45℃を超える暑さに…警察がバス車内の温度の変化を再現し検証 女児置き去り死亡事件 行政も幼稚園・保育園の安全管理体制の緊急調査 /今週の静岡
たくさんの花。飲み物。女の子にあてた手紙も…。その数は事件から10日以上がたっても増え続けています。
絶えない献花
静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の送迎バスの中に、3歳の女の子がおよそ5時間にわたって置き去りにされ、熱射病で死亡した事件。今週も、多くの人が園やバスがとめられていた駐車場を訪れ、手を合わせました。
藤枝市 2歳児の父親(30代):「本当、女の子がお母さんから持たされたお茶ですかね。そちらを飲んで、服も脱いで、命をつなぎ止めていたというのは想像するとすごく胸が苦しくて。本当に言葉が出ません」
藤枝市 3歳児の母親(30代):「やっぱり水。空の水筒が置いてあったということで、本当に悲しくなっちゃって、私たちも水を欲しがっていただろうなと思ったので、カルピスを持ってきた」
友達がたくさんいて、サッカーが好きだったという女の子。園では、毎日のようにみんなとボールを追いかけていたそうです。
中には、「おたんじょうび おめでとう」というメッセージも。今月、4歳の誕生日を迎えるはずでした。
藤枝市 60代:「つらかったというかね、あんな小さい子がのど乾かして、あの暑い車の中で…。助けられなかった。それが一番つらいです」
掛川市 3児の母親(30代):「朝、たぶん普通にいってらっしゃいって言ったと思うんですよね。普通にいってらっしゃいって言って送ったのに、そんな無言の帰宅なんて、とても想像しただけで胸が張り裂けそう。本当につらすぎて、家に帰るとその話ばっかりして、あの記者会見を見たら余計につらくて、なんかすごく他人事だし」
園長は辞任
今週火曜(13日)、バスを運転していた増田立義園長は8日付で園長と理事長を辞任したと代理人弁護士を通じて明らかになりました。後任は決まっていません。
事件後の会見、人手不足を訴えていた元園長。
川崎幼稚園 増田立義元園長(7日):「人を雇うことは非常に大変。今の時代に中々いない。もしよければ皆さんに紹介してもらいたいと思っているくらい。給食をつくる人がいない、保育士が足りない、運転手が足りない、今の状況、日本の状況。それを皆さんに訴えて、私たちに紹介してもらいたい」
警察は現場周辺で検問 目撃者など探す
今も再開のメドが立っていない川崎幼稚園。一方、警察は今週、実態の解明に向け動き出しました。女の子は午前9時ごろからバスに閉じ込められていて、その時間に合わせて、駐車場の近くで検問を行いました。
警察検問
「本日、女児が亡くなってから1週間ということで、この時間帯に通っている方の目撃を聞いているんですけど、ちょうど1週間前、5日の午前9時から14時の間で、どうでしょう、この道を通ったとかはございますか」
女の子が車内に置き去りにされていた時間帯に周辺を走っていなかったか、ドライブレコーダーの映像はないかなどの聞き取りを実施しました。
バスの検証を実施…車内の温度の変化を調べる
さらに今週水曜…
林輝彦アナウンサー:「午前7時20分です。亡くなった女の子が乗っていた送迎バスがレッカー車に載せられ、牧之原警察署を出ます。これから川崎幼稚園の駐車場に移動し、バスの検証が行われます」
静岡県警はこれまで押収したバスの検証を、牧之原警察署内で続けていましたが、今週水曜、事件後初めて、現場となった園の駐車場にバスを移動させ実証実験を始めました。
林輝彦アナウンサー:「午前9時半すぎです。牧之原市の川崎幼稚園の駐車場では、今、バスの検証が行われています。事件当日の最高気温は30.5℃。真夏日の暑さでした。きょうもまだ9時半すぎなんですが、変わらない暑さとなっています。そんな中、今、目の前の亡くなった女の子が乗っていたバスでは、中の温度が定期的に測られています」
死亡した女の子の体温は40℃ほどにまで上がっていたことが分かっています。事件当日、バスの中の温度はどう変化していったのか? 複数の温度計を数分ごとに計測するなどして、検証が進められました。
事件が起きた5日、女の子が亡くなったとみられている昼頃の牧之原市の気温は29.9℃まで上がっていました。そして、午後1時ごろには、この日の最高気温、30.5℃を記録しています。
車内は45℃を超える暑さ
この日の午後、園の駐車場は…。
林輝彦アナウンサー:「女の子があちらの白いバスで発見されたのは午後2時すぎのことでした。現在時刻は午後2時前です。手元の温度計では33.4℃です。外に数分立っているだけで、汗が吹き出し、日差しが肌に当たると少し痛いと感じてしまうほどの暑さです。車の中は外よりも暑くなると言われています。女の子は過酷な暑さの中、およそ5時間、取り残されていたことになります」
実験には元園長も立ち会っていたということです。
水曜日の牧之原市の最高気温は30.7℃。事件が起きた日と同じような気象条件でした。
捜査関係者によりますと、車内の温度は実験開始から1時間後には40℃に達し、女の子が亡くなったとみられる正午前後には45℃を超えたということです。
また、発見当時、千奈ちゃんは上半身の服を脱いだ状態で、衣類は車の中で見つかっていたことが明らかになりました。
警察は、今後も実証実験を複数回行い、データを集めるなど捜査を進めていくということです。
窓までラッピングされたバス 中の様子分からず
実証実験で、事件発生時と同じ場所にとめられた川崎幼稚園の送迎バス。駐車場の周りには、道路がありますが、バスの窓全面に、ラッピングがされているため、もし人が近くを通っても、中の様子を見ることは難しかった可能性があります。
藤枝市 3歳児の母親:「バスの模様というか、絵が、全体的に見えない、
中が見えるようにするとか、近くの通りがかりの人が違和感を感じたりとか、そういうのをやっていってほしい」
藤枝市 60代:「窓がもうちょっと見える感じだったり、全部かぶされてなくて。なんかいろいろ注意点がいっぱいあって、それも全部。助けられなかった。一番つらいです」
先週行われた園の会見で、バスのラッピングについて指摘された元園長は。
川崎幼稚園 増田立義元園長
Q.外から確認がしづらかったということが今回の事件に与えた影響は理事長はどういうふうに受け止めていますか?
A.「誠に申し訳ないなと感じております」
全国の送迎バスの安全管理についての緊急点検を実施へ
昨年の福岡に続き、繰り返された送迎バスでの悲惨な置き去り事件。政府も対応に乗り出しています。
岸田総理は全国すべての保育所や幼稚園などで送迎バスの安全管理について、緊急点検を実施するよう、小倉担当大臣に指示しました。
小倉将信こども政策担当大臣
「2度この事件が起こってしまったわけですから、もう3度目はあってはならない。こども政策担当大臣の私を中心に、政府としてやれることは何でもやる。そのような覚悟を持ってスピード感を持って検討させていただきたい」
今後、原因究明のため、関係者や有識者らにヒアリングを行った上で、来月中にも再発防止に向けた緊急対策をまとめるとしています。国が主導して、送迎バスの安全管理マニュアルを作成するのは今回が初めてです。
保育施設の安全管理体制を確認する立ち入り調査も
県内の自治体にも動きが。牧之原市では、市内の保育施設へ立ち入り調査に入りました。
各務実来記者:「午前10時です。市の職員6人が牧之原市内の保育園に入っていきます。安全管理体制を確認する立ち入り調査が行われます」
この調査は、来週の木曜まで行われる予定で、保育園や幼稚園など、川崎幼稚園以外の市内16の保育施設全てに対して実施される予定です。
牧之原市子ども子育て課 前田明人課長:「今回の(川崎幼稚園の)事故に伴って行わせていただいたので、登降園のチェック、それから欠席の場合の保護者への連絡・確認のルールなどについて、どのような対応しているかを聞き取りした。本当に大きな事故が起きてしまって、市内の園で安全確認ができているかを急きょ確認した」
また、バスの送迎がある園に対しては、国からの指導に沿って、運転手のほかにもうひとり乗務員を配置しているか、乗り降りの際に人数確認をしているかなども確認。そのほか、子どもが水遊びする時や、昼休みなどの安全管理体制も調べます。
この日の立ち入り調査はおよそ1時間行われ、特に問題は確認されなかったということです。
牧之原市子ども子育て課 前田明人課長:「本来であれば今回も起きてほしくなかったというか、起きるべきではなかったと考えているので、再発防止については本当に重く考えて検討していきたい。今後、市内全16園、民間も含めてあるのでそちらもチェックしていきたい」
静岡市は送迎時のバス利用などについて調査
静岡市の田辺市長は、定例会見で市内の認定こども園などに対し、送迎時のバス利用などについて調査を始めたことを明らかにしました。
静岡市 田辺信宏市長:「今回の事故は私自身も心を痛めている。起きてはならないことが起きてしまった、静岡市としても重く受け止めている。(今後)バスの送迎だけではなく、登園・降園の安全管理について改めて不備がないかを確認し、必要に応じて改善に向けた指導を行っていくことはもとより、命を守るという観点でさらにできる対策が無いかを検討していきたい」
バス送迎している幼稚園では…
では、普段からバスの送迎をしている幼稚園は…
静岡翔洋幼稚園
「ありがとうございます」
園児が全員降りた後、車内をくまなくチェックする職員。
静岡市清水区にある「静岡翔洋幼稚園」。園児およそ110人のうち、3歳から5歳までの90人ほどが4台のバスに分かれて登園しています。
こちらの園では、園児がバスに乗るときに「健康観察シート」を職員が受け取り、名簿と照らし合わせながら誰が乗ったかを確認しています。
車内は必ずチェック
置き去りを防ぐために、園児がバスから降りる際には職員2人で見守りを行います。全員が降りた後には同乗していた職員が必ず車内を確認、バスを駐車場にとめた後、運転手が改めて確認する、“3重チェック”の態勢です。
静岡翔洋幼稚園 斎藤茉未保育教諭:「人がいないかもそうだが、忘れ物がないかも同時にチェックしている」
Q.子どもが残っていたら確実に分かる?
A.「確実に分かります」
登園した後には、クラスで出欠を確認。「健康観察シート」と照らし合わせながら、子どもたちの名前を一人ずつ呼んで、実際に登園しているかを確かめます。
こうした安全管理態勢に送迎バスを利用している保護者は…。
保護者:「(事件があって)やっぱりちょっと心配なところもあるが、幼稚園の先生がきちんと確認をしていただいていると思っているので、そこは安心している」
職員室には、当日の欠席者がひと目でわかるボードを設置。「健康観察シート」があるにも関わらず、園児が見当たらない場合はすぐに保護者に連絡するルールとなっています。
「できるチェックはする。アプリは便利だが過信しない」
今回の事件で浮き彫りとなったのが、チェック態勢の重要さです。
静岡翔洋幼稚園 江﨑雅治園長:「本当に悲しい、痛ましい事件で、ショックで仕方がない。人はミスをするので、しないようにしていても。ですので、人為的なミスは避けたくても避けられない場合があるので、とにかくできるチェックは常にしようということは意識してやっている」
亡くなった女の子が通っていた川崎幼稚園では、登園管理アプリを導入していながらも、最悪の事態を防ぐことはできませんでした。
静岡翔洋幼稚園の江崎園長は、大事なのはどのように安全管理のルールを運用するかだと指摘します。
静岡翔洋幼稚園 江﨑雅治園長:「(アプリは)いろんな意味で便利だと思うし、使うことがいけないとも思わない。ただ、それを過信してしまうことはいけなくて、単純にアプリに任せておけばいいではなくて、私たちのできる範囲のことを一生懸命することが大切。使う人が本当にアプリの特性を知った上で、いかに使っていくかが大事ではないかと思っている。便利なものも使い方によっては、本当に危険なものになることもあり得る」
幼い命はなぜ奪われたのか? 警察は今後も引き続き、園の職員らに事情聴取をするなどして捜査を続けていくということです。
(9月17日放送)