両足にハンデ持つ馬術・稲葉将選手…東京パラリンピックでメダル目指し静岡市で練習漬けの日々
パラ馬術、稲葉将選手(25)。競技歴3年半ながら、東京パラリンピックでのメダル獲得が期待される新星です。去年11月の全日本大会では、複数の部門で優勝を果たしました。
稲葉選手:「(東京パラリンピックで)一番いい自己ベストの結果を出す、恩返しじゃないですけど、ひとつの成果として、僕が出来ることかなと思います」
先天性の脳性まひにより、生まれつき両足が動かしにくい稲葉選手。パラリンピックでは、障害を補うために道具の改造が認められています。
稲葉選手:「本当はカバーが付いていない状態なんですけど、これがないと(足が)あぶみが入りすぎて危ないので僕はカップを付けて、ゴムで固定する形でしています」
愛馬との意思疎通にも工夫が…
馬術で重要なのが、騎手と馬のコミュニケーション。稲葉選手は相棒の「カサノバ」の日常のケアをほぼ自分で行っています。競技中の「カサノバ」との意思疎通にも工夫が―。
舌鼓(ぜっこ)という合図。音を鳴らす回数で、進め・止まれといった指示を使い分けています。さらに…。
稲葉選手:「皆さん足で(馬に)指示されていると思うんですけど、(僕は)それがうまく使えない分、ムチを使ったりする。特に競技のとき、緊張しちゃうと、自分の意思と反して力が入ってしまう。それを(馬が)指示だと思って反応してしまうことがある」
パラ唯一の採点競技
パラ馬術は、パラリンピックの種目で唯一の採点競技。馬場内で、決められた動きをいかに正しく、美しく行えるかを競います。
障がいの程度によって5つのクラスに分かれていて、稲葉選手はグレード3。3種類ある歩き方のうち、一歩ずつゆっくり歩く常歩(なみあし)、二拍子でトントン進む速足。この2つを組み合わせて演技します。
稲葉選手:「動物と一緒にひとつの演技を作り上げるのは、ほかの競技と違うところ。いい演技ができたときは達成感を共有できるところがすごくいい」
東京に間に合わせるため選んだ師匠は…
稲葉選手は、小学6年の時にリハビリのため乗馬を始めました。競技として本格的に始めたのは3年半前。きっかけは、東京パラリンピックの開催が決まったことでした。
稲葉選手:「(東京パラリンピックに向けて)最短距離でいかないと間に合わない。浅川さんのところで出来ないかということで…」
稲葉選手が師匠と慕うのが、2012年のロンドン大会に出場した経験を持つ浅川信正さん(65)です。
浅川さん:「意外に繊細な競技で、馬の気持ちをすごく読み取ってあげないとできない競技で、絶え間ない練習が必要。馬に乗らないと出来あがらない人間の筋肉があるんですね。試行錯誤しているのが稲葉君の良いところ」
実家は横浜市の稲葉選手ですが、普段は静岡市にある浅川さんの自宅で寝泊まりしながら、週5日、静岡で馬術漬けの日々を送っています。
稲葉選手:「『(浅川さんは)結構厳しくないですか? 練習』と言われる方が多いんですけど、そんなこともなくて。やっぱり、練習をつまないとうまくならない。すごく考えてやっていただいていると感じるので。なるべく多くの時間をとって、一緒に成長出来たらなという思いもあるので、出来る限り練習して…」
「メダル争いしたい」
師弟関係でもあり、家族のようでもある2人の関係。急成長を遂げる稲葉選手に、浅川さんも期待を寄せています。
浅川さん:「彼が最高のパフォーマンスが出来るように、みんなでサポートしていくつもり。あとは本人がどう頑張るかですね」
東京大会でパラ馬術の出場枠は4つ。代表争いは6月まで続きますが、稲葉選手はすでに大舞台を見据えています。目指すは日本のパラ馬術界、初のメダル獲得です。
稲葉選手:「まず個人で自己ベストを出して、最終日の決勝に残りたい。残ってメダル争いをしたい。それが一番の目標です」
Q.ずばり、目指すメダルの色は?
稲葉選手:「そうですね、金メダル目指して、上を目指して頑張っていければと思っています」