57年の歴史に幕…静岡市の名物おにぎり店が閉店へ 常連客「ここに代わる店が思い浮かばない」

午前8時、開店直後から賑わう飲食店があります。JR静岡駅近くにある「おにぎりのまるしま」です。

 仕事に向かうサラリーマンを優しい声で送り出す女将の佐藤つた江さん。母親のように温かい、つた江さんの存在と、実家のようにほっとする空間が、県内外の人たちに愛され続ける理由です。

画像: 「おにぎりのまるしま」(静岡市)

「おにぎりのまるしま」(静岡市)

閉店まで残り3カ月

 創業57年。つた江さんは、ある重大な決断をしました。

おにぎりのまるしま 佐藤つた江さん:「閉店をします」

 現在72歳。年齢による体力低下には勝てず、12月で店を閉めることを決めました。

おにぎりのまるしま 佐藤つた江さん:「もう年老いてきて、大変になりましたね、体の方が。お客さんはさみしいよと言うけど、私たちもやめるとなるとやっぱり、あと何カ月と思うと、さみしいですよね」

 半世紀以上の歴史を紡いできた、おにぎりのまるしま。閉店まで、残り3カ月です。

画像: 佐藤つた江さん

佐藤つた江さん

午前8時過ぎ、閉店を知った常連客の姿がありました。

静岡市民 20代 男性:「ここに代わる店が他にあるかと言えば、思い浮かばない」

 昔ながらのおにぎりに、伝統の味がしみこんだおでん。常連客は、その味をかみしめます。

別れを惜しむのは、つた江さんも同じです。

おにぎりのまるしま 佐藤つた江さん:「これだけお客さんが来てくれて、お客さんからやめないでという声も聞くと、なんだかやめるのも惜しいなと思うけど…。それほど愛されたのかなと思うと、うれしいなと思う、遠くからも来てくれているからね」

 そして、もう1人、閉店の寂しさに浸るのが、つた江さんと二人三脚で歩んできた店主の政夫さんです。

おにぎりのまるしま 店主 佐藤政夫さん:「お客さんが来てくれて、色んな話をしたり、お客さんが『まるしまさん、こういう風な食べ物作ったらどう?』って言って味噌汁が始まったり、そういうこともあったしね」

 今年78歳になった政夫さん。思うように体が動かなくなったといいます。

おにぎりのまるしま 店主 佐藤政夫さん:「自分たちも年だし、良いところでやめないとやめる機会がなくなっちゃう。なので、今年やめようと。やめたら心細いというのは、いまから思っている。お母さんと2人で生活していくってどんな風になるのかなと」

画像: 「まるしま」のおにぎり

「まるしま」のおにぎり

夫婦二人三脚で店を切り盛り

 政夫さんは50年ほど前、店を始めた母、なかさんから店を引き継ぎました。その後、つた江さんと結婚し、2人で40年以上、店を切り盛りしてきました。

 多い時には10升分ものおにぎりを作ったことも。政夫さんは、妻・つた江さんの支えがなければ、続けることができなかったと感謝しています。

おにぎりのまるしま 店主 佐藤政夫さん:「どっちかが洗って、どっちかがふく。洗ってふいて片づけて、そんな調子。分担はしてないけど、2人だから」

おにぎりのまるしま 佐藤つた江さん:「母さん母さんって私を良く呼ぶんですよね。やっぱり男の人は難しいよね、言っちゃ悪いけどね。女の人が出るお店だから女の人がある程度、采配しなきゃならない、大変だよね」

 平日は毎日営業し、早いときは朝4時半から仕込みをしてきました。心が折れそうなとき、2人の支えとなったのは。

おにぎりのまるしま 佐藤つた江さん:「めげそうなことがあっても、お客さんに支えられたんですよね、お客さんのためにというのかな、自分のためだけど、お客さんのことをしなきゃならないというのが励みになったんでしょうね」

 お昼時の正午過ぎ。次々と客が訪れました。その多くは地元の常連です。

静岡市民 70代男性:「いやあ、さみしいです。やっぱり昔からのこういう店が私は好きなものですから。こういう店はほんと無くなってほしくないんですけどね」

静岡市民 70代女性:「昔の懐かしい、私たち幼いころの懐かしい味がそのままあって、それにおでんがとても安くって、こんなに安くおでんとかおにぎりをやっているところはないと思います。静岡の自慢です」

画像: 「まるしま」のおでん

「まるしま」のおでん

 2年前から毎日通っている常連もいました。

静岡市民 50代女性:「これからも来るからねって話はしてます」

Q 閉店まで通おうかなと?

「はい、もちろん。そのあともずっとお母さんたちとは仲良くしていただきたいとは思っています」

静岡市民 20代女性

Qこちらの店はどんな存在なんですか?

「第2のお家だよね。はい。やっぱり昔からある店というのは懐かしさがあると思うので、なくなるのは静岡らしさが減っちゃうのかなと思います」

 閉店を惜しむ声はやみません。残り3カ月。2人は、おにぎりに長年の感謝の気持ちを込めます。

おにぎりのまるしま 店主 佐藤政夫さん:「もったいないなと思う。話する人が何十年と来てた人たちが、もうやめちゃうと来なくなっちゃうし。でも、これから本当に2人でやっていくには、体を大事にして楽しまないと」

おにぎりのまるしま 佐藤つた江さん:「本当にありがたい気持ちとさみしい気持ちと色々入り混じるね。人が人を呼んでくれたというのはあったね。まるしまさんね、携帯開ける(検索する)と一番最初に出てくるんだよって言うから、そのくらいにうちも栄えたんだなあと誇りに思っています」

画像: 「おにぎりのまるしま」 店主の佐藤政夫さん

「おにぎりのまるしま」 店主の佐藤政夫さん