レンコンは「見通しがいい」 ウインナーは「winner(勝者)」…飲食店と塾がコラボ『合格弁当』 静岡・御前崎市

 静岡県御前崎市にある「波乗り食堂ありがとう」。この日、朝から従業員たちがフル回転していました。

画像: レンコンは「見通しがいい」 ウインナーは「winner(勝者)」…飲食店と塾がコラボ『合格弁当』 静岡・御前崎市

縁起物を詰め込んだお弁当

画像1: 縁起物を詰め込んだお弁当

 作っているのは、バラエティーに富んだ縁起物を詰め込んだお弁当です。

「勝負に勝つ」黒豚のトンカツ。「すでにあがりになっている」からあげ。
「見通しがいい」穴の開いたレンコン…。ウインナーは「winner(勝者)」です。

画像2: 縁起物を詰め込んだお弁当

Q.いよかんはどういうゲン担ぎですか?

波乗り食堂ありがとう 岸和田光弘さん:「『いい予感がする』ということで…」
 そこに地元・御前崎産の野菜が添えられ、ご飯は醤油でほんのり色づいた静岡の伝統的な祝い飯・さくらごはん。その上には頭のついたまるごとのエビが乗り、桜の花をかたどったダイコンがいろどりを添えます。

 弁当の名前は「合格弁当」。公立高校受験を目前に控えた学習塾の生徒たちに配られます。

Q.この弁当は全部縁起のいいものばかりですね?

岸和田さん:「そうですね、無理やり的なところもあるが。でも 子どもたちに楽しんでもらえたら。僕自身、受験の時、特に高校受験って、緊張した思い出があるので、そんな受験生の心が少しでもリラックスした状態で 100%普段の力を全力で発揮してもらえるように」

岸和田さん:「きょうは144個」

Q.コロナ禍でこれだけの弁当の数の発注があるということは?

岸和田さん:「もう本当にうれいしですね、ありがたいと思います」

画像3: 縁起物を詰め込んだお弁当

コロナ禍で…3店舗中2店舗を閉店

 価格は末広がりの888円。144個ということで全部でおよそ12万円。ちょうど貸し切りの宴会1回分に相当する金額だといいます。

画像: コロナ禍で…3店舗中2店舗を閉店

 波乗り食堂の社長・岸和田光弘さんは、コロナ前、御前崎市と浜松市に合わせて3軒の居酒屋を経営していました。しかし、コロナ禍による緊急事態宣言やまん延防止措置が相次いだことで、売り上げが減少。一方で毎月かかる固定費で赤字がかさんでいきました。

波乗り食堂ありがとう 岸和田光弘さん:「特にやっぱり大きいのが家賃負担で3店舗合わせて、すべての人件費も含めた固定費で、月に何100万と。どんどん銀行口座から減っていくという現実で、本当にどうしようかなって、真っ暗になった時期だったかと思います」

 去年、2つの店を閉店。残った1店舗でテイクアウトに力を入れました。それでも事業改善が追い付かず、3分の1の広さの現在の店に移転。お酒メインから食事需要にこたえる形に業態も変えました。役員報酬はほぼゼロにし、従業員とともに立て直しに励んでいます。それでも売り上げは、以前の半分以下です。

 そんな中、経営者の勉強会で知り合った地元の学習塾の社長から「合格弁当をつくらないか」と声がかかりました。

波乗り食堂ありがとう 岸和田光弘さん:「本当にうれしかったです。夜中にポンと電話いただいて、。それでメールでやり取りしているうちに、お互いすごく『これ絶対喜ばれる、楽しいですね』というようなそんな話で、どんどんどんどん形が定まってきた感じです」

塾経営者「少しでも元気、笑顔を与えたい」

塾経営 高野健一郎さん
「こんにちは…岸和田さん ありがとうございます」

波乗り食堂ありがとう 岸和田光弘さん
「ありがとうございます できあがっています」

 こちらが、「合格弁当」を発案した塾の経営者、高野さん。発案のきっかけは…

塾経営 高野健一郎さん:「子供達が時々、暗い表情を見せたりとか、親御さんとかも元気がなかったりとか、そういった状況も結構続いてましたし、マスクするようになって、なかなか笑顔も伝わらないし。コミュニケーションも昔ほど積極的にできなくなっている状況の中で、少しでも元気といいますか、笑顔を与えたいっていうのがあって」

画像1: 塾経営者「少しでも元気、笑顔を与えたい」

 暗くなりがちなコロナ禍。塾の生徒たちに笑顔になってもらいたいと思いついたのが「合格弁当」のプレゼントだったのです。

 届け先は、御前崎や袋井、菊川など、6つの塾。費用は全て塾が負担しています。

 この日は、公立高校の受験を5日後に控えた土曜日。塾では、生徒同士による集団面接の練習が行われていました。

 そこに「合格弁当」が到着しました。

 パッケージには、岸和田さんや塾の先生たち、そして食材を作った地域の生産者からの応援メッセージが。

波乗り食堂ありがとう 岸和田光弘さん:「これから試験を受けられますが、それだけでもすごくラッキーなことです、奇跡的なことです」

「お父さんお母さん 産んでくれてありがとう、そしてご先祖さま、命をつないでくれてありがとうございます、これから試験頑張ります そんなふうに心の中で伝えてもらえたら、絶対にみんな応援してくれて力が発揮できると思います」

「全員でみなさんのこと応援していますので、頑張ってください」
(生徒たち拍手)

 多くの人の想いと、ふたがしまらないほどの縁起物が詰め込まれた合格弁当を塾の生徒たち一人ひとりに先生が手渡していきます。

先生:「がんばってください…がんばってね。たぶん大丈夫。たぶんいける」

画像2: 塾経営者「少しでも元気、笑顔を与えたい」

自宅でも『合格弁当』

公立高校の受験 Aさん:「お弁当からも 支えているなということがすごく伝わってきて、受験もがんばれそうだなと思います」

公立高校の受験 Bさん:「すごくおいしそうで、受験もよりがんばりたいという気持ちが強くなりました。きょうはすごく絶好調でこのままなら問題なくいけそうだと思っています」

 受験生たちの勉強は、家に帰っても続きます。その合間、晩ごはんに食べたのは、合格弁当でした。

受験生の母親:「見た目 すごくきれいですよね 色どりがよくて」
受験生:「お花の大根とか、めっちゃきれい、おいしい。ちょっと休憩してがんばりたいと思います」

別の受験生の自宅
受験生:「いただきまーす。プリプリでめっちゃおいしい、これ。全部安定しておいしい」

母親:「よかったね」

受験生:「受かりたいところに絶対合格します」

 受験はどんなに勉強をしても不安で心細いもの。合格弁当はラストスパートをかける受験生の心と胃袋にエールを送ります。そして、岸和田さんにも。

波乗り食堂ありがとう 岸和田光弘さん:「逆境が力になっているというか、いろんな人が喜んでくれているというのをやりがいに変えてがんばっていきたいなと思っています」

画像: 自宅でも『合格弁当』