お盆休み 富士登山もピークに 弾丸登山や軽装の外国人登山客も
8月に入り、本格的な登山シーズンを迎えている富士山。なかでも、1年で最も登山客が多くなるのが、8月中旬のお盆休み期間です。
●東京からの登山客:
「山好きの人が集まるバーがあって、そこで知り合った人たちと毎年富士山に登っている。外国人の方も多いと聞くので混んでないといいなと。」
今年は開山から1カ月あまりで、静岡側・山梨側合わせて7人の登山客が亡くなっている富士山。静岡側での死者数はすでに去年の倍と、これまでにない異常事態となっています。富士登山の現状は一体どうなっているのでしょうか。
こちらの羽田(はねだ)さんは、富士山ガイド歴14年目のベテラン。
そんな山登りのプロが率いる今回のツアー客は、およそ8割が初めての富士登山。
今回のツアーには羽田さん以外にもう一人別のガイドが付き、2人体制で富士山の山頂を目指します。
●富士登山ガイド 石田元志さん:
「(9合目山小屋)万年雪山荘目指して頑張るぞー!皆)おー!」
午後1時すぎ、いよいよ登山開始です。
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「足の幅ね、ゆっくりゆっくり。忍者が屋根裏で歩いてるみたいにゆっくりゆっくり。
Q序盤に意識することはペース配分?
「そうですね、ペース配分が一番大事。あとは皆が深呼吸をきちんとできているかどうか。普段の日常生活の歩くペースの半分ぐらい。足の歩幅ぐらいのペースでとにかく落としていく。」
富士登山で重要なのが、同じペースで登り続けること。
●ツアー客(息子):
「父です」
Qおいくつですか?
「今年で80歳ですね」
●ツアー客(父):
「まだ79歳。80前に登ろうと思って。区切りがあるじゃないですか、体力がある限り。きょうがラスト(チャンス)だと」
長年の夢だった山頂からのご来光を見るために、80歳目前で富士の頂に挑む桃井(ももい)さん。大阪から参加した今ツアー最年長者です。
●桃井さん(息子):
「うちの妻と息子と(一緒に)」
Q息子さんはおじいちゃんと登っている?
「そうです」
●桃井さん:「3世代なんですよ(笑)」
息子夫婦と孫と共に、親子3世代で頂上を目指します。
●桃井さん(孫・27歳):
Qおじいちゃんと富士登山はどうですか?
「すごいですよね」
●桃井さん(息子):「感慨深い?」
●桃井さん(孫):「感慨深い(笑)」
●桃井さん:「バカ言うなよ~(笑)お世辞やぞ~(笑)」
多くのツアー客が6合目の無事到着を喜ぶ一方、山小屋前の状況はというと…。
多くの登山客が溢れかえり、すしづめ状態に。羽田さんも、このお盆休み期間は、特に人の増加を感じているといいます。
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「実際、登山道に行くとこの時期はもう詰まってしまう。安全上詰まって立ち止まると体が冷えちゃったりとか、そういう風に考えると少し(登山客が)多いかなと。」
6合目を出発してすぐ、羽田さんの目つきが変わります。
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「あれやばいね。あれはもうまさに軽装登山。荷物ほとんど持ってないでしょ。“観光地ノリ”ですよね」
視線の先には、軽装でくつろぐ外国人登山客の姿が。
●外国人登山客:
Qどこから来た?「フランス」
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「ここはまだ標高が低いですけど、上の方では彼らが助けを求めたりするので、それはかなり問題だと思う」
Q数は多い?
「多い多い。僕らも啓発はするがずっと追いかけるわけにはいかないので、かなりもどかしい」
今年の富士登山が例年と異なるのは、山梨側と静岡側の入山規制です。山梨側では1日の登山者の上限を4000人として、通行料2000円を徴収。さらに、午後4時以降は登山道が通行止めとなります。
いっぽう、静岡側は任意の協力金と、事前登録システムを使った登山計画の提出のみで、山梨とは対照的に、強制力を伴わない「要請」でしかありません。
静岡側では、いわば“観光のついで”に入山できるとあって、取材中も軽装登山の外国人を多く見かけました。
疲労はピークに
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「はい。新7合目!おめでとうございます」
順調に進んでいるように見えた一行。ところが、ここで予期せぬ事態が発生します。集団の中で、立ち止まっている女性の姿が。
●大学の同級生と参加 小田島美優さん:
「サーッと・・・ 貧血症状が」
めまいを起こしたようですが、休憩後は笑顔も見られ、何とか落ち着きました。ペースが比較的ゆっくりな、先頭集団に移動します。
●ON 大学の同級生と参加 小田島美優さん:
「過酷ですね。もう早くもなぜ富士登山を提案したのかと」
Q後悔している?
「はい・・・」
標高3000メートルを超え、疲労はピークに。羽田さんが声を掛け、ツアー参加者を鼓舞します。
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「大丈夫、右足と左足交互に出してれば着くから、これがコツ。
●ツアー客:「確かに。」
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
Qずっと声掛けをしているが?
「皆が元気なくなってきているので、静かになればなるほど僕はしゃべり続ける」
そして、出発からおよそ6時間後…。
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「おめでとうございます!やったー!元気元気!おめでとうございます!
1人の脱落者も出すことなく、ツアー客全員が標高3460メートル、目的地である9合目の山小屋に到着しました。
●女性:「あ~登った登った」
「オリンピック選手でもないけどオリンピック選手ばりの感動があるよね」
「ある、まだ9合目だけど」
●桃井さんの息子の妻:
「お義父さんやったー!
桃井さん:「ハイタッチ―!イエーイ!」
孫):「イエーイ!」
山小屋到着の後は、待ちに待った夕食タイム。ふるまわれたのは、こちらの山小屋で一番人気のカレーライスです。ツアー客たちは夢中で頬張っていました。
●大学の同級生と参加 小田島美優さん:
「こんなうまいカレー初めて・・・」
一方で、深夜1時前の山小屋の前には…。山小屋の予約が取れなかったのか、地面に腰掛け、傘で風や寒さをしのぐ登山客の姿も・・・。
羽田さん率いるツアー客も出発時間に。
無事山頂に
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「頑張れー!」
●皆:「頑張れー!」
「止まらず行くよ!ゆっくりでもいいから動いて!」
夜間の登山は昼間と違い、周囲を照らすのはヘッドライトのわずかな光だけ。
空気も薄く、強風と寒さが一行に容赦なく襲いかかる中、ついにその瞬間が…。
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「おめでとうございます!」
午前3時半すぎ、無事山頂に到着しました。
●桃井さん:「無事に到着しました。
Q登り切ってどう?
「いやー、疲れた。でも達成感がある。夢だったからね」
●女性3人組:
「いや、まだ実感がない。明るくなってほしい。剣ヶ峰まで行きます!」
およそ1時間後には、日本最高峰の富士山剣ヶ峰にも無事到着。そして、登頂したメンバー全員、待ちに待ったご来光が…。
●大学の同級生と参加 後藤 栞さん:
「最高。頑張ったかいがあった。涙が出そうで(登山が)過酷すぎて出なかった(笑)。でもうれしい、見られて本当にうれしい。でも涙出ないです、すいません。」
●桃井さん:「苦労したかいがあった。」
Qこれで無事80歳を迎えられる?
「ばっちり。」
●富士登山ガイド 羽田明史さん:
「最後はだいぶ限界な人がいたが、不思議なもんでご来光を見たら皆元気になる。きょう来た人たちがメッセンジャーになってもらって、こんな景色あったよと、日常と違う世界に触れられたというところを一人一人に伝えてもらえたらいいなと。その経験を僕らが後押しできたらいいなと思っている。」