全国知名度ほぼゼロ!? 幻のびわ、“白びわ”とは

 毎年5月頃から市場に出回り始める“びわ”。あのオレンジ色のふっくらとした姿を見ると、つい買ってしまう人も多いのではないでしょうか?

 しかし、一口に“びわ”と言ってもいくつも種類があります。「茂木(もぎ)」、「大房(おおふさ)」、「田中」などが代表的な品種です。

 その中で、市場にはほぼ流通しない“幻のびわ”があるのをご存じでしょうか。

市場にほとんど出回らない“幻のびわ”。その正体と理由

幻のびわ“白びわ”

 静岡県伊豆市土肥(とい)――。
伊豆半島西部に位置し、温暖な気候。恋愛のパワースポット「恋人岬」などで知られるこの地域に、幻のびわ“白びわ”は存在します。

果肉はまるで桃のよう‥?

一般的なびわは、その名の通り楽器の琵琶に似た形をしていますが、白びわは、ピンポン玉のような形をしています。また、果肉が白っぽいのが特徴で、一般的なびわと比べると、その違いは一目瞭然。

一般的なびわ

では、なぜ“幻”と呼ばれているのでしょうか。

「明治10年頃、当時の静岡県令(県の長官)が、中国の洞庭湖(どうていこ)を旅した友人からびわの種子を譲り受け、静岡県下13郡に配布し栽培を試みました。しかし、実を付けたのは旧土肥町(現在の伊豆市土肥地区)のみ。この地域だけが、栽培に適した気候だったのです。また、明治36年には知事の意向により天皇に献上して賞を頂き、平成11年に旧天城湯ヶ島町(現在の伊豆市天城湯ヶ島地区)で開催された第50回全国植樹祭の際、再び陛下に献上しました。」

こう語るのは、伊豆市土肥支所の吉田基さん。

恋人岬の一部にある白びわ園

その後、栽培面積は増え続け、最盛期には約200戸が栽培するまでになりましたが、昭和34年の伊勢湾台風により壊滅的な被害を受け、栽培農家が激減してしまいました。現在では一部農家が生産しているだけの希少品となっています。

数の少なさだけじゃない。“幻”であるもう一つの理由

ただ数が少ないというだけではありません。
“幻”の由縁はもう一つ。

「“白びわ”は、果汁たっぷりで甘みと酸味のバランスが絶妙なのです。ところが、特に美味しく食べられる期間はほんの少しの間だけ。収穫時期が5月下旬~6月上旬の1~2週間と大変短いことに加え、収穫したそばから品質が落ちていってしまいます」(吉田さん)

 果実も人肌のように柔らかく、とても傷つきやすいため、輸送が難しく、市場には出回りにくいのだそうです。
以前は東京の高級果物店で売られていたこともあったそうですが、やはりすぐに色が変わってしまうため販売が取り止めになったのだとか。

 そのため、現地で食べるのが一番おいしい食べ方。ここでしか食べられない、まさに“幻のびわ”というわけです。

“幻”のはずが地元での知名度はほぼ100%!

一方で、実は地元・土肥の人にとって、この“白びわ”は非常に慣れ親しんだ味なのです。

「土肥の人にとっては、びわと言えば白びわのことを指すことがほとんどです。いわゆる“普通のびわ”を食べる人は少ないと思います。一般的なびわと比べると飛びぬけて甘いとよく聞きますが、これが普通だと思っているので『特別』だと思ったことは無いですね笑。土肥の人にとっては、白びわは一番身近な果物です。」

幻の食材がそれほど浸透しているなんて、うらやましい!

“白びわ”を食べるには…

ここまでくるとどうしても食べたくなりますよね!?そこで、毎年5月下旬~6月上旬に開催される「白びわ狩り」がおすすめです。

「土肥地区の白びわ園では今年、白びわ狩りが開催されます。今年は5月27日から6日間開催予定(5/27、5/28、5/29、6/3、6/4、6/5)で、なんと30分の食べ放題になります。」(吉田さん)

白びわ狩りの様子

 実のなり具合によってはほんの数日のみの開催、または開催しないという年もあるようなので、今年は当たり年なのでしょうか!?

現地でしか食べられない幻のびわ、“白びわ”。一度口にすると他のびわが食べられなくなってしまうかもしれませんが、ぜひ一度食べていただきたい逸品です。