ウラ側を取材…静岡まつり「大御所花見行列」 9頭の馬のサポート役の女性に密着…賄賂も準備? 静岡市

 3日間かけて行われた「静岡まつり」。静岡市の春の訪れを告げるこの一大イベントに多くの人が集まりました。地元の活性化を目的に66年前から始まったこのお祭り。40年前には、呉服町の商店街で綱引き大会が行われていました。いつの時代も市民にも愛されている静岡まつり。魅力の1つが大御所花見行列。徳川家康公が家臣を連れて花見をしたという故事にならって始まりました。

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大御所役はココリコ・田中直樹さんと島田出身の別所哲也さん

画像1: 大御所役はココリコ・田中直樹さんと島田出身の別所哲也さん

 今年は大御所役にココリコ・田中直樹さんと島田出身の別所哲也さんが務め
祭りを盛り上げてくれました。

島田市出身 別所哲也さん:「静岡県に生まれて、静岡まつりの素晴らしさというのを体感できた。沿道のお客様からたくさんの声援をいただいて、やっぱりお祭りっていいなと思った」

画像2: 大御所役はココリコ・田中直樹さんと島田出身の別所哲也さん

 今回、とびっきりでは、行列に参加していたあの動物に注目しました。奉行や大目付などが乗る馬です。街中を歩くその姿。静岡まつりではおなじみの光景ですよね。

常に馬のそばに…静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん

 何頭もの馬が目の前を通る。子供たちは大興奮。しかし、2時間を超える行列の最中にはアクシデントが…。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「今、着崩れてしまった着付師さんが駆け付けてくれて、もう一度直してもらっている」

 トラブルを未然にふせぐため、常に馬のそばにいるのが、静岡乗馬クラブの浅川牧子さん。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「(馬に)突かれちゃうから、ちょっと後ろを見ながら前に近づかないように、難しいね」

 街中を歩く馬はどこからやって来て、期間中どのように過ごしているのか? そのウラ側を大公開します。 

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「静岡まつりはいつもドキドキ楽しめないです」

馬術の練習場は安倍川の土手

画像1: 馬術の練習場は安倍川の土手

 静岡まつりが開催される前日の朝。安倍川の土手であの足音が…。

 パコパコパコ…。

 住宅も立ち並ぶ中、立派な馬が登場。

Q.馬は街に出ていい? 
静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「自転車と一緒軽車両になるみたい」

 地元の人たちにとっては見慣れた光景だとか…。ここは、馬術の練習場。 

 声をかけていたのは、静岡乗馬クラブを運営している浅川牧子さんです。練習を終えて、馬と共にクラブハウスへ。牧子さんが最初にすることは、馬をほめること。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「馬との絆を深めるため。この子ヤンチャなので」

画像2: 馬術の練習場は安倍川の土手

 一緒に練習をしていたのは、牧子さんの長男・駿萬(しゅんま)くん。さきほどは華麗なたずなさばきをみせてくれました。大会には何度も出場しているそうで…
   
牧子さんの長男 浅川駿萬くん:「『人馬一体』となってがんばってます。漢字で書いたらわかりやすい。人と馬が一体となってがんばる」

元々は馬好きの有志が集まってできた静岡乗馬クラブ。区画整理で規模が小さくなる中、18年前、浅川さん家族が運営することになりました。
     
 牧子さんの母、やえみさんも国体の馬術選手だったんです。

 

父母は馬術の選手

画像: 父母は馬術の選手

 これは3歳の時の牧子さん。この頃から馬に夢中だったそうです。その理由は、母・やえみさんだけでなく父・信正(のぶまさ)さんの存在もありました。

 信正さんも国内トップクラスの馬術選手でした。

 しかし、2005年。信正さんに大きな試練が訪れます。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「乗馬クラブを始めたときにオートバイ事故をして、胸から下が不随になった。(車椅子が)欠かせないものになっている」

車いす生活余儀なくされた父がパラリンピック出場

画像: 車いす生活余儀なくされた父がパラリンピック出場

 そこから車椅子での生活を余儀なくされた信正さん。それでも信正さんは諦めませんでした。足が使えず、体を支えるのは腕のみという中、まさに人馬一体となって過酷な練習をし続けました。その努力が実り、2012年、ロンドンパラリンピックの馬術競技に出場することができたのです。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「ロンドンの会場を見に行ったときは感動しましたね。『ここまで来たんだ』みたいな、この舞台までよくたどり着けたなと思いました」

Q.お父さんはどこに?
A.「今入院している。いつもならお話ししていたと思う」

 そんな信正さんが毎年、乗馬クラブのメンバーと一緒に参加していたのが静岡まつりです。メンバーは、馬を連れて歩く馬子役で参加。馬に乗るのは各自治会から選ばれた一般の人たちで、その多くは乗馬未経験者です。
   

父「1年で1番胃が痛いイベント」

 今まで父と二人三脚で祭りを支えてきた牧子さん。コロナ禍で病室に行けず、電話で祭りのやりとり。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「今年から9頭になった。トラックも3台」

 参加する人にとっては楽しみなお祭りですが、信正さんにとって静岡まつりとは?

父・浅川信正さん:「1年で1番胃が痛いイベント。なにしろ安全が第一です」

 大御所花見行列を見に来た人たちは、その様子を間近でみることができますが、その分、人と馬との距離が近くなります。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「生き物相手に街中を歩いて、馬も普段と違う何が起こるか実際に分からない」

 以前は、まつり専門のおとなしい馬を飼っていましたが、今は競技用だけを飼育している為、お祭りのときは県外からおとなしい馬を呼び寄せています。

 牧子さんにとって、父がいない初めての静岡まつり。

乗馬経験ない夫もサポート

 大御所花見行列1日目の朝。花見行列に参加する馬をサポートするために静岡乗馬クラブの浅川牧子さんも会場に到着しました。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「ワクワクしてます今は。無事に終わるといいなと思いながら」
   
 この日は、乗馬経験がない夫の康雄さんも裏方として牧子さんを支えます。

 会場の1つ駿府城公園には馬の控え室、馬房が…。この日のために建てられました。
  

画像: 乗馬経験ない夫もサポート

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「おはようございます。つきます? じゃあいきます」

 花見行列に参加する馬たちがトラックで愛知県からやってきました。今回、行列に参加する馬は9頭。競技用の馬よりおとなしいお祭り専用の馬たちです。

 10年以上前から、静岡まつりに参加している馬主の竹内さん。

馬主 竹内三年さん:「静岡まつりについて良いね、うれしくてね、うれしくて、うれしくてチョウが舞うほど喜んで来る。(静岡まつりは)お祭りの中でも珍しいぐらいにぎやかなところ。露天商も多くてね。おまつりの中でも楽しいね」

 馬たちも移動の疲れを感じさせず元気なようです。突如、駿府城公園が動物園のようになって子供達は…。

子ども「うゎ? うゎ?」

 そりゃあ驚きますよね!

子ども「お祭りばんがって」

大学生の手助けも

 今回の大御所花見行列は、駿府城公園を出発して静岡市の街中をめぐる2時間のコース。その段取りを祭りの実行委員と最終確認する牧子さん。さらに牧子さんのもとに、強力な助っ人たちが駆けつけてくれました。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「彼らは静岡大学の馬術部の子たち。いろいろ手伝ってもらってます」

 いつも馬と接している馬術部のみなさん。毎年、花見行列に参加してもらっているんです。

静岡大学馬術部 三浦汰一さん(3年生):「自分がこんなに大きい祭りの出る側になることは貴重な体験。メッチャワクワクするしすごい貴重な体験」

賄賂も必要

画像1: 賄賂も必要

 スタート1時間前。今度は牧子さん、一生懸命ニンジンを切っています。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「歩いている途中に馬が飽きないように『賄賂のニンジン』を作ってます」

 馬のそばにいる馬子役の人たちは、着物のたもとにニンジンをしのばせておきます。その量は2日間で20kg。やっぱり馬ってニンジンが好きなんですね。

 人だけでなく馬たちも着飾ります。ここから一緒に歩きの練習。一緒に歩きながら馬たちの性格を見極めます。

 馬子役には牧子さんの長男、駿萬くんの姿もありました。

 馬に乗るのは各自治会から推薦されて来た人たちで、多くは乗馬未経験者。安全に乗りこなせるよう、牧子さん指導のもと、事前に乗馬クラブで練習をしました。それでも慣れない着物を着ての乗馬は難しいそうです。

 お祭り用の馬と言っても馬は馬。力もあります。

スタッフ:「馬が出ます。ごめんなさい、ちょっと通してください」

 本体に合流するため、東御門へ移動。牧子さんは、行列に同行して全ての馬を見る重要なポジションです。

 その頃、東御門では大御所役のココリコ田中直樹さんが家康公になりきって出発の掛け声。

ココリコ田中直樹さん「氏真さまと一緒に花見に参ろうぞ。参ろう!参ろう!参ろう!」

 出発までじっと待つのは馬にとっては大変なことです。2時間を越える長丁場、上に乗る人たちは無事を願ってなでなで。

スタッフ:「馬たちがおとなしい」
静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「そうですね、今とりあえず安心してます。みんな(馬に)乗った時点でとりあえずホッとして、またここまで来てホッとして」

画像2: 賄賂も必要

いよいよ行列スタート

 いよいよ行列がスタート。沿道は人でいっぱいです!

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「(馬に)突かれちゃうから、ちょっと後ろを見ながら前に近づかないように難しいね」

 馬たちが街中を歩く姿は静岡まつりでお馴染みの光景。私たちが楽しく見られるのも、牧子さんたちのがんばりがあるからこそ。

 スタッフの頑張りはこんなところでも…このバケツはもしかして…。お馬さんが出したものをしまっておく。わざわざやっている。

 馬も生き物ですからね?。でも道路は汚せません。

画像1: いよいよ行列スタート

 午後3時を過ぎて行列は静岡浅間神社に到着。休憩タイムです。馬を飽きさせないために、ここであの賄賂を…。

静岡大学馬術部 三浦汰一さん(3年生):「この子めちゃめちゃ良い子で、トラブルもない順調だし楽しい良かった」

 ニンジンをたくさん切った甲斐がありましたね。

 馬だけでなく、周りへの気配りも忘れない牧子さん。休憩を終え、ゴールの駿府城公園を目指します。しかし、ここでちょっとしたアクシデントが…。行列の途中、馬に乗っていた人が降りています。

画像2: いよいよ行列スタート

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「鞍が回って落ちてしまった。ちょっと手をすりむいた」

 慣れない着物を着ての乗馬で、バランスを崩してしまったそうです。周りのスタッフが男性を持ち上げて再び馬の上へ…。その間も馬は暴れず、じっとしています。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「ゴメンなさい、折れたりしてない?」

 大きな怪我にならず、ホッと一安心。みなさん人馬一体になってがんばりました。 

馬に乗っている人:「楽しかったです。メッチャ良い子でした。いつも見ている静岡の街が違うふうに見えて、すごい幸せでした」

駿府城公園で一夜を明かす馬…見張り役は大学生

 始まる前はドキドキと言っていた牧子さんですが、1日目を終え、改めてお祭りの素晴らしさを感じていました。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「久々に『お祭り!』って感じだった。ワクワクした感じだった。あしたもう1日あるので…まだホッとはしてないですね」

 あすに向けて駿府城公園で一夜を明かす馬たち。もちろん警備は怠りません。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「見張り番をしてもらいます」

画像: 駿府城公園で一夜を明かす馬…見張り役は大学生

静岡大学馬術部 岡田雄大さん(2年生):「責任重大ですね、馬の命がかかっている仕事なので。ちゃんとやらないといけない」

 夜の11時。昼間の賑やかさとはうってかわって、静かな駿府城公園に一台のキャンピングカーが…。

 見張り番をしている静岡大学の岡田さんと高橋さん。徹夜で馬の安全を見守ります。いや?本当にご苦労様です。

最終日

 天候にも恵まれ、最終日も大御所花見行列を見に多くの人が集まりました。

 行列は、牧子さんの父・信正さんが入院している病院の前へ。とそのとき…。

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「手を振ってる」

 お祭りの安全を守るために、大御所花見行列に同行している静岡乗馬クラブの浅川牧子さん。毎年参加していた父の信正さんは入院中で残念ながら今回は欠席。でしたが…。行列が信正さんが入院している病院の前を通過しようとしたそのとき。
  
静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん
「手を振ってる。(お父さん映ってる?)映ってる」

 ちょっと分かりづらいかもしれませんが、信正さんも見えました

画像1: 最終日

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「きょうも安全第一というラインがきてました」

 静岡まつりは1年で1番胃が痛いといっていた信正さん。娘のことを常に心配していました。そんな父の思いを受けながらお祭りの安全を守る牧子さん。

子どもたち:「がんばってください」

 周りの声援に勇気付けられながら、無事、今年の大御所花見行列は終了しました。

画像2: 最終日

 無事に大役をつとめた馬たちは愛知県に戻るためにトラックへ。ゆっくり休んでちょうだいね。

 そのトラックにはこんな英文が…。「Horses make people happy」。

 馬を間近で見ることができた子どもたち。馬と一緒に行列に参加した大人たち。みんなが笑顔でした。

画像3: 最終日

静岡乗馬クラブ 浅川牧子さん:「父からLINEが入りました。本当にホッとしてます。もうどっと疲れました。みんなの協力あってこその静岡まつりができて良かった」

 静岡まつりには、笑顔と安全を守るたくさんの人たちがいました。

            (4月8日放送)