【深刻】「ごみがごみを呼ぶ」…富士山ごみ問題の現場 70代の山岳ガイドに密着 雨具にペットボトル、排泄物まで 静岡
100kg以上のごみを回収することも…
東富士山荘 米山千晴代表:「ごみは確かに多い、特に多いのが今年。全て身軽になって、(山を)下りないと自分の体がもたないということだと思うが、本来持ち帰るべきごみが、意識もうろうとして置いてきちゃうとか、そういう状態」
こう話すのは、6年前から町の委託を受けて近隣の山岳ガイドたちと、富士山のごみ拾い活動を行っている米山千晴さん。これまでに回収したものは、空き缶やペットボトル、帽子や手袋など様々なごみ。米山さんによると、今年のお盆期間は100kg以上のごみを回収することもあったと言います。
東富士山荘 米山千晴代表 :「やっぱり我々は山岳ガイドをやっている以上、きれいな山を登山者の方にご案内したい。そういう思いなので非常に悲しい」
一体、いま富士山では何が起きているのでしょうか。今回、番組では、米山さんと同じように、ごみ回収を行っている2人のガイドに同行させてもらいました。
工藤嘉弘さん(77) 登山好きが高じて静岡・小山町に移住
朝6時半過ぎ、ごみ回収の登山開始。
山岳ガイド 工藤嘉弘さん(77):「だいたい、上りが5時間ぐらい。お盆の休みのころは(ごみが)酷かったが、今はもう登山者がそこそこ落ち着いているので…」
登山歴55年以上の工藤嘉弘さん、77歳。登山好きが高じて小山町に移住し、地元の富士山を守ろうと1年前からこのごみ拾い活動を行っています。
山岳ガイド 工藤嘉弘さん(77):「どうしても、人の心理として目立たないところにポイっと捨ててしまう。それでちょっと入ったこういうところを探したり」
Q.そうすると、ただ登るだけじゃなくて、いろんなところを見ながら?
A.「そうですね。それで時間もかかるし、普通に登山するよりは、余計に余裕を持って出発して帰るようにしている」
池谷廣美さん(73) 「登ると神経痛が取れちゃう」
山岳ガイド 池谷廣美さん(73)
Q.池谷さんはおいくつなんですか?
A.「73歳です」
Q.体力は問題ない?
A.「問題ないってことはないけど、ただ何ていうか…。ごみを拾いながら自分の健康管理」
Q本当ですか?
A.「実際それでね、今も私(足が)痺れてるんですよ。神経痛だもんで。これある程度登ると神経痛が取れちゃうの」
70歳を超えている池谷さんですが、富士登山歴は20年以上の“エキスパート”です。
…とここで。
山岳ガイド 池谷廣美さん(73)
「こういう感じで」
Q.タオルですか?
A.「タオルだね」
木の枝には、登山客のものと思われるタオルが、無造作にかけられていました。
山岳ガイド 池谷廣美さん(73):「たぶん忘れてったんじゃないかな。(ここで)休んで飲み物か何か飲んで、そのまま忘れて行ってしまった。けっこうタオルあるんですよ、ああいう感じで」
二手に分かれてごみを回収
ここからは「メインの登山道担当を工藤さん、脇道担当を池谷さん」の二手に分かれてごみを探します。
山岳ガイド 工藤嘉弘さん(77)
Q.これはタバコ?
A.「そうですね。やっぱり登山道からちょっと入っちゃう。道自体には落ちていなくて、ちょっと脇の方に」
一方、池谷さんは…。
山岳ガイド 池谷廣美さん(73)
Q.けっこう開けてますね
A.「はい。きょうは…ないな。あったわ。そこ」
スタッフ「あっ…」
A.「多分ね、トイレのオシッコだと思うんだよね」
スタッフ「排泄物ですか」
山岳ガイド池谷廣美さん(73):「たまたまそこで見つけた人が嫌な気持ちになると思うんだよね。やっぱり自分のものは自分で持ち帰ってもらいたいね」
池谷さんは、「ごみは、また新たなごみを呼ぶ」といいます。
山岳ガイド池谷廣美さん(73):「やっぱり1カ所そこにあると、だんだんそこに捨てられてっちゃうからね」
Q.していい場所だと?
A.「そういうことなんだよね。おもしろいんだよね、類が類を呼ぶというか。そういう場所には」
登山者から熱いエールも
さらに5分ほど登った場所には、登山者の姿が。
登山者(東京都):「ごみ拾いですか。上まで行くんですか?」
池谷さん:「いやいや途中まで」
登山者:「このへんの休憩スポットが、一番やっぱり多いですか」
池谷さん:「そうだね」
登山客から池谷さんに熱いエールが。
登山者(東京都):「僕らも登りながら、ごみがあったら拾いたい。あと30年続けてほしいと思ってますので、よろしくお願いします。またお会いできるといいな」
池谷さん:「それは無理だ、あと2.3年。ありがたいですね。みんながそういう気持ちになってくれると、富士山もきれいになる」
その後も2人は、茂みの中にあるティッシュや紙ごみ、ペットボトルをいくつも回収。また、ごみは登山道だけではなく、山小屋にも捨てられていて、2人は一息つく間もなく、あらゆる場所のごみを回収していきます。
天候が急変することも…
出発からおよそ3時間半後、天候が急変。
山岳ガイド 池谷廣美さん(73):「ごみを拾うのも大事だけど、自分の体も…」
悪天候の中でも、ごみが落ちていれば、小さなものでも回収しなければいけません。
この日一番大きなごみが…
登山歴が長い工藤さんでも、さすがに疲労を隠せません。ここで、登山道には、この日一番大きなごみが。
山岳ガイド 工藤嘉弘さん(77)
Q.これは意図的に脱いで捨てたごみですね。
A.「恐らく、オーバーズボンというか、レインウェアだと思う」
Q.明らかに結んでますよね?
A.そうですね。
登山道のロープに結ばれていたのは、脱ぎ捨てられた雨具。
山岳ガイド 工藤嘉弘さん(77):「こういうのは、本当に意図的なのが良く分かる」
拾っても拾っても回収しきれない
拾っても拾っても回収しきれない、富士山のごみ。
出発からおよそ6時間後、ようやく目的地である8合目に到着しましたが、ここにも堂々と捨てられたごみの姿が。
下山中も2人はまっすぐに下りずに、道の両脇に目を光らせます。決して楽ではない活動ですが、それでも2人は「富士山を守りたい」という一心で、ごみ拾いを続けています。
その後、下山したのは出発からおよそ9時間後。ブルーシートの上には、この日拾った様々なごみが広げられました。
山岳ガイド 工藤嘉弘さん(77):「一人一人は何気なく捨てているが、それが固まるとこれだけの量になってしまうので、個人の疲れや気の緩みが富士山を汚しているという結果になっているということは、(富士山を)登る方には自覚してもらいたい」
山岳ガイド 池谷廣美さん(73):「人が多くなると、ごみも多くなる。もう一つは捨ててあると、またそこに捨てていかれるという悪循環。だからとにかくきれいにしておかないと、どんどん捨てられてしまうという感じがする」
今年、世界遺産登録から10年を迎えた富士山。世界に誇る山としていくためには、今後、登山者のマナーが重要になるのかもしれません。
(9月9日放送)