生活保護費引き下げ取り消し訴訟 被告の自治体側が控訴 生活保護受給者の実態は
生活保護費の引き下げは違法だとして静岡地裁が静岡県内4つの市に引き下げの取り消しを命じた裁判で、4つの市が控訴しました。受給者の生活とはどのようなものなのか、取材しました。
山本定男さん:
「一応勝ったでね。第一段階は。嬉しく、良かったです」
浜松市に住む山本定男さん(78)。
以前は建設現場などで「とび職」として働いていましたが、15年ほど前から生活保護を受給するようになりました。
その理由は・・・
山本定男さん:
「やっぱり腰痛。ヘルニア。腰だね。他に何もない。動けなくなっちゃう。やたらイライラしてくる。やはり人間どこか悪いと、こうやって1人でいるとろくなこと考えない」
山本さんのように、様々な理由で生活が困窮している人たちに、憲法で定められた「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する生活保護制度。
ところが、この制度を利用する人たちが予想していなかった事態が起きました。
2013年から2015年にかけて、国は物価の下落などを反映させる形で食費や光熱費などの生活費部分の基準額を
最大10%引き下げたのです。
山本さんへの支給額も月に2000円ほど減額に…。
山本定男さん:
「(今の月支給は)6万5470円。やりようがないでしょ。500円引かれたって大きいだもんで保護者は。あんたでもできる?無理でしょ。元々ないだもんで最初からが。それを削っちゃうからおかしくなってくる。どうしようもうない、減らされたら。1人じゃ何もならない」
節約のため、食事は朝と夕方の1日2回。
山本定男さん:
「インスタント味噌汁を作る」
ほとんどが自炊だといい、食材は近くのスーパーで割引されたものを中心に購入しています。
山本定男さん:
「(買い物も)値引きしたやつ。あんまり惣菜は食べない。
自分で日持ちするものを冷蔵庫入れとけば…。食べに行っていたら(お金が)持たない」
出来上がった昼食は、ご飯に納豆などわずかなおかずのみ。
メニューは毎日、ほとんど変わりません。
ただでさえ厳しい日常生活ですが、光熱費の上昇も追い打ちをかけています。
節約のため風呂も2~3日に1回程度だといいます。
山本定男さん:
「食うに精いっぱいでしょ。もらい始めの頃からしたら、物価も高くなっているし。電気もガスもやっぱりまともな生活したいよね。生活保護者だって権利がある。好きで(受給者に)なっているの1人もいないし。誰が考えたって保障できていない」
静岡地裁は原告勝訴の判決
2015年、国による基準改定に伴い自治体が生活保護費の引き下げを行ったのは生活保護法に違反しているとして、
山本さんを原告代表に、県内の男女6人が、静岡市、浜松市、掛川市、袋井市の4つの自治体を提訴しました。
5月30日、その判決が静岡地裁で出されました。
菊池絵里裁判長
「厚生労働大臣の判断には、裁量の逸脱または乱用があり、違法だ」
結果は山本さんら原告側の勝訴。
静岡地裁の菊池絵里裁判長は、国が引き下げの根拠とした
基準の1つについて、「統計などの客観的数値などとの合理的関連性が欠けていて、専門的知見との整合性はない」と指摘。
山本さんたちの主張が全面的に認められた形となりました。
山本定男さん:
「こんなに喜ばしいことは何十年ぶりですし、闘ってきて本当に良かったと心から感じています」
被告の4市は控訴
一方、自治体側は静岡地裁の判決を不服とし、12日、いずれも東京高裁に控訴しました。
浜松市福祉総務課 渡辺貴史課長
「国や他の自治体と協議の結果、生活保護法基準の改定は違法とされた裁判所の判断を、受け入れることはできないという判断に至り控訴することとした」
これに対し、大橋昭夫弁護団長は、
「原告の生活の苦しさを回復するために、自治体側には静岡地裁の判決を受け入れてほしいと思っていただけに、今回の控訴はとても残念。東京高裁でも一審の判決が維持されるよう取り組みたい」とコメントしています。
山本定男さん:
「(控訴することは)100%分かっていた。控訴するっていう方もおかしい普通は」
2015年の提訴から1審の判決までかかった期間は7年以上。
山本さんは自身の年齢を考え、長期化する戦いに不安があるといいます。
それでも・・・
山本定男さん:
「勝つしかないですよもう。絶対戦っていく気持ちはいくらでもある。十分勝つつもりで。絶対勝つつもりで行かないといかん」