静岡市発祥の伝統工芸品「井川メンパ」 大学で蒔絵学んだ22歳女性が職人目指すワケ 静岡・川根本町

 静岡市の山間部・井川地区発祥の「井川メンパ」。ヒノキの皮を組み、表面に漆を塗った軽くて丈夫な弁当箱です。

画像: 静岡市発祥の伝統工芸品「井川メンパ」 大学で蒔絵学んだ22歳女性が職人目指すワケ 静岡・川根本町

進路を決めた高校3年の出来事

須藤誠人アナウンサー:「川根本町の大井川鉄道の千頭駅に来ています。こちらに静岡の伝統工芸品を継ごうという女性がいらっしゃるんですね。あ、向こうから自転車に乗って若い女性がやってきました」

石関さん:「おはようございます。よろしくお願いいたします。石関華と申します」

画像1: 進路を決めた高校3年の出来事

 静岡市清水区出身の22歳、石関華さん。この春に大学を卒業し、社会人になったばかりです。

 石関さんの就職先は「井川メンパ大井屋千頭本店」。ここで井川メンパの制作から販売までを1人で手掛けてきたのが、石関さんの師匠でもある、店主の前田佳則さん。スタッフとして働く石関さんに、井川メンパを作る技術を教えています。

Q.学校ではどんなことを学んでいた?

石関さん:「漆の塗り方など技術からこういう手入れの仕方までいろいろ教わりました。あと装飾の蒔絵と呼ばれる技術、私は蒔絵科にいたのでそれを学んでいました」

Q.なぜ井川メンパを進路に選んだ?

石関さん:「漆を扱っているというのと、あとは地元の工芸品を一番やりたかったので。あとは食べることが好きだからかな、お弁当大好きだったので」

 学生時代、金粉などを使って漆器に絵や文様を描く「蒔絵」を専攻していた石関さん。作品での受賞経験もある、腕前の持ち主です。その進路を決めるきっかけとなったのが高校3年の出来事でした。

画像2: 進路を決めた高校3年の出来事

石関さん:「全国の工芸品が集まる展覧会がありまして、そこで出会ったのがこのお箸だったんですけど、岩手の平秀塗というもので、これを初めて見たときに『え、これも漆なの』って驚きから興味が湧いて、漆に」

 大学で漆を塗る技術を学びながら就職について考えていたころ、師匠である前田さんを取り上げた記事を目にしたそうです。

若い力が工房に新しい風

石関さん:「自分の地元にこんな面白い方がいるんだ、と思って。これは話を聞きに行かなければと、何か自分の刺激になりそうなものがあるなと思って、まず来させてもらいました。」

前田佳則さん:「その当時から刈り上げていて、面白い子だなと思いましたよ。最初来たときは誠実そうだなという印象で、あの子が話している内容とかが面白かったし、夢があるような、若いなりに一生懸命考えている子もいるんだなって」

 若い力が、工房に新しい風を吹き込んでいます。

画像: 若い力が工房に新しい風

須藤アナ
「こちらの工房では今まで作ってきた井川メンパに加えて、新たにこのような皿などの日常使いできる漆器を作り始めました。これも石関さんが加入してきたからだということなんです」

 店を構えて4年以上、前田さんは全ての作業を1人で行ってきました。石関さんの力も借りて新しい取り組みを進めています。
前田さん:「とにかくメンパを作るのに精いっぱいで、今まで本当に1人だったのですべてが。1人が2人になるというのは2倍、3倍、10倍ぐらいのエネルギーになってくると思うんですよね。本当にうれしいですよ」

 働き始めて3週間ほどの石関さんですが、すでに新商品の漆塗りを任されています。

石関さん:「まさかこちらの漆を使える、触れるなんて思わなかったです。これがお客さんの元に届くんだと思うと緊張感が出てきます」

 お昼時、近所の店から毎日注文しているお弁当が届きました。実はこの弁当、前田さんが作った井川メンパに入っているのです。

弁当店店主:「お米が美味しいってお弁当のコメントでなかなか言うことないじゃないですか、でもよく聞くのでメンパの力は大きいのかなと感じます」

 コロナ禍で外食から弁当に切り替える人も多いそうで、この1年、井川メンパの販売数は増加しているといいます。

石関さん:「やっぱり自分の作る、売る商品で食べるって良さを一番分かっていないといけないので、毎日それが実感できるのは最高なことですし気づきもありますね」

 自分たちが作った井川メンパにぎっしり詰まったご飯を2人そろって食べるのが毎日の日課です。

石関さん:「工房だけですと、自分の生活費だったり収入も足りない部分があったり…。前田さんご自身がいろんな方とお知り合いなので、そのご縁を頂いて助けて頂いています。本当にありがたいです」

深刻な後継者不足

井川メンパの職人は現在、前田さんを含む2人のみ。後継者不足は深刻です。職人を目指してその世界に飛び込んだ石関さん。アルバイトを掛け持ちしながら、夢を追いかけています。

前田さん:「お金は潤沢には渡すことは出来ないですけれども、早くここの生活に慣れさせて余裕が出てくるじゃないですか、そうすると創造力があがってくるので、だったらまずはその環境づくりかなと。せっかくここに来たので僕がどういう影響を与えるかは日々いろいろ考えながらです」

後日、前田さんがじっと見つめる先には、「井川メンパ」に漆を塗る石関さんの姿がありました。

前田さん「逆だな、手で持っている位置が逆だ。」
「本当に初めて教えてます。メンパの塗りは。」
石関さん「初です…。」
前田さん「塗れてるんじゃない?いいね!塗れてる!」

画像: 深刻な後継者不足

Q.迎え入れてくれた前田さんにはどんな思い?

石関さん:「もう感謝感謝の言葉に尽きますが、これを私の活動で私の仕事で恩返しさらに大きくできたら…していこうと思います。漆に興味を持ってもらう、井川メンパという存在を知ってもらう、というか、私も最初の出会いがそうだったので漆ってこんなのもあるんだとかって私が気づいたようにそう気づかせられる職人販売をしていきたいですね。」