ワサビ農家台風15号被害からの復活へ 農家が共同作業で上質な特産品を守る

静岡県のワサビ産出額は、年間およそ30億円。全国シェア7割を誇ります。ところが去年9月の台風15号で、静岡市の山間部にあるワサビ田の多くが、崩壊するなどの被害を受けました。
 
 台風被害から、およそ8カ月。ワサビ田は、今どうなっているのでしょうか。

画像1: ワサビ農家台風15号被害からの復活へ 農家が共同作業で上質な特産品を守る

伊地健治アナウンサー 静岡市葵区横山:
「静岡の市街地から安倍川沿いに北上してきて、さらに山間の林道を上がってきました。この場所、標高400mほどの所に、斜面に造られたワサビ田があります。実はこのワサビ田。去年9月の台風15号で、大きな被害を受けました。」

 150年以上続く、ワサビ農家の6代目、小澤達彦さんに、案内していただきました。

画像2: ワサビ農家台風15号被害からの復活へ 農家が共同作業で上質な特産品を守る

伊地「いやいやいや、大変な斜面ですね」

小澤「ここが今、復旧作業の途中ですね。向こうの ネットのところ、本来ネットがあったところから 土砂が落ちてきた。岩も落ちてきた」

伊地「それが全部ワサビ田に覆いかぶさったんです か?」

画像3: ワサビ農家台風15号被害からの復活へ 農家が共同作業で上質な特産品を守る

小澤「全部。見た目白いところは復旧工事が終わっ たところ」

伊地「わかります。古くからある石垣は黒くて、新 しい石垣は白い」

小澤「ここまでするのに3か月ぐらいかかった」

伊地「台風の被害が完全に復旧するには?」

小澤「復旧自体に3年から5年、そこから植え付け て、長くて5~7年」

伊地「金額は?」

小澤「何億円かかな。行政に支援を求めたいけど難し いかな」

 現在も、ワサビ田には、石垣が崩落したまま、土砂が流れ込んだままの箇所があります。

画像4: ワサビ農家台風15号被害からの復活へ 農家が共同作業で上質な特産品を守る

伊地「台風のあと被害を受けなかったところでも、 半年後でも何か影響が?」

小澤「静岡市全体である。病気がちになって、商品 にならないものが一定数あるとか」

上質なワサビが足りない①ワサビ漬け

画像1: 上質なワサビが足りない①ワサビ漬け

そもそも、静岡市は「ワサビ栽培発祥の地」とされ、およそ400年前、徳川家康の時代から、上質なワサビの生産地として知られています。
 
 静岡浅間通り商店街にある「野櫻山葵漬」では、地元のワサビを使って、「わさび漬け」を手作りしています。

画像2: 上質なワサビが足りない①ワサビ漬け

野櫻山葵漬 野櫻喜裕さん
「ワサビって1年半から2年かけてつくるものなので、それが一瞬でなくなってしまうなんて、言葉がでない」

 去年の台風被害を受けて、原料となるワサビの入手に苦労することもあると言います。

野櫻山葵漬 野櫻喜裕さん
「現状で言うと、入荷量が非常に少ない。価格も上がっている。元に戻らない」

画像3: 上質なワサビが足りない①ワサビ漬け

上質なワサビが足りない②そば店

「オクシズ」につながる安倍街道沿いにある、そば店でも、静岡市のワサビを使用しています。

画像1: 上質なワサビが足りない②そば店

手打ち蕎麦 こなや 松岡洋二郎さん
「生産農家の方もそんなに多くはない中で、(静岡市のワサビは)全国的に人気なので、自分たちのところに入ってくる供給量がなくなってしまうのでは
そのへんが大変心配になりました」

 この店では、静岡市のワサビが入手できなくなり、伊豆から取り寄せるなど、対応に追われたそうです。

手打ち蕎麦 こなや 松岡洋二郎さん
「商品のサイズが小さくなったり、数パーセント値上がりもした状態」

画像2: 上質なワサビが足りない②そば店

上質なワサビが足りない③一度の災害の影響が数年にも

ふたたび小澤さんのワサビ田…。

 比較的被害が軽かったワサビの、収穫時期を迎えています。

画像: 上質なワサビが足りない③一度の災害の影響が数年にも

「ちょっとみせてもらっていいですか」

「すごいワサビ見えました」

「横になっているですね」「地中に子ども、孫」

「ここにもあった」

ワサビ田「そのもの」の被害はなくても、細かい泥などがワサビ田に入ることで、病気になってしまう物もあるそうです。

伊地「ワサビって植えて出荷まで、そんなにすぐではない」

小澤「畑に入れてから1年から2年」

伊地「一度の災害の影響が数年にも及ぶんですね」

静岡ワサビ復活のカギは

伊地健治アナウンサー
「品質の良さで知られる静岡市の安倍奥で作られるワサビ。しかし、台風15号によりワサビ田に大きな被害が。これを機に複数のワサビ農家のみなさんが、共同である取り組みを始めたのです」

画像1: 静岡ワサビ復活のカギは

 小澤さんが中心となって始められたのが、ワサビ農家らが共同で行う「調整の作業」です。

「調整」とは、ワサビについたゴミを取ったり、茎を一定の長さに切りそろえたりすることをいい、一般的には、それぞれの農家が、収穫後に、ワサビ田で行う作業です。

Q共同でやりはじめて変わりました?

ワサビ農家 大村和信さん:
「まず一番変わったのは、体がすごく楽になった。
5つか6つの工程があるのですが、これを流れ作業でやることで労力が減るわけですよ。自分でやっていた時と比べて。まずそれが一番楽になりましたね」

画像2: 静岡ワサビ復活のカギは

 今年1月からは、およそ40軒のワサビ農家が、
調整作業を、わさび共販委員会に依頼しています。

伊地健治アナウンサー:
「先ほど皆さんで下のほうをきれいに削ったワサビがカゴに並べられていますが、さらに次の工程に移っています。今度はワサビの上のほうを削ったり、余分な茎を取ったりして、さらに見た目を良くしているのです。そして少し、みずみずしいと言いますか、ほのかにワサビの香りもしてきます。」

画像3: 静岡ワサビ復活のカギは

 ワサビの見た目を良くするための「調整作業」
私も体験させていただきました。

 実は収穫作業よりも、調整作業のほうが、手間がかかるということです。

「皆さん手早くやっているんですけど、僕2倍から3倍の時間をかけて」

「こういう工程を繰り返すって驚きですよね」

「ワサビって畑でとって、ちょっと洗って出荷できるのかと思ったら大間違いで、ここまで手を掛けないと評価される商品にならない」

「ワサビの出来だけじゃなくて、この作業に商品価値がかかっているという感じですね」

「そうですね、ワサビの出来よりもこの作業のほうが価値を左右する」

「ここを丁寧にやるかどうかで、価値が2倍3倍になることが…」

画像4: 静岡ワサビ復活のカギは

「私もワサビに対する見方が変わりました。もし生ワサビを食べる機会があったら、これはどうやってきれいに掃除しているのかというのを見て食べようと思います」

 これまで、ワサビ農家がそれぞれの「やり方」で行っていた「調整作業」を一括して行うことで、品質が安定。

 市場での評価の底上げができたといいます。

 ワサビを持ち込む農家は、手数料を支払う必要がありますが、個人で「調整作業」をする手間がなくなり、空いた時間をワサビ田の復旧などに使うことができます。

 これにより、静岡市のワサビの生産量を増やすことができるのでしょうか。

JA静岡市わさび共販委員会委員長 小澤達彦さん
「以前あった販路プラスアルファを維持していくのが、生産面積が減ってしまったので、それがやっと」

画像5: 静岡ワサビ復活のカギは

Q今、需要に対して、まだまだ追い付いていない?

「そうですね、ワサビの生産全体が減っているというのもあって、今全国的に供給が足りていない」

 高齢化や、台風の被害を受け、廃業するワサビ農家がいる一方、「調整作業」を共同で行う取り組みが、静岡のワサビ復活の「カギ」になるかもしれません。

画像6: 静岡ワサビ復活のカギは