「人生終わったと思った」…難病マンガ家が念願の『上映会』 絶望の中からつかみとった夢 静岡・磐田市
「初めまして。5分だけ時間をください。一生のお願いがあります。 自分が難病であることがわかりました」
これは、おととしYouTubeにあげられ、大きな反響を呼んだ動画。実は、主人公が自分の難病について告白するマンガです。
●「はじめまして」より
「人生終わったと思いました。その後体重は40キロ台まで低下。慢性的な腹痛。血便。下痢。加えて様々な合併症」
●「はじめまして」より
「難病になり、僕は様々なものを諦めざるを得なくなった。食事。座る系のこと。趣味」
マンガには様々な病気の症状や影響が。
このマンガを描いたのは、磐田市に住む寺田浩晃さん。主人公は…寺田さん本人です。
寺田浩晃さん(27)
「何食べても吐くし、下から出るし、1番怖かったのは、1日ごとに体重が減っていく。なんで自分ばっかりなんだろうなと」
上京してマンガ家を目指していた寺田さん。4年前、夢が叶い、人気マンガ雑誌「少年サンデー」に読み切りの作品が掲載されました。
寺田浩晃さん(27)
「東京の編集部に送ったら、電話がかかってきて、才能あるから書いてみない? という誘いがあって。あー、なんか世界が開けた感じがして『あ!これで抜け出せる』って」
「食べられるはきのこ類、魚、味噌、納豆、海藻…」
連載の話も出始め、マンガ家としての一歩を踏み出しました。しかし、その直後、寺田さんを病気が襲います。
「好酸球性胃腸炎」。日本では数百人しか発症しておらず、今もなお治療法が確立されていないため、国の指定難病にもなっています。
主な症状は食べ物によるアレルギー反応。アレルギー指定されていない食べ物でも、嘔吐や下痢を引き起こします。
寺田浩晃さん(27)
「朝食べずに昼、夜の間に1食がっつり食べて、ちゃんと。夜お腹空いたら軽食食べてって感じ。あんまり食事の回数増やすと体調悪くなっちゃうんですよ。食べられるものは、基本きのこ類、魚、味噌、納豆、海藻…。テレビ見ている主婦の人とか、どう思うんですかね。心配になるんですかね」
この日の昼食は、キノコの味噌汁に麦ご飯。そして、焼いたブリと納豆。食事が大幅に制限されるようになった今、食べられるものはごくわずかです。
座ると「下半身に強い痛み」
さらに…
寺田さんは立って作業をします。
寺田さん
「10分~15分を超えると痛くなってくる。下半身が…」
この病による合併症で、前立腺炎も発症。座るだけで下半身に強い痛みが出るため、1日中横になるか、立ち続けなければならない生活を強いられるようになりました。
Q.だいたい何時間くらいの作業量?
寺田浩晃さん(27)
「帰ってからもやるので何時間か分からない。1日中です」
毎日休みなく描き続けていますが、月に2回ほどは体調が優れず、朝から立てなくなる日も。
選んだのがYouTube発信
厳しいマンガの世界。雑誌の連載に耐えられる状況ではありませんでした。そこで選んだのが…。
●「はじめまして」より
「そこで悩みに悩んだ挙句、僕は信頼するクリエイターとスタジオを設立。YouTubeから短編漫画を発信していくことに決めました」
自分のペースで作品を発表できるYouTubeを主な作品発表の場に選んだのです。寺田さんの動画には、読者から多くのメッセージが届きました。
応援メッセージ
「心に響きました。応援しています。素晴らしい作品を作り続けてください」
「つらい内容なのに気持ちが落ち着きました。作者のピュアな姿勢が伝わってくるからでしょう。応援したいです」
寺田さん
「(YouTubeの)コメントを読むと、同じようにしんどいものを抱えている人が多くて、世の中のどっかにいる自分と似た誰かまで届けたいなとは思いますね」
ネットでしか聞けない読者の声…夢は
そんな寺田さんには、ある夢がありました。
寺田さん(去年)
「いつか上映会とか大きくできたらいいなと思います」
普段ネットでしか読者の声が聞けないからこそ抱いた、大きな夢。それは自身が制作した漫画動画の上映会。
その夢がついに叶う時がきました。
念願だった初めての上映会が先月地元磐田で開催されました。今回上映されたのは、YouTubeでも話題となっていた作品、「黒猫は泣かない」
会場には、およそ100人の来場者。本番を前に、最終準備を整えます。そしていよいよ上映会が始まりました。披露したのは、YouTubeで大きな反響があった作品、「黒猫は泣かない」です。
●「黒猫は泣かない」より
「小学校の時の同級生が死んだ。山田タカシ。享年26歳」
主人公は26歳の女性。ある日同級生の訃報が飛び込んできます。
●「黒猫は泣かない」より
「山田タカシは決して泣かない子だった。殴られても 蹴られても上履きを隠されても机に悪口を書かれても 決して泣かなかった」
いじめられていた同級生の死。
●「黒猫は泣かない」より
「大変、大丈夫、血が…。なんで助けてくれんの、僕なんかのこと。決して泣かない山田くんが泣いた。あたしの前で、ずっと泣いた」
当時を振り返り今の自分を見つめる主人公の思いが繊細に描かれています。自分の作品を直接読者に届けた初めての体験でした。
60代女性(白髪眼鏡)
「自分も頑張っていかなきゃなっていう、そういう気持ちになれましたね。ごめんなさい、涙がでちゃう」
女性
「本当にいい作品だなぁと思って、大人の心に響く作品だなと思ったんです。だから、ぜひ皆さんに知っていただきたいと思いました」
上映を終えて寺田さんは、観客にあいさつしました。。
「僕はこの街が嫌いでした、元々。学校も小3か小4の1年ちょっといじめられている時期があって、学校にも家にも居場所が無くて、みなさんのおかげで、この街のことちょっと好きになれました。ありがとうございました」
寺田浩晃さん
「感動したとか、泣けたとか。漫画で泣いたの初めてとか。とにかくみんな優しかった。暖かかったです。いつも見てくれてる一番感謝しなきゃいけない人達に会えたのがすごいうれしかったです。それが一番」
絶望の中からつかみとり、歩み始めたマンガ家の夢。寺田さんの挑戦は、始まったばかりです。