「続けるのは創業家のエゴ…」静岡県で15店舗展開のスーパー1号店が52年の歴史に幕

 静岡県内で15店舗を展開するスーパーマーケット「田子重」。その1号店がこのほど52年間の歴史に幕を閉じた。背景には人口減少と買い物を取り巻く環境の変化があった。(難波亮太)

閉店した田子重小川店(焼津市小川新町)
閉店した田子重小川店(焼津市小川新町)

「たくさんの思い出ありがとう」

 田子重の1号店、小川店(焼津市小川新町)の最終営業日となった4月16日午後2時過ぎに取材に訪れると、買い物かごいっぱいに商品を詰め込んだ客でにぎわっていた。閉店セールも手伝ってか商品棚はほとんどが空の状態。「たくさんの思い出ありがとう」「暑い日も寒い日も自転車で15分かけて買い物にきていた。小川店には本当に助けられた」。レジの近くには客が店への感謝をつづった寄せ書きが張られていた。

お客さんのメッセージ※画像の一部を加工しています
お客さんのメッセージ※画像の一部を加工しています

 毎日来ていたという近所の女性(82)は「開店の時はタマゴが10個で10円売っていたのよ。総菜もおいしいしね。どこに何があるか分かっていたし閉店はすごくさびしい」と、サービスで配られた一輪の花を持って思い出を語ってくれた。

営業最終日、空の棚が目立つ
営業最終日、空の棚が目立つ

自宅が倉庫代わり

 小川店は創業者、曽根令三氏(2020年死去)の自宅横に1973年6月にオープンした。店の前には商店街があり市内でも栄えているエリアの一つで、店は連日多くの客でにぎわった。毎年夏の花火大会の時には同店屋上の駐車場を無料開放。立錐の余地もないほどだったという。

花火大会の日に開放された小川店駐車場(提供・田子重)
花火大会の日に開放された小川店駐車場(提供・田子重)

 「当時は家が倉庫代わりになることもあって、お菓子の段ボールなどが置かれていました」と目を細めるのは令三氏の次男、曽根礼助社長。兄の誠司会長とともに店には毎日のように“遊びに”行っていたという。
同店を皮切りに田子重は同市や静岡市を中心に15店を展開。生鮮食品や総菜の店内製造に力を入れ、総売り上げ約368億円(2024年度)の静岡を代表するスーパーに成長した。

小川店建設当時(提供・田子重)
小川店建設当時(提供・田子重)

小川店取り巻く環境変化

 しかし、同店に目を向けると決して順風満帆ではなかった。半世紀以上焼津市民の食卓を支える存在だったが、曽根社長は「売り上げは常に最下位」と明かす。特に2011年の東日本大震災以降、店が立地する地区は海に近く南海トラフ巨大地震被害の懸念もあり、同社によると周辺の人口は10年で25%ほど減ったという。
 買い物を取り巻く環境の変化も大きな影響を与えている。全国スーパーマーケット協会の全国を対象とした調査では、2024年の平日1日の平均客数は1783.0人。2019年の調査1911.5人から5年で約7%減っている。2020年から始まったコロナ禍でインターネットショッピングが定着したことが背景にあるとみられている。同じ期間を比べると平日客単価は209円ほど上がってはいるものの、物価高による仕入れ価格高騰で相殺されているのが現状だ。
 

これ以上は赤字に…

 曽根社長は「赤字ではないので我慢をすれば続けられますが、創業家のエゴで続けてこれ以上客数が減ると赤字になる。そうなると社員に影響が出る。残したい気持ちもあるにはありますが、時代の流れなので仕方がないです。この店があったからこそ成長できた。今後もみんなに愛されるスーパーマーケットを作っていきたい」と将来を見据えた。
 同店の建物は解体する予定だが、その後の活用方法は未定だという。

「愛されるスーパーを作る」と話す曽根社長
「愛されるスーパーを作る」と話す曽根社長