被害を拡大した『盛り土』…前・現所有者の責任は 県と市は災害を防げなかったのか 原因究明は法廷にも 【静岡・熱海土石流災害2年 /責任の所在②】

 おととし7月3日、静岡県熱海市伊豆山で発生した土石流災害で、関連死を含め28人が犠牲になりました。
岡県 難波喬司副知事(当時):「盛り土が(被害を)甚大化させたことはほぼ間違いないと思います」
 被害を拡大させたのは、土石流の起点にあった盛り土でした。この土地の、前の所有者の責任か、それとも現在の所有者か。行政は、崩落を食い止めることはできなかったのか…。

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前所有者「別荘地を計画した」

画像: 前所有者「別荘地を計画した」

 前土地所有者が土石流の起点とされる土地を購入したのは、2006年9月のことでした。

前土地所有者:「別荘地を計画しようということで購入しました。ロケーション、もう一つは温泉、それと一番重要だったのは、世界の熱海ということ」

 前所有者の会社は、2007年3月、盛り土を造成する計画書を市に提出しました。工事の期間は2008年4月まで。しかし それを超えても、土砂の搬入は続きました。

 2010年8月。県が盛り土の中に産業廃棄物の木くずが混入しているのを確認し、県と熱海市が前土地所有者の会社に撤去を指導。9月には熱海市が土砂の搬入をやめるよう要請しました。それでも前土地所有者が従うことはなく2011年2月、土地が現在の所有者に売却されました。

遺族らは刑事告訴、民事提訴

画像1: 遺族らは刑事告訴、民事提訴

 発災から1カ月余り。起点とされる盛り土付近の土地管理がずさんだったことが、被害を甚大化させたとして、土石流で母を亡くした瀬下雄史さんらが前土地所有者と現在の所有者を刑事告訴しました。

画像2: 遺族らは刑事告訴、民事提訴

前土地所有者:「埋め立てに対しては、実際には携わっていませんから、あくまで当社は許可申請人であり、この管理責任者はうちではありません」  

一方、現在の土地所有者は…

現在の土地所有者
記者:どこに責任があると思いますか?
男性「…」

 「違法な盛り土があったことは知らなかった」と主張する現在の土地所有者。しかし、元部下は土地を購入した翌年、熱海市から盛り土の危険性を指摘する文書を受け取っていました。

現在の土地所有者の元部下:「(現在の土地所有者が)完璧にうそをついているということ、彼が」

 刑事告訴を受け、県警が捜査を続ける一方、遺族らは、民事裁判の場でも責任の所在をあきらかにしようとしています。

被害者の会代表 瀬下雄史さん(2021年9月):「こういった悲惨な事故を二度と繰り返してはいけないということで、行動していかなければいけないと、思いが変わってきた」

 瀬下さんをはじめ、遺族ら84人は、土地所有者らが盛り土を造成し、これを放置したことで土石流が起きたとして前土地所有者と現在の土地所有者らに対して、およそ58億円に上る損害賠償を求めています。

県と市は「責任のなすりつけあい」

画像1: 県と市は「責任のなすりつけあい」

 責任追及の矛先は行政にも…  

遺族らは、県と熱海市に対しても64億円余りの損害賠償を求め裁判を起こしました。現在は併合して審理が行われています。

 去年12月に行われた第1回口頭弁論。遺族らは、県と熱海市が危険性を認識しながら、是正措置を取らなかったり、森林法の適用を見送ったりするなど対応が不適切だったと主張しました。

 これに対し、県と熱海市は請求の棄却を求めました。

県は…
「事業者への指導は熱海市の事務であり、市に是正を求めなかったことは違法とは言えない」

 一方、熱海市は最初の裁判を欠席。答弁書でこう述べました。
「事業者が再三にわたる行政指導に応じなかった。県の条例の罰則の不十分さが原因にある」

画像2: 県と市は「責任のなすりつけあい」

 裁判の後、遺族らは熱海市への不信感をあらわにしました。

母親を亡くした被害者の会 瀬下雄史会長:「災害を引き起こしたのは、常に熱海市の無責任さ、怠慢があって、これが大きな原因の一つになったのではないか。誰一人としてこの裁判に出席していない。熱海市の無責任な体質そのものが一番の問題じゃないかと思っている」