【特集 高校野球】たった3人の応援団指導部 声が出せないスタンドで奮闘 その熱いエールに選手も躍動 静岡・掛川西高

今年も球児たちの暑い夏が始まりました。2020年はコロナ禍で夏の全国高校野球選手権が中止に。代わりに各都道府県ごとの大会が、無観客で実施されました。スタンドに観客が戻ったのは去年から。コロナに向き合いながら、大会が開かれています。

掛川西高 応援団指導部

高校野球と言えば、迫力ある応援。この応援も、コロナの影響を大きく受けています。県立掛川西高校。野球部はこれまでに9回甲子園に出場している強豪校です。今年は「甲子園で1勝」を目指して練習に取り組んできました。

画像: 掛川西高 応援団指導部

 その野球部を全校あげて応援する指揮をとるのが、応援団指導部。
正装は、詰襟には団章、そしてドカンと呼ばれる太いズボン、腰には名前の刺しゅう入り、さらに尖った革靴です。
団長 海野佑太郎さん(3年):「学ランを着てこの姿をしていると、歩くたびに誰かに見られているという意識があるため、部活としても個人としても品格を下げないために、気持ちを入れ変えて部活に専念しようという気持ちになる」

コロナ禍で部員は3人に…

掛川西高の応援団指導部は70年以上の歴史があります。多い時には10人以上が所属。伝統を受け継ぎながらも、毎年工夫を加えながら、高校野球を盛り上げてきました。

 しかし今、部員は3年生の海野団長と同じく3年生の五條帆高副団長、そして2年生リーダーの村松真広さんの3人だけ。実はここにもコロナの影響が。

画像: コロナ禍で部員は3人に…

 これまでは、夏の大会での応援団指導部の姿を見て、入部する生徒が相次いでいました。それが、無観客で開催された2020年から、応援団指導部の活動の場が減少。入部希望者が少なくなってしまったのです。

本番まであと3日 応援団長の意外な素顔も

1回戦を3日後に控えたこの日、3人はメガホンの準備に追われていました。全部で800個、1つ1つ丁寧に磨いていきます。それを終えると応援の練習が始まります。 最初に始めたのは腕立てふせ。長時間腕を上げ続けたり重心を低く保たないといけない応援は、筋力が不可欠です。
 続いては型の練習。窓ガラスを鏡代わりに姿勢のチェックをします。掛川西高に受け継がれる低い姿勢。先ほどの筋トレが効果を発揮します。3年生の二人にとっては、今年の夏の大会が3年間の集大成。練習にも熱が入ります。

画像: 本番まであと3日 応援団長の意外な素顔も

 勇ましくて、ちょっとコワモテの応援団指導部。でも普段はちょっと違うようです。

クラスメイト(女子):「いつも学校生活ではふざけているんですけど、部活になるとスイッチが入って勇ましい」

クラスメイト(男子):「僕とアニメの話で盛り上がって長話をしている」

 海野団長はクラスのムードメーカー。五條副団長は、野球部エース岩澤さんと同じクラスです。

野球部  
岩澤孔大 投手:「いつもクラスの雰囲気をよくしてくれる、すごいいいやつ。自分たち(野球部)のためにすごい頑張ってくれていると感じている、自分も負けていられないという気持ちになる」

「声が出せない」応援…

「甲子園で1勝」という目標に向けて、野球部と心を一つにする応援団指導部。でも、その応援もコロナ禍前とは違います。

画像: 「声が出せない」応援…

 静岡県高校野球連盟では、飛沫感染を防ぐため「大声での応援や座席の移動、合唱は行わない」などとするガイドラインを定めています。掛川西高でも、応援団の指示は小さめの声で最小限にし、一般生徒の声出しも取りやめました。野球部に精一杯のエールを送るためには、全身で表現するしかありません。

海野佑太郎 団長:「(大きな声が出せないのは)とても悔しく残念なところだが、ここで自分たちが頑張ることによって、声を出せないながらにもこういうことができたという代にできるという意識を持っているため、不利なところを逆手にとって注目を浴びられるような応援団になろうと思っている」

五條帆高 副団長:「入部して一番の憧れだった声を出しての応援が、高校の3年間の中でできなかったことはもちろん悔しさは感じるが、声を出せないならメガホンを思いっきり叩けばいい。声を出せないけど、掛川西高の伝統を守っていけるような応援をつくろうと思っている」

いよいよ掛西の初戦 その結果は…

10日、いよいよ掛川西高が初戦を迎えました。そこに駆けつけたのは、応援団指導部のOB7人。

 スタンドには掛川西高の1年生全員を含めて900人。海野団長の表情も引き締まります。

 いよいよ試合開始。まず最初は・・・

「第2応援歌」

画像1: いよいよ掛西の初戦 その結果は…

 海野団長が選んだのは、「第2応援歌」。声は控えめです。この「第2応援歌」、コロナ禍前には生徒同士が肩を組み合い、大合唱して野球部にエールを送っていました。

 今回、応援団指導部が考えたのが、メガホンを左右に振る動きです。掛川西高の先発は、五條副団長のクラスメイト、岩澤投手。しかし試合序盤。見事なスクイズで御殿場南に先制点を奪われます。

 するとその裏、岩澤さん自らがスクイズ。同点に追いつくと、その後は好投が続きます。

五條副団長:「いいぞ!いいぞ!岩澤!」

 続く3回。掛川西が逆転。

そして5回裏・・・ホームランが飛び出します。ここで、あの「第2応援歌」を指示する海野団長。

画像2: いよいよ掛西の初戦 その結果は…

 試合は、掛川西が8対1でコールド勝ち。会場に、この夏初めて掛川西の校歌が流れますが、歌うことはできません。
 夢に向けて、1勝を勝ち取った掛川西高。

画像3: いよいよ掛西の初戦 その結果は…

野球部 
岩澤孔大 投手:「応援団が応援してくれたことで、力になったのですごく投げやすかった」

野球部 
河原崎琉衣 主将:「掛西応援団というのは、本当に自分たちの力に、勇気になって戦い抜くことができたので、この応援は自分たちを後押ししてくれるすごいものだと思った」

五條帆高 副団長:「野球部の甲子園1勝という目標のための長い夏のまずは一歩目が勝利につながって、これからも自分たちの応援のモチベーションにしていきたい」

海野佑太郎 団長:「ホームランを見せてくれたことやたくさん点を取ってくれたことで、応援の場も盛り上がりましたし、自分たちの気持ちも高まったので本当にありがたいと感じています」

 コロナ禍になって3年。高校生たちの熱い思いが夏を盛り上げます。