宮城・石巻市から避難した夫婦 静岡での10年とふるさとへの思い
宮城県石巻市で被災した藤原清一(きよかず)さんと妻のたけ子さん。震災の10日後、津波で家を失った二人は宮城県石巻市から、介護の仕事をしている娘を頼って静岡市にやってきました。その後、行政の支援を受け市営住宅に入居。見知らぬ土地での生活が始まりました。
10年前の記憶
あれから10年、現在は経済的な自立も果たし、静岡への愛着も増してきたようです。
石田和外アナウンサー:「この10年の生活は?」
妻・たけ子さん:「あっという間。いいですよ、静岡は皆さんもよくしてくれるし、あったかいし、雪がないのが」
玄関には、10年前の記憶が大切に残されていました。静岡市に避難してきた時に履いていたサンダル。
妻・たけ子さん:「履くものない(津波で)流されちゃって。10年目、捨てられない。(どんな思い?)一緒だもん苦労したの」
夫婦にとっての決断
9年前 妻たけ子さん:「子どもたちが心配して、ぬかるみを歩いてきてくれた。おにぎり持って水背負って、顔見てお互いに泣きそう。生きていたって」
震災から10年が経ち、石巻も復興が進んでいます。しかし2年ほど前に石巻に戻る機会があった二人は、ある決断をしたといいます。
夫・清一さん:「何にも見る気にならなかった 見るのは嫌だという感じだった。私の建てた家が草ぼうぼうに生えていて。いろいろ周りの人に聞いたら、なかなかうまくいかないようだし、もうあきらめようと。静岡の住民になったほうが手っ取り早い」
新しい家族も
もう石巻には戻らないと決め、本籍も静岡市に移した二人。去年の秋、新しい家族もできましたといいます。
(メダカを見せる)
夫・清一さん「お前たちも映るんだって。新しい家族? 新しい家族。朝8時ころになるとここにきて、3匹で口パクパクして。かわいい。妻遊び相手」
きょう、3月11日
そしてきょう、3月11日。二人は、静岡で支えてくれた仲間の元を訪れていました。震災避難者を中心に20人ほどのメンバーで作った「しずおかおちゃっこ会」。この10年、月に一回のイベントを続け、3月下旬が116回目になるといいます。
きょうは、10年の節目に2000個のLEDキャンドルをともすイベントを行います。地元の高校生も集まりキャンドルを並べていきます。藤原さん夫婦もキャンドルに思いを書き入れます。
夫・清一さん:「南海トラフが来ませんように。あんなもの来なくたっていいよ。本当に私らもこの世の生き地獄を見たもん」
そして午後2時46分。
「黙祷」
妻・たけこさん:「まだ亡くなった方見つかっていない方、たくさんいるので、早くご家族のもとに帰れればなと思って。これからはなったことは仕方ないから、前向きに生きていくだけ、静岡で」
「明るく楽しく?」
「そうそう。お友達もできたし」
夫・清一さん:「若い人たちにできるもんだったら、代わってやりたかったっていう気持ちはあったね。まだまだこれから人生ある人たちのほうが、よっぽど良かったんじゃないかなと思って。でもこうなってしまった以上は、どうにもならないし、あとは2人で楽しく生きていくほかないなと思って」