勤続5年で手取り16万…元保育士に聞く現場の実態 相次ぐ保育現場での不祥事の背景に「人手不足」? 工夫して改善する園も

 去年から静岡県内では保育現場での不祥事が相次いで発覚しています。その背景のひとつと考えられるのが「保育士の人手不足」です。2月に発覚した浜松市のこども園の不適切保育では、法律で定められた人数を下回る人数で保育をしていたことが明らかになっています。

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元保育士「自宅でも仕事」…それでも5年目で手取り16万ほど

 保育の現場の実態はどうなっているのか? 5年前まで保育園で働いていた元保育士に話を聞くことができました。

画像1: 元保育士「自宅でも仕事」…それでも5年目で手取り16万ほど

元保育士 Aさん:「保育士とか幼稚園の先生というと、作るものが多いと思うので、それを保育園とか幼稚園の勤務時間内でやるのは難しい部分があって、どうしてもそれを家に持って帰って作って、(園に)持っていくみたいな感じのお持ち帰りが、多分ほとんどの(保育士などの)方が経験されていると思う」

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 こちらの写真は、当時、元保育士のAさんが2歳児~5歳児クラスを担当した時に作った節分用の豆入れ袋。一人で約25人分を作りました。勤務中は子ども優先で働くため、時間が取れず、こういった制作物をほぼ毎日自宅に持ち帰り、寝る時間を削って作業していたといいます。こうした「お持ち帰り作業」が負担の1つになっているといいます。

元保育士 Aさん:「とにかく大変、子どもが好きでなった保育士なのに、なんか書き物ばかり多いし、とにかくその子どもと触れ合う楽しさが半減してしまうほど苦労があったので」

 こうした作業がある中で、さらに深刻なのは「給与体系」だといいます。

元保育士 Aさん:「(1年目で)だいたい総支給で17万ぐらいなので、手取りで15万いかない時もありました。一年に一度(昇給で)だいたい3000円から5000円上がるって感じだったんですけど、5年勤めてやっと18万超えたぐらいで、総支給が。でもそれでもやっぱり5年目でも手取りで16万円とかでしたね」

 女性は、こうした事情を背景に、やむなく退社。現在は結婚し、保育の現場からは離れています。再び保育士の仕事に戻りたいとも考えていますが、頭をよぎるのはやはり待遇面だと言います。

元保育士 Aさん:「給料がしっかりしていれば、ちょっと負担でも頑張れるっていう気持ちになるので、一番は給与面ですね。もっと見直していただきたいなと思いますね」

支援センター…年間100人の採用目指すも現実には月4~9人

画像1: 支援センター…年間100人の採用目指すも現実には月4~9人

 保育士の求人を扱う施設でも、人材不足が顕著に表れているといいます。保育士の資格を持ちながらも保育の現場を離れている人のことを「潜在保育士」と言います。こちらの施設ではそういった潜在保育士や、保育所などで働きたい人に向けて就職支援を行っています。ところが…。

しずおか保育士保育所支援センター 望月美津子専任職員:「(月の内定者数は)少ない時で4人、多い時で9人ですね」

Q.数字の割合としては多いのか? 少ないのか?
A.「そんなに多くはないと思う。(支援センターでは)年間100人を目指しているので、本来であれば毎月10人くらいは就職できればなと思う。」

画像2: 支援センター…年間100人の採用目指すも現実には月4~9人

 就職先が決まらない要因の一つが「働く条件が合わない」ことだといいます。

しずおか保育士保育所支援センター 望月美津子専任職員:「給料の水準とか給与面とか通勤に時間がかかってしまうということだとか、安心して休めるような(人員配置の)体制ができているかどうか、そういったところも要因になっていると思う。」

 特に20代・30代の保育士の中には、自身の子どもの子育てと仕事の両立が難しいと感じている人もいるそうです。

しずおか保育士保育所支援センター 望月美津子専任職員:「働きたいと思って足を運んでいただく方も多くはいらっしゃるんですけれども、なかなかその園と求人とのマッチングができないというところが多くあります。ただ最近になって、園の方でもなるべくいろんな働き方で多様化してきておりますので、さまざまな時間帯の勤務を作って、なるべく対応していただくようになってきていると思います」

資格持たない「保育補助者」を雇用…保育士の負担を軽減

 そんな中、県内には保育士不足を改善しようと工夫をこらしている園もあります。掛川市にある認定こども園「桜木こどもの森」。現在、18人の保育士が在籍し、0歳児から5歳児までの113人を受け入れています。

画像1: 資格持たない「保育補助者」を雇用…保育士の負担を軽減

西尾梓アナウンサー:「こちらのこども園では、これまで保育士が行っていた給食の配膳や園児がままごとに使う小物づくりなどの作業を、保育士ではなく補助員が行うことによって、保育士の負担を軽減しているということです」

 園では、保育士の資格を持たない「保育補助者」を雇用。これまで保育士が保育以外でやっていた園内の掃除や小物づくりなどの作業を保育補助者が代行しています。その結果、保育士の働き方にも変化が…。

画像2: 資格持たない「保育補助者」を雇用…保育士の負担を軽減

保育士:「(以前は休憩が)取れなかった、ここ2、3年で昼の間に休憩を取るように職員間で時間を作っていたので、それは全然違う」

保育補助者 
Q.保育業務が円滑に進んでいるなと感じる?

A.「先生方も(作業を)やっておきましたって言うと、「ありがとうございます」って感じで、子どもたちもなんかこうやっているとありがとうって言ってくれるので、そういう言葉を聞くと、やっていてよかったなと思う」

 こちらの園では、6年前、保育士の有給休暇取得率がおよそ30%に対し、今年度はおよそ80%まで上昇。保育補助者の導入で保育士の働き方が変化しました。しかし、保育士不足を改善するためには、まだまだ課題があると感じているようです。

画像3: 資格持たない「保育補助者」を雇用…保育士の負担を軽減

認定こども園「桜木こどもの森」 岡田博次園長:「保育士の処遇の部分が一番大きな課題かなと思います。まずそこは上がっていくこと。それから労働環境の部分でも、有給休暇の消化であるとか、あとは時間外勤務の関係、またはサービス残業ということも、まだまだ実際にはあると思いますので、その辺りを改善していくことで、この仕事が本来の子どもたちを育てるという魅力ある仕事だということを、より発信していくことが必要かと思いますね」