身長153cm体重45kgの女子高生〝横綱〟…昼はフツーの高校生、午後からは相撲にキックボクシング 静岡
6月15日 女子相撲の全国大会が兵庫県で行われました。その大会では静岡勢が大活躍をみせました。今回、女子相撲をけん引する平口幸芽さんに密着、大会の結果は驚くべきものになりました。身長153センチ 体重45キロ。小柄ともいえる平口幸芽選手が生み出すパワー。相撲に挑む平口幸芽さんを追いかけました。

ごく普通の高校生
静岡商業高校=静商は、高校野球の伝統校。文化系でも「情報処理部」が全国入賞を果たすという文武両道をいく県立高校です。2週間後に全国大会を控えた幸芽さんに会うことができました。
60センチのロングヘアが印象的な幸芽さん。今からお昼ごはんというので、覗かせてもらうと。

彩り豊かなサラダです。
平口幸芽さん:「私が親にリクエストして、パパや妹とは別メニューでつくってもらってます。めっちゃヘルシーにしてササミとかタマゴとか玄米。毎日玄米です」
Q.「結構カロリーが高いものを食べるのかなと」
平口さん:「全然 バランスよく」
相撲のイメージとは違うアスリート食。

同級生 川村綾音さん:「見た目自体も小柄で小さいから、相撲やっている感じがしなかったので、最初はびっくりしました。なんか、ふざけて押し合いとかすると強いなって」

綾音さん、3年間同じクラスの大親友。高校生らしい楽しみも…。
平口さん:「お揃いで家で書いた。こういうかわいいものがめっちゃ大好き。おしゃれとか大好き」
見れば見るほど、ごく普通の高校生。けれど、全国トップクラスの実力をもつ幸芽さん。強さの秘密を探っていきます。

高校に「相撲部」はない
現在、静商には相撲部はありません。週2回、卒業生たちが外部コーチとしてこの場所を開放。近隣の中学生も参加する稽古場なんです。
笹村朱里アナウンサー「学校の中にこんなに立派な土俵があるというのが結構驚きです」
OB川上明廣さん:「県内では高校だと3,4校じゃないですかね」

そもそも「女子相撲」について、みなさんはご存じでしょうか? 1997年に初めて全国大会が行われた女子相撲。今では世界での人気も高く、およそ87か国で行われ、競技人口は8000人ともいわれています。競技は、体重別の階級制。女子ならではの体の柔らかさから、大相撲でも珍しいアクロバティックな技が見られるのも特徴です。
さらに、もっとも強い人物を決める「無差別級」の戦いも。体が大きいからと言って、勝つとは限らないのが相撲の魅力です。
きっかけは「わんぱく相撲」
そんな女子相撲に魅せられた人物が幸芽さんです。きっかけは小学1年の時に、妹のわんぱく相撲を見たこと。幸芽さんの出身、焼津市は相撲が盛んな地域。すぐに幼稚園児から社会人までが参加する「やいづ相撲クラブ」に入部しました。

幸芽さんは、持ち前の真面目さと、負けん気の強さでどんどんチカラをつけていき、小学4年でなんと全国優勝を果たします。

全国で優勝する先輩女性の存在も影響しました。こちらは中量級の福里愛美選手。

そして、軽量級のレジェンドといわれる、松浦みな美選手。今では、幸芽さんも憧れの存在です。

Q.幸芽さんってどんな人?
8歳女児:「相撲が強くてかっこいい。幸芽さんのようになりたい」

平口幸芽さん強さの秘密
幸芽さんは、静商での稽古を週2回、焼津での稽古を週3回行っています。稽古開始です。男子2人は焼津出身の幼馴染。
笹村アナ:「いま四股を踏んでいますが、かなり股関節周りが柔らかい。片足の時に全く体幹がぶれていないんです」

四股を100回、踏んだあとは…。
笹村アナ「すり足ですか? 下半身を下げた状態で」
OB戸田さん:「一番きつい位置でやること。常に(股を)割った状態で一歩一歩ゆっくりゆっくり」

笹村アナもすり足に挑戦しますが、20秒で断念。幸芽さんは苦もなく行っています。
笹村アナ:幸芽さんはどういったところがすごい?
OB戸田さん:「彼女の持ち味はスピード。立ち合いからの相手のまわしをすぐにとる、技がすぐに出せる、立ち合いからのパッと出る一歩が早い。体幹が全体的にしっかりしていて、そこに自分が持っているスピードと技があるので彼女は強い」
次はより実践的な稽古だといいます。
笹村アナ:「想像の何倍も激しい」
OB戸田さん:「音を聞いてもらえると違うし」
笹村アナ:「スピードがかなりあります。素人が見ていても感じます」
OB戸田さん:「相撲の取り組みは第一歩が、そこでどうなるか、自分がどういう形にもっていけるのか」
立ち合いの一歩目について、休憩中の幸芽さんに直撃。
平口さん:「立ち合いが相撲は命。相手よりも有利な形になれば、その後の展開も変わっていくので、立ち合いは鋭くいくことにしています」

でも、何がスピードを生むのか。その秘密を教えてくれました。
OB戸田さん:「足の横ではなく親指です。親指で踏ん張る
笹村アナ:「親指太いですね!」
平口さん:「足で噛んでいるから、ギュッとする相撲やるときは」
スピードを生むのは足の親指。
前に向かうチカラを生むために、最後まで踏ん張るのが足の親指。鍛えるために指でタオルを掴む訓練があるそうです。2時間の稽古。最後は全力でぶつかります。
稽古の後の「練習」は
稽古を終えて立ち寄る場所がパーソナルジム。週2回以上通っています。教えてくれるのは体の使い方に精通する濵村さん。古武術の師範でもあります。
神越流師範 濵村泰司さん:「相手の体重を足で止めるので、もも周りの筋肉が重要です。強い下半身をつくる意味で、あまり男の人でも上げないような重さやってますが…」
上げたのは90キロ。幸芽さんの体重の2倍以上の重さでトレーニングしていました。

さらにここで行う特別なメニュー、キックボクシングです。
濵村さん:「みんなと同じ稽古をしていても頭打ちしてしまうので、そこをどういう風に変えていくかを意識してます」
笹村アナ:相撲にはどうつながる?
平口さん:「瞬発力と持久力、体力がたくさんつきます」
濵村さん:「力はあるわ、スピードはあるわ、身体的なポテンシャルはかなり強い」

毎日必ず相撲のための鍛錬をしているという幸芽さん。
笹村アナ:「高校時代青春を相撲に費やしてる感じ?」
平口さん:「本当にそんな感じです。相撲が生活の一部、人生みたいな感じ」
笹村アナ:「それについてはどう感じている?」
平口さん:「うーん… ちょっとキツイなっていうのがあるから、自分の美容とかトレーニングとか自分の好きなことを入れつつうまく相撲と一緒に生活をしていこうかなって」
夢は美容業界で働くこと
相撲は変わらず好き。けれど、勝ち続けることの苦労を感じているそうです。幸芽さんは高校3年。大学に進学して相撲を続けるつもりです。しかし、将来の仕事は、幸芽さんらしいものでした。
平口さん:「夢は私の好きな美容業界で働きたいです。自分は相撲をやってると、顔にも傷つくし筋肉もすごいつけるから世間的には美しいという感じではないから。でもそれって、人それぞれだから、そういう固定概念をなくして、それぞれの人が輝けるような社会になっていければいいな」

相撲でも自分らしく輝きたい。稽古場でこんなやりとりがありました。
「彼女髪の毛長いじゃないですか。髪の先っぽが(地面に)触れただけで、負けなんですよ。女子相撲特有の負けがあるんですよ」
笹村アナ:「髪の毛は長いのが好き?」
平口さん:「始めた頃はめっちゃ短かったけど、今は伸ばしてロングにしてます
笹村アナ:「それは何でですか?」
平口さん:「おしゃれのため」

大会まで1週間をきったこの日。本番を意識した稽古のはずですが、2連敗。
笹村アナ:「あと1週間ですが調子は?」
平口さん:「調子ダメ。一番でもダメな相撲をとっちゃうと「ダメだ」ってなって、テンションや気分が下がっちゃう。頑張ります。とりあえず」
どうにも、集中できていないみたい…。

6月15日 大会
Q.どうですか調子は
平口さん:「めっちゃ緊張してる プレッシャーじゃないけど勝たなきゃみたいな
髪の毛がほぐれないようにがっちり固めるのは、妹のあさひさんの役目。弟の太一くんは緊張をほぐす役目です。1時間前、焼津から相撲クラブの代表も駆けつけてくれて準備万端のはず。あとは…心だけ。

「全国女子相撲 選抜ひめじ大会」。今年で11回目、小学3年生から社会人までおよそ190人の選手が参加しました。
実はこの全国大会で、静岡県が快挙を遂げていました。無差別級の決勝戦で対峙したのは、焼津市出身の県立大生、福里選手と、沼津市の飛龍高校3年、岸本選手という静岡対決だったんです。「取り直し」の末、決勝の軍配は岸本選手に。静岡県勢の強さが光る大会になりました。

いよいよ、幸芽さんの出番。中高生50キロ未満級は21人が参加。幸芽さんはシード権があり2回戦からの出場です。優勝を狙う平口幸芽選手。初戦は寄り切り。準々決勝は下手投げ。準決勝も下手したて投げ。順調に勝ち進み決勝進出です。
実は取材の際にこんな弱音が…
平口さん:「いま一年くらい全国大会で優勝できてなくて、ずっと準優勝が続いてて、決勝の時のメンタルが弱いなと思ってて、ここまで来たらいいかなっていう弱い心が出ちゃうから、そこを乗り越えられるようにしたい」

弱さを乗り越える、幸芽さん強い心。決勝戦、立ち合いで後れをとるも、落ち着いて利き手を回しにかける必勝のスタイルに。そして相手の体勢が崩れた一瞬を見逃さない。前に!前に!前に!前に!強い心で、押し出した。優勝です。

平口さん:「「ありがとうございます。ようやく一番はホッとしてます。すごいプレッシャーだったんで、勝たなきゃ勝たなきゃと思ってたんで、嬉しいんですけど、それ以上に安心が勝ってます 最後決勝は止まるのはやめようと思って、離れたけどずっと攻めようと思ってて、本当に渾身の…」
1年ぶりの全国優勝です。

ところが、喜んだのもつかの間…
「見ておく?」
平口さん:「そうですね 赤い子が強い。決勝でやって負けたことがある」

Q.「次の大会では当たる?」
平口さん:「あたります、絶対にあたります」

今度は別の全国大会もあります。そこでは一般の部と同じ組み合わせに。つぎを見据えたそのまなざし。幸芽さんの戦いはまだ終わりません。