菅総理は中小企業の再編促進を指示…静岡・沼津市の会社社長「正論だが、納得できない」
静岡県沼津市にある富士根産業。資本金8000万円、従業員170人。空調機の部品製造が9割を占めています。 鈴木清文社長:
「ここは、冷凍サイクルの組み立て現場。お客さんから支給していただいた部品を組み立てて、それを配管で接続している」
富士根産業のような中小企業は国内企業全体の99.7%を占めています。その「中小企業」の在り方が大きく変わる可能性がある政策を、菅総理が掲げました。
梶山弘志経済産業大臣: 「中小企業の再編促進など、中小企業の生産性を向上させ、足腰を強くする仕組みを検討することなどについて、(総理から)ご指示がありました。例えばM&Aがしやすくなるような仕組みづくりであるとか、また企業の紹介、マッチングの仕組みづくりであるとか」
「淘汰という言葉はショッキング」
国内企業の99.7%が中小企業
「中小企業の再編」。雇用の7割を占める中小企業の再編を進めることで、競争力を強化するのが狙いです。 富士根産業の鈴木清文社長は、その言葉に戸惑いを感じています。
鈴木清文社長:
「中小企業再編・淘汰。淘汰という言葉がね。本当にショッキングですよね」
キーマンの持論は「中小企業淘汰論」
中小企業再編のキーマンとされるのが、菅総理のブレーンといわれている元ゴールドマン・サックスの証券アナリスト・デービッド・アトキンソン氏です。
外国人旅行客を拡大するよう菅総理に直接アドバイスした火付け役で、過去にはこう持ち上げられたことも…。
菅義偉総理大臣(去年4月): 「私はアトキンソンさんの言う通りに今やっているんです。そうしたら言うとおりになってきているのです」
そのアトキンソン氏のもう1つの持論が「中小企業淘汰論」。
「中小企業が日本経済停滞の原因」として、「生産性の低い企業を半分程度に減らすべき」と指摘。「毎年5%程度の賃上げが望ましく、対応できない企業は淘汰されればいい」という考え方です。
その結果、競争力のある企業に集約されて、設備投資などが進むことで、経営の効率化も期待できるとしています。
「正論だが納得できない」
鈴木清文社長 「われわれも普段、生き残るために何をしていったらいいか、常に考えています。やはり生産性を上げること、無駄をなくすこと。これからどういう仕事をやっていかなければならないのか、まさしく、デービッド・アトキンソンが言っていることですよね。正論だと思う。正論なんですよ。理解できる。ただ正直、納得はまだできない」
「正論だが、納得はできない」。こう漏らす鈴木社長。
鈴木清文社長
「中小企業が淘汰されても、自分は雇用が淘汰されなければいいのではないかという考え方ですね。結局企業淘汰、雇用淘汰だったら本末転倒ですよね。何のための国なの政府なのとなる」
静岡経済研究所によりますと、県内には12万の企業があり、そのうち、11万9800社、99.8%が中小企業です。「中小企業の淘汰」は地域経済や雇用に深刻な影響を及ぼす懸念もあります。
静岡経済研究所 大石人士シニアチーフアドバイザー
「今、生産性ということが問われていますので、大企業はそれなりの生産性を上げていると思うが、中小企業の生産性は十分に上がっていない。これを上げていかないと、いわゆる賃金の問題もなかなか引き上げることができない。これは時代に合わせた形に中小企業も変わっていかなくちゃいけない」
専門家は、中小企業の再編が生産性を上げる1つの手段とした上で、次のように話します。
静岡経済研究所 大石人士シニアチーフアドバイザー
「時代に合わない企業が、やはり淘汰というか、退場しなくちゃならない、そうした結果として企業が減ってくることはあると思う。ただ、それによって、雇用の問題も関係してきますので、言葉通り、一気に淘汰ということはできないと思っています。自分の会社だったらどうするのか、地域だったらどうするのかというところをみんなで考えてほしい。(中小企業淘汰論は)たぶん呼び掛けている という、このままいくと淘汰してしまいますよということを言っているのではないか」
170人の従業員が働く富士根産業。中小企業を再編するならば、どのような形で進められるのか。動向を注視しています。
鈴木清文社長:
「自分はM&Aは、これからもっと活発にやるべきではないかと思っている。小さい中小企業と中小企業を合併させたら、違うものができる。1+1が2じゃなくて、3になれるものがあるかもしれない。あとは手段だと思う。それをどういう形でやっていくか。エンジン、スイッチを入れて、動き出すのは自分たちであるべき。そこで後ろで、押してくれるのか、ガソリンを補充してくれるのか、それが、政府であり、国であり、の仕事ではないかと思う」