「学校に戻ることだけが目的ではない…」 もうひとつの選択肢 フリースクールの今 静岡市
フリースクールの「プッペ」 開設の背景は…
(フリースクールの朝)
きょうちゃん:「おはようございます」
フリースクールの代表:「おはようございます。どうぞ」
きょうちゃんの母親:「いってらっしゃい」
静岡市に住む小学3年生の女の子「きょうちゃん」。この日は平日。でも小学校には行っていません。
Q:「きょうちゃん、これ何作ってる?」
きょうちゃん:「えっと羊毛フェルト。こういうの。これ作って、2回目ではまった」
静岡市清水区、清水駅前銀座のビルの一室にあるフリースクール「プッペ」。学校に通えなくなった「きょうちゃん」は、小学校に行くかわりにここに通っています。
県教育委員会によると、県内で不登校の子の数は2020年時点で6377人。5年間で1.5倍に増えています。小学生では全体の1.1%、中学生では全体の4.7%が不登校です。
そういった不登校の子どもが学校以外で学んだり、友達と過ごしたりすることができる場所がフリースクール。現在公的な統計はありませんが、不登校の子どもが増えるに従い、フリースクールも増加していると言われています。ただスクールと言っても教育委員会が管理しているわけではなく、民間が運営していることが多い施設です。
フリースクール「プッペ」を運営しているのは、小学校、幼稚園の教師と保育士の資格を持つ中島路香(みちか)さん(56)と娘の陽(ひかる)さん(27)。ある思いを持って3年前に開設しました。
フリースペース プッペ
中島路香代表:「一緒にやっている娘が小学校の時から不登校で、それで私は親として嫌がる彼女を無理やり連れて行ってしまった時期もあって。彼女の学校に行けないという気持ちを受け入れてあげることができなくて、で、そのまま大きくなってしまって、すごく生きにくい、生きづらさを抱えて大きくなってしまったので…」
フリースペース プッペ
中島陽さん:「学校、もう行けないっていう時点で、ほんとに自分は駄目だって思っていたし。行けなくても行けてても、別にあなたの価値は変わらないんだよというのを、言ってほしかったなぁって。自分が不登校だった時期に、かけてほしかった言葉だとか、そういうのを言ってあげられる場所を作りたいと思って」
そうして始められたフリースクールの「プッペ」。不登校の子が「安心して過ごせる」「このままでいい」と思える場所を作ることで、子どもが自分を出せるようにし、さらに自分で考えて行動できるようにすることを大事にしています。
今、このフリースクールに通っているのは小学生の女の子2人。地元の学校に籍はありますが、そこには通っていません。
大切な学習の時間
(フリースクール 学習の様子)
きょうちゃん:「肉が18、くしが36、サンゴは謎」
中島代表:「じゃあヒントとして、この肉とくしとサンゴを、数字で書いてみる?」
きょうちゃん:「わかった」
カードゲームなどで、楽しく遊ぶ時間もありますが、小学校の代わりに通うスクールのため、学習時間も大切にされています。
中島路香代表:「学校に行ってない時間ってそれぞれに違うので、またその子の興味もそれぞれ違うので、その子に合わせた学習内容を提供してます。ただ何が大事かと言ったら、どうやって考えていくかというその道筋の方が大事かなと思っていますので、学習の中にどうやって考えて、どうやって解いたかというところを大事にしています」
こうして進められている学習。学校の校長が認めた場合は、フリースクールに通うことで
在籍している学校の「出席扱い」にもなります。
中島陽さん:「きょうちゃんの番だよ」
きょうちゃん:(坊主を引いてリアクション)
小学3年生の「きょうちゃん」。去年9月から月に1度くらいのペースでこのフリースクールに来ていて、今年の3月からは、毎日通うようになりました。
Q:「どうですか?プッペは」
きょうちゃん:「楽しい」
Q:「今までの学校とは違うの?」
きょうちゃん:「うん。ちょっとこっちの方がやさしい」
学校に行けなくなった「きょうちゃん」
2年前、小学校入学の時に田舎から静岡市に引っ越してきた「きょうちゃん」。しかし大人数の学校に馴染むことができず、半年ほどで学校に通うことができなくなりました。その当時の様子について「きょうちゃん」の母親は。
きょうちゃんの母親:「だんだんだんだん、もう本当に元気がなくなってしまって。ある日の朝にクローゼットに隠れちゃってたんですよね、私はもうそれを見てもうやめようと思って、で、それからおうち生活になりました。学校に行かないという選択肢は私の中にはなかったし、不登校の子が年々増えているということも知っていたけど、まさか自分の身に降りかかるとは思っていなくて…」
きょうちゃんが学校に通うことができなくなってから、自分を責め悩んだ日々が続いたといいます。
きょうちゃんの母親:「やっぱり自分の中に普通というか、学校に行くのはもちろん当たり前だし、嫌な事は少し我慢して乗り越えるのも当たり前だしという、自分もそうやって育ってきたからそういう価値観があって。でもそれを思いっきり子どもに乗っかって育ててきたなと思って、すごく(自分を)責めました」
やっと見つけた場所
いろいろと調べて見つけたのが、フリースクールの「プッペ」。外に出ることに消極的だった「きょうちゃん」でしたが、今は…。
きょうちゃんの母親:「もともと明るいよく話す子なんですけど、やっぱり学校行けなくなっちゃった時は話す人もいないし。プッペに行き始めたらたくさん、またしゃべるようになったし、そういう場所に行けるようになって良かったなと思います」
最初は、ほとんどしゃべらなかった「きょうちゃん」。ゲームで勝って喜び、負けて悔しがる。イチゴを育てて収穫して食べる。そんなフリースクールでの生活の中で、少しずつ変わっていきました。笑顔も多くなり、自分を表現できるようにもなりました。
中島さんは「きょうちゃん」の中に「自分はこのままでいい」と自分を受け入れる心が芽生えてきたと見ています。
フリースペース プッペ
中島路香代表:「自分はこれだけできるんだとか、頑張れるんだとか、私は私でいいんだって思う事はすごく大事で。落ち着いて自分を出し相手のことを受け入れてという形が、目に見えて見えるので、それはすごいいいなと思っています」
目的は「学校に戻ることだけではない」
今年の3月まで、ここには5人の小学生が通っていました。そのうち6年生だった2人は、小学校卒業を機にこのフリースクールも卒業し、今は地元の公立中学校に通っています。ただ中島さんは、このスクールの目的は「学校に戻ることだけではない」と話します。
中島路香代表
「学校に戻りたいってなったら、学校と連携をして学校に戻る道筋を作っていくんですけども、やっぱり学校が合わないという子もすごく多くて。学校に行くのも本当につらくて行けないよという子に関しては、大人になってから困らないスキルを身に付けていくように働きかけています。自分ができる事を伸ばしていき、自分が苦手な事も克服できるなら克服するし、克服できないようだったら、その対処法を身に付けていく。その両方を自分の評価を正当に出来るようにしていけたらいいかなと思っています」
学校に行って学習し友だちと接し、社会性を育んでいく。それはもちろん子どもの成長にとって有効な道筋です。ただ学校に通えなくなった時、フリースクールという、もうひとつの選択肢もあります。
(スクール終了)
中島路香代表:「はい。きょうは終わりですね。忘れ物ないですね」
Q:「きょうちゃん、楽しかった?」
きょうちゃん:「うん」