150cmの小さな体が描く世界への放物線 サーカスに捧げた「18歳の決断」 衣愛の夢はステージでひらく
眩いスポットライトが、2本のポールの頂点を照らし出す。その上で逆立ちをして、信じられない角度に体を折り曲げ静止する。重力を忘れたかのような曲線を描くのは、昨年11月にサーカスデビューをしたばかりのアーティスト、神奈川県藤沢市の泉川衣愛(えあり)さん(18)だ。静岡県富士市で開催中のポップサーカス富士公演(~4月5日)で、衣愛さんは連日、華麗な技で観客を魅了している。(難波亮太)
普通の景色を捨てて
きっかけは中学生の時にSNSで目にした「倒立」の動画だった。同世代の女の子が繰り広げる圧倒的な身体表現に、一瞬で心を奪われた。
「私もやりたい」-。幼稚園のころから新体操をやっていたため倒立はできたが、さらに技を極めるため川崎市内の教室の門を叩いた。
倒立はサーカスの世界ではハンドバランスという芸の一つに分類される。専門的に学んでいく中で、将来の夢の解像度はどんどんクリアになっていった。「シルク・ドゥ・ソレイユを見たことがあって、サーカスに興味を持っていたので将来はその道に進みたいと思うようになった」。
色々調べてたどり着いたのが、ポップサーカスのアーティスト育成制度だった。サーカスの巡業に帯同し、公演の手伝いをする傍ら修業をするものだ。一直線でプロとなるため、衣愛さんは高校進学にあたり通信制を選択した。
実家ではなく巡業先のコンテナでの生活。同級生と一緒に通学したり、放課後を友人と過ごしたりという、“普通の景色”を捨てることに迷いはなかった。
「楽しそうだなと思っていました。家族も応援してくれましたし。逆に1人暮らしが初めてなのでそっちのほうが大丈夫かなぁって心配でした」。
一昨年、巡業先の山口県まで母親と2人でオーディションを受けに行き、合格を勝ち取った。
コントーション×ハンドバランス
暗転した舞台をスモークが包む。瞬間、軽やかな音楽が鳴り、照明で浮かび上がる衣愛さんのシルエット。高さ1mほどの六角形の台の上で、コントーション(軟体芸)を披露する。
真骨頂はここから。台の上にさらに1mほどのポールを立て、そこでハンドバランスをするのだ。コントーションにハンドバランスを組み合わせた演技構成は、サーカスの世界では珍しいのだという。それを彼女はやってのける。
足先までピンと伸びた倒立。片手で体を支えながら、180度開脚し一回転。オーディションからの約2年間を、どのように過ごしてきたのかがはっきり分かるパフォーマンスだった。150㎝という小柄な彼女が、舞台の上では一回り以上大きく見えた。
自分の居場所
自身の強みを、技術的な器用さや柔軟性ではなく、「とにかく練習を続けられること」と評する。地味で孤独な反復練習こそが、あの華やかな舞台上での数分間を支えていることを、彼女は本能で理解しているのだ。
体重管理のために「甘いものを我慢している」といたずらっぽく口をとがらせたり、「出会いがないんです。どうしましょう?」と、年相応の悩みに照れ笑いを浮かべたり-。時折、18歳の素顔をのぞかせつつも、衣愛さんはきっぱりと言う。「海外でも通用するサーカスアーティストになりたい。20代前半で海外に挑戦します」。
18歳。多くの若者が「何者か」になろうと模索する季節に、衣愛さんはすでに自分の居場所を見つけ、一歩一歩、進んでいる。彼女がポールの上から見つめる視線は、決してぶれることはない。