ピーク時の60分の1…アサリ激減 新プロジェクトは栄養価高いプランクトンの培養…秘密兵器は光 浜名湖

 春から夏にかけ、いままさに旬を迎えているのがアサリ。その産地として知られているのが、静岡県西部にある浜名湖です。遠州灘とつながっている浜名湖は、海水と淡水が入り混じる汽水湖。山からの豊富な養分も流れ込みます。海・山の豊かな恵みが、良質なアサリを育んできました。

 しかし、この浜名湖のアサリが今、かつてないほど危機的な状況に立たされています。

画像: ピーク時の60分の1…アサリ激減 新プロジェクトは栄養価高いプランクトンの培養…秘密兵器は光 浜名湖

漁獲量がピーク時の60分の1に

 浜松・西区…。

 浜名湖内を進む1艘のボート。向かっているのは、網で囲って保護されたアサリの漁場です。

画像1: 漁獲量がピーク時の60分の1に

浜名漁協採貝組合連合会 山本崇会長:「ここ、ここに貝(アサリ)がある。(アサリを見せてもらって)あんまり身はよくないね。エサがないんだよね、エサが。アサリを撒いてもすぐ死んじゃう」

 そう話すのは、地元の貝漁を取り仕切る、浜名湖採貝組合の山本会長。実はいま浜名湖では、アサリの子どもである稚貝を管理された漁場で保護しなければならないほど、アサリの漁獲量が減っているのです。

Q.減少しているというのは感じる?

画像2: 漁獲量がピーク時の60分の1に

浜名漁協採貝組合連合会 山本崇会長:「感じますよ、漁として成り立ってない。生活できないのでアルバイトしたり、辞めていったり。非常に厳しい状況」

 2009年にはおよそ6000トン以上の漁獲量があった浜名湖のアサリ。しかし近年は急激に減少し、おととしはおよそ600トン、去年はわずか100トンと、ピーク時の60分の1まで落ち込んでいます。これまで類を見ないほどの大不漁が続いているのです。

画像3: 漁獲量がピーク時の60分の1に

地元の直売所でも

 浜名湖で水揚げされたものを販売する、地元の直売所。店頭に並んだアサリには1家族1袋までと購入を制限する張り紙が。

画像1: 地元の直売所でも

 日によっては店頭に並ばない時もあります。また、不漁で販売価格も高騰していると言います。

よらっせYUTO亀崎 藤本朱實取締役:「今までは一袋550円で昨年までは販売していたが、(今年は)750円ということでかなりの値上がりじゃないかと。浜名湖のアサリはおいしくて、皆さん(アサリが)獲れるのをとても楽しみにしているし、本当に早く回復してくれるといいなと」

画像2: 地元の直売所でも

 旬を迎えてもなかなか手に入らない状況に地元客は…。

浜松市民 70代:「アサリ大好きなので、小さい時から(浜名湖の)アサリを良く食べていて、潮干狩りにも行っていたのですごく残念。獲れなくなったというのは本当に不思議。(昔は)バケツ一杯獲れていた時代だったので」

浜松市民 70代:「欲しいけどなかなか手に入らない、この頃は。残念。(原因は)水が少し温かくなったからとかは聞いているが…」

 こうしたアサリの不漁について、根本的な原因はいまだわかっていません。ただ、地元の漁協などからはいくつかの指摘が上がっています。

 なかでも特に大きな問題とされているのが…。

えさとなるプランクトンの減少

 浜名湖の周辺では、20年ほど前から下水道の水質浄化が進められてきました。水がきれいになる一方で、プランクトンの発生に欠かせない窒素やリンが大幅に減り、その影響でアサリのエサとなる植物プランクトンが減少しているというのです。

 県はおととしから、水質とともに、浜名湖のプランクトンの種類や数を調べ始めましたが、調査結果はまだ出ていません。

動き出したあるプロジェクト

画像1: 動き出したあるプロジェクト

 そうしたなか浜名湖のアサリを救うべく、現在、あるプロジェクトが動き出しています。

浜松ホトニクスプロジェクトリーダー 松永茂さん:「こちらがアサリのエサに適しているパブロバという餌料プランクトンを培養している水槽です」

 施設の中には、一面に置かれた、不思議な色で光る水槽。こちらの施設で行われているのは、光の技術を用いて「パブロバ」と呼ばれるプランクトンを培養し、浜名湖のアサリのエサとして活用する実験です。

浜松ホトニクスプロジェクトリーダー 松永茂さん:「(パブロバは)大きく分けると黄色植物、ワカメ、昆布の仲間。水槽の実際の色は茶色い色をしていて、アサリのエサとして極めて優良な栄養価の高いプランクトンになる」

画像2: 動き出したあるプロジェクト

 そのプロジェクトを担うのが、高度な光の技術を持つ世界的企業「浜松ホトニクス」です。

 培養にあたって、重要となるのが「光」。植物の一種であるパブロバは、成長するために光合成が必要です。しかし、成長の途中で、光合成に必要な葉緑体を自らなくしてしまうという性質を持つため、本来は安定した生産が難しいものでした。

 「浜松ホトニクス」では、赤・青・黄色、3色の光を適切な比率で当てることで、成長途中の変化をコントロールし、パブロバの安定的な培養に成功したのです。

 目には見えませんが、こちらの水槽の中には、1ミリリットルあたり、なんと1000万個ほどの「パブロバ」がいると言います。

「アサリにとって、おいしいエサになっている」

浜松ホトニクス プロジェクトリーダー 松永茂さん:「(培養から)2週間を経過すると、このように水槽の色がさらに黒っぽく濃い色になる。細胞の分裂が止まってくるので、一つ一つの細胞が肥大化してきて、細胞の中に栄養が蓄えられていく」

Q.つまりアサリにとってはどういう状況になっている?

A.「食べごろ。おいしいエサになっていると思う」

画像1: 「アサリにとって、おいしいエサになっている」

 松永さんは、こうして培養されたパブロバをエサに、漁協と連携して浜名湖のアサリの稚貝を育てています。

 さらに、うれしい研究結果も。パブロバで育てたアサリは天然で育ったアサリに比べ、繁殖力が強くなっていることが確認されたのです。今年度はさらにアサリの数を増やして検証を進める予定です。

画像2: 「アサリにとって、おいしいエサになっている」

浜松ホトニクスプロジェクトリーダー 松永茂さん:「これは私どもだけが考えているのではなくて、漁師たちと意見交換の中で出ていることだが、将来は浜名湖でもただ獲るだけではなく、育ててとっていく、持続可能な漁業を展開するために、私どももプランクトンでやれることをやらせていただき、漁師主体で我々もそこに協力させてもらう形で、そういった育成漁業が展開できれば良いかなと思っている」

 新しい技術がもたらす、アサリ再生への光。漁業関係者からも期待の声が

浜名漁協採貝組合連合会 山本崇会長:「ホトニクスの力で、ちょっとでも貝を増やして商売になるようにしたいと思っている。自然なので、どれくらいかかるか分からないが、できるだけ頑張りたいと思っている」