手間かけすぎ!かつお節の製造工程が想像の1000倍大変だった

 味噌汁、お好み焼き、おひたし…。かつお節は和食の味を引き立たせてくれる欠かせない存在です。しかし、身近な存在のかつお節については意外に知らないことが多いかもしれません。「あの、茶色いかったーい塊を、カンナみたいなので削るだけでしょ?」そう思ったあなた。実はかつお節は想像以上にその製法に違いがあるのをご存知ですか?

手火山式かつお節

99%が初耳!かつお節を美味しくする手火山式(てびやましき)製法とは

 かつお節はその名前からもわかる通り、カツオを原料とした保存食品です。食卓に並ぶ時は削られたふわふわの状態ですが、削られる前はとても固く、一説によるとかつお節は世界で最も固い食べ物と言われています。生の状態からかつお節へ変貌を遂げるのには、じつはとても時間がかかっており、短くても1カ月、長い場合はなんと8カ月を要します。

その期間で骨や頭などを取り除く作業、殺菌等を目的とした煮熟(しゃじゅく)、そして最も重要とも言える燻す過程の焙乾(ばいかん)を経て、少しずつかつお節に近づいていきます。普段さらっと料理にかけるだけなのに、こんなに手間暇かけていたなんて…!これらの工程を経て、最後の仕上げ作業やカビ付け・天日干しへと進んでいきます。

「このかつお節ができる過程の中で『焙乾』に注目してほしいです」

 そう語るのは、静岡県御前崎市役所建設経済部商工観光課の増田さんです。

「焙乾は食欲をそそるかつお節の風味が形成される重要な工程です。その手法は複数ありますが、御前崎市には『手火山式製法』があります。手火山式製法は約350年前から続く製法で、かつお節を最も美味しくするとも言われている製法なんです。かつてはかつお節の多くがこの製法で作られていたそうですが、機械化が進んだ今では、日本国内全体で見ても手火山式製法は数えるほどとなっています。」

焙乾されたカツオ

 なぜそんな珍しい製法のかつお節が御前崎市で作り続けられているのでしょうか。その理由には御前崎市とカツオの切っても切り離せない関係がありました。

生カツオ水揚げ量第一位のプライド?こだわりすぎたかつお節

「御前崎市は静岡県内で生カツオの水揚げ量が第一位です。県内でとれる約7割の生カツオが御前崎市で水揚げされたものになります。御前崎市においてカツオは食のシンボルとして親しまれており、生活に根付き古くから愛されてきました」

 御前崎市は内陸部においては静岡県内最南端に位置し、市の大部分が太平洋に面しているという海の街です。黒潮の影響もあって県内有数の漁場が形成されており、カツオのみならず、シラス、キンメダイ、クエなど多くの水産物に恵まれています。その豊富な水産資源の中でも最も注目されているのがカツオになります。御前崎のカツオは水揚げ量だけでなく、味も一級品です。

御前崎漁港

「御前崎でとれるカツオの特徴は一本釣りにあります。網を使った漁では魚にストレスを与えてしまいます。一本釣りされた御前崎のカツオはストレスがわずかのため独自のもちもち感があります」

 御前崎のカツオはブランドカツオとして静岡県内のみならず県外からも熱狂的に支持されています。この水揚げ量、味ともに文句なしの御前崎のカツオを最も美味しいかつお節にするために、手火山式製法は残り続けているのです。

味も価格も一級品!でも、熱い…

 そんな手火山式製法のかつお節を手がけているのがマルミツ鰹節店です。マルミツ鰹節店は創業100年の老舗で、手火山式製法の『本当の味』を守り続けています。しかし、それは決して容易なことではありません。

 「手火山式製法は文字通りに『手』で『火』の加減をはかりながら焙乾していく製法です。かまどに薪をくべ、直火でカツオを燻していきます。最大で130度を超える火と向き合うことになります。カツオが焦げてしまわないように調整するには、職人の熟練した技術が必要不可欠です」

 現在、市場に流通しているかつお節の多くは大量生産です。そして、その場合は手火山式製法のような手作業が必要な局面は少なく、作業において危険が生じることもありません。

 だって、熱いもん…。

 増田さんによると手火山式製法の難しさを表現する言葉があるそうです。

「手火山式製法は最も効率が悪く最も危険な焙乾方法と古くから言われています。高温の中での作業、そして限られた職人の手でしか作ることができないという生産の限界からこのように言われるようになったのではないでしょうか」

 手火山式かつお節の特徴は香りにあります。火の位置が他の製法よりも近いことから燻製の香りが強く雑味のないかつお節に仕上がります。ただでさえ珍しい手火山式製法のかつお節ですが、さらには御前崎市ならではの魅力もあります。

「多くのかつお節は一度冷凍したカツオを解凍して使用しています。その点、御前崎市はカツオどころです。冷凍されていない水揚げされたばかりのカツオで作っています。新鮮なカツオがそのままかつお節となるのです。この点も大きなPRポイントになると思います」

最高のかつお節を食べられる場所は…

 どこをとっても一級品の御前崎市のかつお節。気になるのはどこで手に入れることができるかという点です。市民に話を聞いたところ、複数の声があがったのが、御前崎海鮮なぶら市場。

「なぶら市場はかつお節以外にも御前崎港で水揚げされた海産物がたくさん販売されています。御前崎の海の幸を買うなら、なぶら市場ですね」(御前崎市民)

 また、かつお節の味を堪能するためにご飯に乗せて素材そのままに食べるというのがオススメの食べ方だそうです。御前崎市内では手火山式製法のかつお節を実際に食べられる場所もあります。

「磯料理厨(くりや)では、なまりぶしサラダなど手火山式製法のかつお節を使ったメニューが用意されています。海岸沿いのお店なので絶景のオーシャンビューを楽しめる点もおススメです」(御前崎市民)

 カツオをシンボルとする御前崎だからこその最高峰のかつお節。御前崎を訪れたらぜひ手に取ってほしい逸品です。一度口にしてみたらかつお節の見方が変わるかもしれません。