リニア工事で中間報告「全量戻せば地下水の影響少ない」が…JR「2027年開業は難しい」 静岡県「戻し方ができていないことが分かった」
リニア中央新幹線のトンネル工事に伴う大井川への影響について19日、国の有識者会議が中間報告をまとめました。その中身、そして各方面の反応は。
国の有識者会議「工事で出る湧水を全量戻せば地下水への影響も極めて小さい」
リニア有識者会議 福岡捷二座長:「全量戻せば河川流量が維持されて、そして地下水もほとんど変化が非常に小さいというのが、私どもこの委員会の結論であります」
国土交通省 上原淳鉄道局長:「特に中下流域の地下水への影響については、一定のプロフェッショナルのジャッジメントが行われた」
国の有識者会議は、「トンネル工事で出る湧水を全量戻せば、中下流域を流れる水の量は維持され、地下水への影響も極めて小さい」と結論付けました。地下水の減少量は、不確実性などのリスクがあるものの年間0トンから1億トンと推定され、毎年の季節による変動の9億トンから15億トンに比べ「極めて小さい」と表現しています。
「全量戻し」JR側の4案は実現困難であるとして採用されず
また、静岡県が求めている県外に流出する湧水の「全量戻し」については、JR側が示した4案はいずれも技術面や安全面で実現困難であるとして採用されず、具体的な方法は示されませんでした。
リニア有識者会議 福岡捷二座長:「(JRの示した4案は)それはなかなか採用ができないなと。今後さらに色々なことを静岡県あるいは地域と議論した中で、JR東海はもっと他の方法があるとすれば、さらに検討していただくべきであると」
さらに、中間報告では、次のような1文が盛り込まれました。
中間報告
「JR東海は地域の不安や懸念が払しょくされるよう、真摯な対応を継続すべきである」
JR「2027年の開業が難しい状況は変わらない」
今回の中間報告によって、ストップしている静岡工区の着工に向け、JR東海は一歩前進したということなのでしょうか。
JR東海 宇野護副社長:「懸念ご不安を払拭していくというプロセスがまさしくこれからということになりますので、まだ道筋がついたとは考えてはおりません。まあ2027年(開業)が難しいという状況に変わりはありません」
会議にオブザーバー参加していた難波副知事は…。
静岡県 難波喬司副知事:「工事中に大井川流域外、山梨側に水が流出する問題についての対策という中身は示されていませんので、その部分だけをとると、これは受け入れられないということになると思いますけれども、全体としての中身について評価をするとすれば、これは十分受け入れられる内容だと思っております」
難波副知事は、中間報告に一定の評価を与えたうえで、中断していたJR東海との対話を再開する考えを示しました。
井川森林組合は
こちらは、リニアトンネルが通る予定の静岡市葵区の山間部に近い、井川地区です。井川森林組合の組合長の森竹さんは…。
井川森林組合 森竹史郎組合長:「そんな進んだ話じゃないですよね。しっかりした対策を、そこの部分を話し合って、もうちょっと突っ込んだ話にしてくれと」
井川森林組合では、リニアトンネル工事に関連して、関係業者から砂利などの骨材4万トンから5万トンを購入したいという問い合わせがあったといいます。
井川森林組合 森竹史郎組合長:「もう7・8年、ただ、馬の前にニンジンぶら下げられて、買うよ買うよって話はあったけど、まだその契約までは至ってないです」
森竹さんは井川の森林を守るためにも、水問題は重要と考えています。一方で、今の県の進め方にも問題があると指摘します。
井川森林組合 森竹史郎組合長:「井川の組合というより私個人的にはその…もう少し大人の歩み寄った話ができるといいなと思ってますけどね。大なり小なりプラスもあれば、マイナスも出る、と思うんですよ。どんな工事にしろね。なので、そういう部分をどこで妥協するかっていう部分の妥協点が今、JR側と県側が行き違いが生じているのかなと気がしますけどね」
大井川沿いの茶農家は
一方、大井川の恵みで生計を立てている人たちは―
島田市で江戸時代からおよそ300年間続く茶農家「まるさ佐京園」。茶畑や茶もみの過程で大井川の地下水を使っています。
まるさ佐京園(島田市) 佐京裕一郎さん
「揉む工程でも新鮮ないい水が必要なので、お茶にとっての水は大切」
13代目の佐京裕一郎さん。「大井川を守る62万人運動」にも参加しています。
中間報告で「地下水への影響は極めて小さい」とされたことについて、工事によって水が減るリスクが存在していることに変わりはないと考えています。
まるさ佐京園(島田市) 佐京裕一郎さん
「別にリニアを通すな、ということではなくて、問題が解決していないのに解決しないままいこうとしている姿勢に反対。全然、何の影響もないですよとなってからつくればいいのに、何を急いでいるのかというか、そういうところですね」
静岡・川勝知事「戻し方ができていないことが分かった」
静岡県の川勝平太知事は、県が求めている「全量戻し」に関して、JRが示していた案が中間報告に盛り込まれなかったことについて、次のように語りました。
静岡県・川勝平太知事
「その戻し方について1行も書かれていません。つまり戻し方がまだできてないということがわかったのではないか。(JR東海が)『全量戻しがトンネルを掘削して、後から戻すことだ』と言われた時には、本当に驚きました。結果的にトンネルを掘ってから戻す、それが自分たちの全量戻しだ、とは言えなくなったのは、有識者会議の今回のご見識のおかげと思っております」