【リニア】過去には住民運動も…「水利権」ってなに? 大井川の水『全量戻し』田代ダム案のキーワード 静岡
コメ農家にとって欠かせない「水」
静岡・焼津市の米農家 村松哲彦さん:「個人的には、今ある山に穴をあけてほしくないなというのが本音です」
焼津市で米農家を営む村松さん。村松さんにとって「水」は欠かせないものです。
村松哲彦さん:「当然、大井川用水が田んぼに入るにあたって、取水制限みたいなものは毎年あるが、それをフルに使っておいしいお米を作りたいと思っていますので、大井川用水が万が一減るとか、そういった場合、おいしいお米が作れるのだろうかという心配はある」
「水利権」とは
今、この大井川の水をめぐって注目を集めているキーワードがあります。それが「水利権」です。
リニア工事で県が求めている「全量戻し」の案としてJR東海が提案している「田代ダム案」。大井川の最も上流部にある「田代ダム」は、東京電力のグループ会社が管理し、大井川から取った水を発電のために山梨県側へ送っています。
この水を使用する権利を「水利権」と言います。つまり大井川の水を使用する権利を東京電力が持っているということです。田代ダム案はリニアのトンネル工事で山梨県側に流れ出た水と同じ量だけ、ダムで取る水の量を減らし、大井川への影響をなくそうというものです。
東京電力が示した条件の一つに「水利権に影響を与えない」
3月27日には大井川流域の市や町、県などが集まる会でJR東海が説明をし、東京電力側と協議を始めることについて理解を求めました。
JR東海 中央新幹線推進本部・澤田尚夫副本部長:「この3つの条件は東電から言われている条件。向こうからこういうことを確認してほしい、こういうことで理解してほしいと言われている」
田代ダム案を進める上で、東京電力側から示されたという条件は3つ。「トンネル工事中のおよそ10カ月間に限る」こと。さらに「県内でのボーリング調査に伴う水の流出への適用も含む」こと。そして「東電側の水利権に影響を与えない」ことです。
藤枝市 北村正平市長:「大事なことは必要な時に必要な水があること。県外に流出する湧水を途切れることなく大井川に戻していくという考えを確認したい」
JR東海中央新幹線推進本部 澤田尚夫副本部長:「1日ごとに戻すのは運用上、現実的ではないと思う。決めるにあたっては、(関係者の)意見や事情を聞きながら進めていきたい」
参加した市長や町長、利水関係者の多くは条件に理解を示し、JR東海へできるだけ早く東京電力側との協議を始めるよう求めました。一方、県は…。
静岡県 森貴志副知事
「3つの要素については、まだ修正の余地もあると思うし、会員全てがそろっておらず会員全ての意思が示されていない」
流域市町の意向とは違い、態度を保留しました。その背景の1つが「水利権」です。
過去には住民運動に発展
静岡・川勝平太知事(3月28日):「この取水抑制案は検討の余地がある。前提条件の文言について明確ではないものがあるので、そうした文言の修正なども行って、JR東海と調整後に意思表示をしたいと考えている。水利権と関係ないと言われても、それが本当に関係ないかどうかはJR東海が関係ないというのとは別にして議論するべきもの」
県が「水利権」にこだわるのには過去の経験があるからです。大井川では明治以降に水力発電用のダムの開発が盛んになり、次第に河原砂漠と呼ばれるほど水が減ってしまいました。
1980年代には、住民などによるデモ活動、いわゆる「水返せ運動」が始まります。中部電力の「塩郷ダム」が出来たことで大井川の水が枯れ、住民らがデモ活動を起こしました。こうした活動もあり、住民側は毎秒3トンの水を取り戻しています。
「水返せ運動」を発端とした動きは、上流部に位置する田代ダムにも及びます。2005年に当時の石川知事が東京電力を訪れるなどして協議。結果的に季節によって流量を変える事や、水利権の更新期間を30年から10年に短縮するなどして妥結しました。
川勝知事「水利権は非常にデリケート、重要な問題」
JR東海は田代ダム案による東京電力側の損失を補填する意思を示しています。こうしたスムーズな流れについて、過去に時間をかけて協議を続けてきた静岡県側は疑問視しています。
静岡・川勝平太知事(3月28日):「この水利権というのは非常にデリケートというか、重要な問題。だからこの件について、軽々に水利権と関係ないというには少し詰めなくてはならないという認識を持っている」
水問題の打開策の1つとされている田代ダム案。結論が出るのにはまだまだ時間がかかりそうです。