進まぬ津波対策 地震発生から最短2分の想定も 静岡市清水エリア
国が想定する南海トラフ巨大地震。清水に津波が到達するのは最短で地震発生からわずか2分。焼津などと並んで全国で最も早い想定です。
住民:「2分というのは厳しい数字」
専門家:「逃げる時間がほとんどない」
県:「できるだけ波の到達時間を遅らせられたら」
専門家が警鐘 清水の現状とは
シビアな想定に立ち向かう清水の津波対策の現状とは?
およそ二万人が犠牲になった東日本大震災。そのほとんどが津波による死者と言われています。東北の沿岸部に巨大津波が押し寄せたのは、地震発生のおよそ30分後でした。
清水区三保にある東海大学で、南海トラフ巨大地震などの研究を進める専門家は、清水が置かれている状況に警鐘を鳴らします。
東海大学海洋学部 専任講師
原田靖博士(プレート運動が専門):「東日本大震災で30分40分逃げる時間があった。これは我々よく知っていて奇跡的に逃げられた人の話も聞いているので、そういうのが頭に入ってしまっているとこちらでは逃げられない可能性が大きくなる」
石田和外アナウンサー:「東日本大震災以降、清水では津波の防護施設の計画が進んでいます。しかし震災から10年が経とうとする今も工事は着工していません」
計画の概要は固まったが…
震災からこの10年、県も南海トラフ巨大地震を想定したハード整備を急ピッチで進めてきました。
浜松市では民間企業の300億円もの寄付などにより全長17.5キロの防潮堤が完成。
県内で必要とされる整備の7割近くが今年度、完了する予定だということです。
しかし最もシビアな想定の清水エリアは手つかずの状態。津波を防ぐ施設が何もない「無提区間」となっています。
県港湾整備課 杉本文和課長:「利用と防御の調和がかなり難しい場所」
2015年に県が専門家や地元の人を交えて検討委員会を開き、ようやく計画の概要が固まりました。清水港のおよそ3.6キロに高さ2メートルの防潮堤などを設置。賑わいゾーンや水産業振興ゾーンなど、清水港のエリアごとの特色に配慮した作りをイメージしました。
しかし多額の予算がかかることなどから、5年近く計画は前に進んでいません。
住民は「垂直避難」へ
8年前から地域の防災活動に取り組んでいる浜田地区連合自治会の会長、植野克秀(うえの・かつひで)さん。工事の着工を待ち望んでいます。
浜田地区連合自治会 植野克秀会長:「こうしてみた通り(津波が)まともに来て巴川を上っていくと非常に心配。一日でも早くこの防潮堤を作ってほしい」
県港湾整備課 杉本文和課長:「着手できないというのは我々としても心苦しいところがありまして、できるだけ着手したいと来年度にむけて積極的に動いているところ。予算が確定したら地元にアナウンスして進めていきたい」
ハード整備が進まない中、住民はどう備えればいいのか。海から1キロ弱のところに暮らす植野さん。自宅は津波浸水想定エリアですが、市が指定する避難場所までは歩いて10分近くかかってしまいます。
そこで植野さんが考えているのが「垂直避難」です。身の安全を確保した後すかさず階段を上り・・・二階を越えて三階へ・・・ここまで30秒ほど。
避難訓練では、この垂直避難の動きを家族で確認しているということです。
植野克秀さん:「ここらで海抜10mくらい。(ここまでの高さがあれば安心)そうですね。自分はそう判断している」
植野さんが三階建てにしたのは30年以上前ですが、震災からこの10年、周辺には三階建ての家が増えてきたといいます。植野さんはこうした建物を活かして地域で助け合うことも考えています。
植野克秀さん:「近所ではあのうちは避難が難しいというのもみんな分かっているので、向かいの方をうちに呼んで来ようとか思っている」
震災から10年…
震災から10年、防災意識の低下が心配される中、想定される被害をもう一度確認し、一人一人が命を守るためにできることと真剣に向き合う必要があります。
東海大学海洋学部 原田靖博士:「徐々に薄らいでいってしまうのは仕方のないこと。南海トラフの発生の危険性はむしろ高まっている。プレート運動は止まっていない。ひずみエネルギーはどんどん蓄積されている。ですからいつかは発生する」
植野さんのお宅は津波の浸水想定が最大で2mですが、県内には10mを超える浸水が想定されているところもあります。その場所のリスクを知って備えることが大切です。