いったい何が…現場取材で見えてきたもの ロッククライミング中の男女転落事故 静岡・南伊豆町
現場は100メートル以上の垂直の壁
伊地 健治アナウンサー:「クライミングのルートがある岸壁の、まさに目の前までやってきました。こうして海面から見ますと、もう垂直に近いような壁が100m以上そそり立っているというのがわかります」
8日、南伊豆町妻良(めら)の吉田海岸で、クライミング中の男女3人が転落。この事故で、富士市に住む女性78歳とその息子48歳、埼玉県在住の国際山岳ガイド66歳が死亡しました。この場所では、これまでもクライミングをする人の姿が数多く目撃されていました。
渡船業者:「木があるじゃん、斜め上に木があるら。あの辺からロープをかけて登ってるんだよ」
実は人気のクライミングスポット
垂直にそびえ立つ巨大な岸壁。高さおよそ150mのこの崖には「魔王」と「もくまおう」と名付けられた、2本のクライミングルートがあり、愛好家から人気のスポットだと言われています。伊豆市でアウトドアガイドを務める根岸 尚宗さん。およそ20年のクライミング経験を持つ根岸さんもここを登ったことのある一人です。
アウトドアガイド
根岸尚宗さん:「僕が登ったのはもうちょっと水面から高いところから登っているので、水面だとかなり高く感じますね」
伊地健治アナウンサー:「こんなところを登るのかって、ちょっと圧倒されますけど」
根岸尚宗さん:「よく見ると結構掴むところがあるので、そんなに難しい場所ではないですね。溶岩なので、結構溶岩のガスの出た穴とかが空いているんですね。それがいい感じに掴みやすいようになっていたり、ああいうのがいい手がかりになっていたりします。この傾斜で、掴むところが大きくて(難易度が)優しいので、すごく人気が出ている感じだと思います」
亡くなった女性は活動的な78歳
根岸さんによると、このポイントは経験者が同行すれば初心者でも登れるほどのレベルだということです。今回亡くなった女性は、78歳という年齢ながらとても活動的な人だったと、近所の人は口を揃えます。
近隣住民(女性):「山登りに行ったりすることは知っていたんですよね。
岩登るやつも、つい最近始めたばっかみたいな感じですよね」
近隣住民(男性1):「山登りなんか、よく息子と2人で行っていたんだけどね」
近隣住民(男性2):「元気はいいです。バレーボールみたいなことをやってるんですけど、本当に元気よく飛んだりね。若いですね、動きがね」
話を裏付けるかのように、家の外にはスポーツ用品店の袋が…夫と息子と3人で暮らしていたという女性。近所の人の話によると、実は20年ほど前に、当時・大学生だった次男を亡くしていました。そのためなのか、残された息子に対して、強い思いを抱いていたそうです。
近隣住民(男性1):「息子と2人とか旦那さんと3人でとか、よく出かけていた」
近隣住民(男性2):「今度亡くなった子を一生懸命好きなことをやらせて自分も一生懸命やる、本当大したもんですよ。あの奥さん。息子さんのために生きているというような感じに見えました」
日頃から体力づくりを心がけていたという女性。本当なら、きょうも近所の仲間とジムで元気に汗を流しているはずでした。
県警はドローンで調査
遺留品の有無や3人が転落した高さなどを調べるため、県警はおととい、ドローンを使って転落した現場の捜査を行いました。事故の起きた崖には、海岸線から歩いていくことはできず、丘を越えていかなければなりません。ただその道も、斜面が急な上に足場が悪く、尖った藪が生い茂るなど、ある程度の体力が必要となる状況でした。
伊地健治アナウンサー:「今、下から登ってきましたけど、視界が開けましたね根岸さん。あの岩壁を登るためには、ここからどうやってスタート地点まで行くんですか」
アウトドアガイド
根岸 尚宗さん:「ここからですね、本当にまっすぐ下に降りて行く道が…
伊地アナ:「この急斜面を海岸まで下に降りるんですか?」
根岸さん:「そうですね」
道といっても獣道に近く、垂直に近い急勾配をロープを頼りに降りて行くことになります。こうしたアクセスの困難さは、難易度が低いとされるこのポイントにとって小さくはないリスクになっていると、根岸さんは指摘します。
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根岸 尚宗さん:「携帯電話の電波が通じない。民家が近くにあるところから裏手になるので何かトラブルがあっても、近隣の方も気づかない。助けを呼んでも気づかれないというのが、大きいリスクの一つだと思います」
経験豊富なガイド同行でも…
事故を通報したのは、近くにいた釣り人で地元の男性によると、当日の午後2時半ごろ、3人が海上保安庁のゴムボートで搬送されていたということです。警察は、発見時3人はクライミング用のロープで繋がっていたとしています。
伊地アナ:「見つかった3人がロープでつながれていたということなんですけど、いわゆる崖を登って行くのに、皆さん命綱をしながら登っていると考えていいんでしょうか」
根岸さん:「そうですね。落ちても最悪、直前の「支点」で止まってロープでぶら下がるというような状況にして登るんですね」
この「支点」を作るために使われる道具の一つが「カム」です。
伊地アナ:「引っ張って、すぼめて中に入れるんですね。このくらいですかね。あっ、かたい。全然抜けないです。上に引っ張っても下に引っ張ってもダメ。こんなにしっかり固定されるんですね」
ここにロープをかけて、さらに進んだところに次の支点を作る。これを繰り返すことで、一つの支点が外れた場合にも、他の支点が機能すれば、転落することを防ぐことができるというわけです。
今回、親子をガイドしたのは埼玉県新座市のガイド(66)でした。このガイドは国際山岳ガイド連盟に認定されたガイドで、クライマーなら誰もが知っているような経験豊富なガイドだったといいます。
事故の原因とは…
では、なぜ今回の事故は起きてしまったのでしょうか。
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根岸 尚宗さん:「(転落の)可能性としてあるのは、この支点をセットする前の登り出しの段階で落ちてしまった、あとはカムが外れてしまった可能性もあるかなと思います。
伊地アナ:「やっぱり3人は常にロープでつながれているということから一人が落ちるとみんな落ちてしまう?」
根岸さん:「そうですね。はい」