漁港の施設にモニュメント 製作者は新型コロナで帰国できなくなったスリランカ男性 静岡市・用宗漁港
温泉施設にスリランカ人がつくったモニュメント…その理由とは
司会
どうぞ (拍手) 美しいモニュメントが出て参りました
除幕式の会場となった静岡市の用宗漁港内にある「用宗みなと温泉」。地下1000メートルからくみ上げた良質な天然温泉が人気の施設です。温泉施設にスリランカ人がつくったモニュメント。その組み合わせには理由がありました。
CSA不動産 小島孝仁社長:「港って、そう簡単に入ってはいけない場所というイメージがあると思います。港越しに富士山も見える。こういうロケーションを見てもらうための、ひとつのきっかけにもなってくれると思っています」
用宗の新たなシンボルとして作られた鉄とモルタルのアート。船の帆と波、魚が表現されています。作者は、2月にスリランカから観光で来日した、ディルンさん(28)です。
ディルンさんは妻のミニさんの日本語学校の卒業式に出席するため、1カ月の滞在予定で日本に来ました。ところが…。
ディルンさん:「新型コロナが蔓延し、スリランカの空港が閉鎖され、私は帰れずにビザを延長しつづけることになったんです」
「帰国できないとわかったとき、頭は真っ白に」
ディルンさんが日本に来た2月。この頃、新型コロナは中国の一部地域で流行していただけでした。しかし、1カ月間で世界中へ一気に拡大。各国が出入国を禁止するなど渡航制限をし、厳しく管理しました。
ディルンさん:「帰国できないとわかった時、驚いて頭が真っ白になりました」
ディルンさんの妻、キトゥミニさん、愛称・ミニさんは今年、用宗にある不動産会社に就職した新入社員です。現在、会社が運営する古民家を利用した宿泊施設で働いています。
子どもの頃から日本に憧れていたというミニさん。スリランカの大学を卒業後、単身で静岡市の日本語学校へ留学。今の会社への就職を決め、日本で暮らす夢をかなえました。
ミニさん:「日本に行くことがうれしくて、私、夢の国に行けるんだと思いながら行ったから、その時私はあまり寂しくなかったけど、ディルンの方が寂しいと思います」
ディルンさん:「2人が離れ離れで暮らすのはもう限界でした。サビシカッタデス」
大学時代から交際していたディルンさんとミニさん。ミニさんの仕事が忙しくなる前に、母国で結婚式を挙げました。いつか一緒に暮らすことを願いながら。
社長「天才的なアーティストと」
小島社長:「職場で会ったときに、旦那さんはスリランカではどんな仕事をしているのって聞いたら、インテリアのデザイナーをしていると。写真を見せていただいたら、単なるインテリアデザイナーではなくて、天才的なアーティストだなと」
ディルンさんが作るのは壁一面を使ったアート。木材や金属を使った作品は芸術性にあふれています。最近は部屋に滝を作ったそうです。その感性は写真でも発揮。大学時代に15校ある国立大学間の大会で優勝した実力者です。
小島社長が7月に亡くした愛犬の像も製作しました。大切な家族を失った小島社長を元気づけようと写真を見ながら像にしました。
小島社長:「(ディルンは)内に自信を秘めているんですけど、すごく礼儀正しくて謙虚で優しい男だなって思いました」
ディルンさんの才能と、優しさに心を打たれた小島社長。あるお願いをします。
小島社長:「(母国で)比較的大きなものをつくっていたので、かねてから用宗で用宗らしい風景に、ひとつモニュメントが欲しいなって思っていた。そういうものを造れるか相談をしました」
「魚と船の帆」がテーマの作品
デザイン画の検討を重ね、決定したのが「魚と船の帆」がテーマの作品でした。日本語が話せないディルンさんでしたが、小島社長の会社の手助けもあって材料を揃えました。そして、制作開始から約1カ月、作品を完成させました。
ディルンさん:「これは私にとって日本で初めての作品です。初めてですが、私にとって大切なものになりました」
作品完成はゴール。ではなく小島社長には考えがありました。
小島さん:「ディルンにはね、できればこのまま日本に何年か残ってもらって、ミニさんと一緒に働いてもらいたいと思っています。だからディルンの就労ビザの申請をしてるんです」
ディルンさん:「ありがとうございます」
ディルンさん:「以前から夢に思っていたことは2人で暮らすこと、それがいま叶いそうなんです。私の作品はスリランカ様式のアートと日本の建造物、日本とスリランカが出会って生まれたものです。ぜひ多くの方に用宗に来て、写真を撮ってもらえればと思います。2人の未来に一度は影を落とした新型コロナ。その苦境がなければ、生まれなかった縁。モニュメントには夢や希望が詰まっています」