盛り土はなぜ大規模に崩落したのか? 専門家が指摘する「吸水軟化現象」とは 【静岡・熱海土石流災害2年 /責任の所在①】
盛り土の土地の前所有者は盛り土の高さを規制の範囲におさまる「高さ15mまで」と熱海市に届け出ていました。しかし、実際の盛り土はその3倍を超える高さおよそ50メートルに及んでいました。
この盛り土が崩落した原因を調べるため県は、土木や地盤に詳しい専門家などで構成する検証委員会を立ち上げました。
検証委員会「不適切な工法での盛り土造成が一因」と結論
そして、去年9月、検証委員会は「不適切な工法での盛り土造成が土石流の一因となった」と結論付けました。
検証委員会のメンバーで地盤工学が専門の小高猛司教授は…。
名城大学 小高猛司教授:「盛り土が非常に不適切に施工されてまして、排水の設備もない、締め固めもされていないということで壊れたというのもあります」
「吸水軟化現象」とは
それに加えて、小高教授は盛り土の高さが50mに及んだことで、内部の水圧が上昇し、土が急激に軟らかくなる「吸水軟化現象」が起きたと分析しています。
名城大学 小高猛司教授:「50mある。それだけ盛り土の高さが高くなる。そうなるとその底面にかかる歪めるような力というのは大きくなっていきまして、より崩れやすくなる。そういうところに地下水がどんどん入ってきまして、吸水軟化現象というのは起こったというふうに考えています」
これは盛り土の内部の土がどのように変化したのか確かめる小高教授の実験映像です。
土を円筒状にかためたものを盛り土に見たてています。その土に圧力を加えたうえで、チューブから水を与えるとわずかな時間で土が変形していくのがわかります。
その中を見てみると、土はドロドロの状態になっていました。
名城大学 小高猛司教授:「土石流もこういう色の水が流れてきたのが分かると思いますけど」
この吸水軟化現象が盛り土の内部で発生したというのです。
届け出通り「15m以下なら大規模崩落はなかった」
谷の盛り土は高ければ高いほど圧力がかかるので、この現象は顕著に表れると小高教授はみています。仮に盛り土の高さが届け出通り15m以下だった場合、崩落は防げたのでしょうか? 県は今年3月、追加検証の結果をまとめました。その見解は…。
静岡県砂防課 杉本敏彦課長:「15mという届け出の内容で施工していれば大規模な崩落はなかったという認識でおります」
土石流で母・陽子さんを亡くした「被害者の会」会長の瀬下雄史さん(55)。盛り土が15m以下だった場合、大規模な崩落が起きなかったとする県の見解について…。
瀬下雄史さん:「まさしく、人災ということが言えるのではないかと。どうしてそのときに規制ができなかったのかな、結局事業者もそうですけど、行政もしっかりと抑止、是正するような強い気持ちをもっていただけたならば、失う命はなかったのかなと、憤った気持ちになりました」