被災者救済の道すじは…浮き彫りになった住民と市の溝 いまだ124世帯217人が避難生活 【静岡・熱海土石流災害2年】
おととし7月に発生した静岡県熱海市の土石流災害。発災当初から立ち入りができなくなっていた伊豆山の警戒区域。2年が経ち、ようやく解除の日が近づいてきました。現在も124世帯217人が避難生活を余儀なくされています。9月1日までにライフラインが復旧するのは32棟で、多くの被災者はすぐに生活を再開できるわけではなく、課題は山積しています。
いまだ残る土石流の激しい爪痕
太田滋さん:「うちのところはインフラが整わないということで、なぜインフラが整わないのか、合理的な説明をしてほしい」
被災者の太田滋さんと妻のかおりさん。15年ほど前に建てた「家」は土石流で流されました。今は県外で避難生活を続けていますが、ライフラインの復旧工事が終わらず、9月になってもまだ帰ることができません。
この日は警戒区域の中への一時立ち入りが許可されたため、自宅があった場所を訪れました。
太田滋さん:「のり面が崩れています。下水道管はブルーシートがはがれているときは見えていました」
太田かおりさん:「ガスの管と下水の管がむき出しになっています」
警戒区域の中は土石流の激しい爪痕が今も残っています。
太田かおりさん:「ここに戻ってきて手を合わせると、やっぱりちゃんとしなくちゃいけないなと自分に言い聞かせられる場所になってます。自分の子どもたちの故郷を守らなくちゃいけない」
市に対する不満も
被災者の熱海市に対する不満は、これまでも繰り返されてきました。
おととし10月、斉藤市長が逢初川の復旧に関する説明会で「将来、逢初川上流部沿いに遊歩道を設置する」という案を理想に掲げましたが、これには「生活の再建を第一とする」被災者たちから猛反発。
妻を亡くした田中公一さん:「市長のビジョンっていうのはやっぱり逆撫でですよね。そうじゃないだろって話が」
二転三転する方針に被災者の怒り爆発
そして6月下旬の伊豆山復興事業に関する住民説明会。熱海市の二転三転する方針に被災者たちの怒りが爆発しました。
熱海市は当初、被災した土地をいったん市が買収し、宅地造成した後に住民に分譲する計画を示していました。しかし被災者からは、元々住んでいた土地に住めなくなるのではないかといった声が相次ぎ、市は方針を転換。被災者自身が復旧工事を行い、工事費用の9割を市が補助、1割を被災者が負担する方針に変更したのです。
静岡・熱海市 稲田達樹副市長:「我々が全国の被災の補助金を調べた中で、(東日本大震災のとき)仙台市が9割補助を出していると」
被災者:「それは自然災害だよ!」
この方針転換について「住民への聞き取りが不足している」といった声が上がり、市は6月23日、その補助費用を盛り込んだ予算案を取り下げると表明しました。二転三転する市の方針。市から住民への説明が遅れたことも住民たちの怒りに拍車をかけました。
被災者:「最初から信頼関係が成り立っていないと思うんですよ。住民と行政側の。被災者は決定通知が送られてきただけ。市民の代表である議員はマスコミ報道や会見で知ったって状況だったじゃないですか。なぜ逆になるんですかね。市長に聞いてます。市長が中々話し合いにも出てこないから。こういう場しかないから市長に聞いているんですよ」
静岡・熱海市 斉藤栄市長:「タイミングにつきましては、いろいろな齟齬(そご)があったと我々も反省しています。しっかりと事務的なプロセスが上手く行かなかったところは大変反省している」
市のヒアリングは10世帯のみ
被災者たちから特に非難が集中したのは、分譲する計画から方針を変更した際に市がヒアリングをしたのが10世帯のみだったことです。
市の担当者:「個別面談調査124軒のうち、改めて建て替えを希望する10軒に意見を伺っております」
母親を亡くした 太田朋晃さん:「元いた場所に帰れるんなら帰りたいって言ったのに、私は帰りたいって方に入ってなかったってことか。その10世帯には入ってなかったよね」
被災者:「10世帯の意見を聞いて、この方式に決めたんじゃねえかよ。違うのかよ。そういうふうにみんな感じてるよ、ねえ。俺らは家がなくなっちゃった人間だよ、なあ。それで1000万円まで出します。1割負担しろってどういうことだよ! 腹立ってんだよ、みんな。話を聞いてると。もうちょっと考えろよ! 市長!」
説明会が終わっても住民たちの怒りは収まりません。
太田朋晃さん:「要望書を書いたので、よろしくお願いします。なぜこうやって渡すか分かりますか? 個々にお伺いしても聞いてもらえないから、この場で市長に渡すんです」
住民と市の間の溝が浮き彫りとなった今回の説明会。市は今後も住民説明会を開き、住民に理解を求めていくとしています。
静岡・熱海市 斉藤栄市長:「きょう率直に厳しいご意見を踏まえて、信頼関係とありましたが、一つ一つ皆様から頂いた要望に、できないこともありますが、誠実に対応していく事でしか答えられないと思っている」