないけど それぐらいかなと思っている」